第4話 キメラ少女との思い出の地へ
おやつ配信をお休みして、私は九美果ちゃんと出会った孤児院、通称ダンジョン孤児院へとやってきた。
ダンジョン孤児院と呼ばれるだけあり、さまざまなダンジョンが関連する理由で親や家族を亡くしたような子たちを引き取っていた施設だ。
ここの先生が熱心で、行く当てのない子を引き取っては丁寧にケアしていた印象がある。
親を亡くしたトラウマからか他の施設では馴染めなかった子たちも、ダンジョン孤児院では元気にしているという話も聞いたことがある。
いや、だった。か。
同じ場所へ来たはずなのに、見える景色に見覚えがない。全く知らない場所になっていた。
「何、これ……」
そもそもの話、孤児院として運用されていたプレハブ小屋がどこにも見当たらないのだ。
自然の多い、山を切り開いて建てたような孤児院が、完全に自然へ逆戻りしている。
かつてプレハブ小屋の建てられていた場所には草が生い茂っていて、建物を囲っていた柵の残骸一つ見られない。
「え、ここであってるよね?」
いくら見比べてみてもスマホの地図に誤りはない。なのに、今の場所に面影はない。
まるで、建物が立つ前を再現したと思えるほどの現状を前に、私の思い出すらなかなかよみがえらない。
「後始末屋時代から色々とお世話になって、今の私がダンジョン私塾で自衛できる人を育てようと目指したのもここがきっかけだったのに……」
こんなことになっているなんて全く知らなかった。
潰れるなんて話、一回も聞いたことなかったのに……。
「そうだ。施設がなくなっていても、働いていた人なら何か知っているかもしれない」
自分に言い聞かせるように声に出しながら私はスマホを取り出した。
試しにここが孤児院だった時に知り合った先生へ電話をかけてみる。
「……ダメだ。出ない」
まさかここまで何もないなんて……。
九美果ちゃんがキメラになったヒントが得られるかと思ったけど、これじゃあどっちが先に起きたのかもわからない。
ただ、この景色は明らかにおかしい。九美果ちゃんの件だけでなく、何かが起きたことに間違いない。
でも、見ただけじゃ何もわからない。何か知っているらしいクバちゃん、獅子狼さんを頼る手もあるけど、まずは自分でできることをやり切りたい。
九美果ちゃんから逃げずに向き合わないといけないってことかな。
ドローンが壊れていることもあり、私は配信をつけずにダンジョンへと向かった。
魔力の癖を把握したので九美果ちゃんはすぐに見つかった。
「何? 二度と来ないでって言ったじゃん。日本語わからないの? 噛子お姉ちゃん」
「名前、覚えててくれたんだ。嬉しい」
「……別に」
ようやく呼んでくれた私の名前に喜ぶもすぐさま九美果ちゃんは私に背を向けた。
「別のフロア行く」
「その前にダンジョン孤児院のことについて聞きたいんだけど、何か知らない?」
まるで聞かれるとをわかっていたように、九美果ちゃんはただ立ち止まった。
「言いたくない。聞きたいことはそれだけ?」
「やっぱり、何か知ってるんだよね。跡地に何もなかったもの」
「……何も、なかった?」
振り向く様子を見せなかった九美果ちゃんは、私の言葉を聞いて勢いよくこちらを振り返ってきた。
その目は驚いたように大きく見開かれている。焦りを隠すためなのか無理に作った笑顔のままで確かめるように聞いてきた。
「孤児院のあった場所に、何も、なかったの? そんなはず……だってわたしが…………したのに」
「うん。何もなかった。このことについて、何か心当たりはないかな?」
「…………、きっと、わたしのせいだ。わたしが……」
「私のせいってどういうこと?」
聞かせるつもりはなかったのか、失敗したという顔を少しの間動きを止めると、九美果ちゃんは再び私に背を向けた。
「噛子お姉ちゃんには関係ないでしょ」
「待って!」
走り出そうとした九美果ちゃんの手を、今度はためらわずに掴めた。だが――、
「やめて。離して!」
九美果ちゃんの腕が鎌へと変わると力いっぱい振り回された。
私の腕を振り払おうとしたのだろう。紙で切った時のような少しの痛みが手のひらから伝わってくる。
「あ、ごめ……」
「大丈夫だよ。ね。私を遠ざけようとしなくていいから。私は本当に今の九美果ちゃんのことも好きだよ」
「好きだなんて、そんな……」
私の手を見て固まる九美果ちゃん。その目は今、鋭い鎌状の腕を掴んだままになっている私の手に注がれていた。
「痛く、ないの……?」
「これくらいヘーキヘーキ。私は探索者だよ?」
ケラケラ笑い飛ばす私を見て、九美果ちゃんはうつむいた。
かつてダンジョン孤児院時代にそうしていたように、人から見られないようにクスッと笑ってくれた気がした。
「ね。九美果ちゃんが見たら、何かわかるかもしれないし、孤児院があった場所へ一緒に行ってみない?」
私の提案に九美果ちゃんは渋い顔で顔を上げた。
だけど、しばらくうなった後、根負けしたようにうなずいてくれた。
「……いいよ。噛子お姉ちゃんがそこまで言うなら」
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