第12話 キメラ実験の真実
スキル強者の獅子狼さんは本人のスキルを活かしたテレポートで移動してくれた。
やってきたのはどこか暗い場所。
明かりがほとんどないせいでどこにやってきたのかはよくわからない。
ただ、魔力の薄さからダンジョンではないように感じる。それでも、ダンジョンの外でありながらダンジョンみたいにほこりっぽい場所って感じだ。
まるで、長い間掃除をしていないようなカビっぽい臭いが室内を満たしている。靴裏の感触もどこか屋外のように砂っぽい。
「すいません。こんなところで」
獅子狼さんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「いえ、大丈夫です。ただ、ここに先ほどの話にあったものがあるんですか?」
私が聞くと獅子狼さんは深々とうなずいた。
「そうです。そして、こんな空気でないと魔力の維持が難しくって、保護できないんですよ」
「保護……? 保護するなら、そもそもどうしてこんな環境にする必要があるんですか?」
「それは……、ワタシが口で説明するよりも見てもらった方が早いと思います。もうすぐわかりますよ」
獅子狼さんの言葉に、なんとも言えない胸騒ぎがした。
理由はわからない。けれど、探索者としての勘みたいなものだ。
ただ、覚悟を揺さぶってくるような不安感が先を見るなと言っている気がする。
そして、この感覚は私だけじゃなく、九美果ちゃんも同じだったみたいで、私に密着するように体を寄せてきた。
しばしの間、明るさに目が慣れるくらいの時間で、その予感は的中したらしい。
「ガシンッ! ガンッガンッ!」という、まるで金属が強引に叩かれるような鈍い音が少し遠くから響いてきた。
その大きさにくっついてきている九美果ちゃんがビクッとして、一緒にビクッとしてしまった。
意識に反して私の目は今いる場所から先に通路が続いていること、そして、反射的に魔力を探知した結果、何かがその先にいるということに気づいてしまった。
「この先に、いったい何がいるんですか?」
「聞こえましたよね。ついてきてください。それが、今回見てもらいたいもの、いや、人です」
「人……?」
私は少し怖くなって九美果ちゃんのことを見下ろした。
視線と視線がぶつかった瞬間、九美果ちゃんの瞳が鋭く私のことを見つめていることに気がついた。
九美果ちゃんは多分、怖がっていない。
それ以上にキメラという存在をより知った私がどうなるか、試すように見返してきているような気がした。
話の流れからしても、この先にいるのはキメラにされた子。
もしかしたら、ここまで会ったキメラの子たちよりも何か重篤なのかもしれない。そしてそれが九美果ちゃんには理解できているのかもしれない。
「……行こう」
私はためらいつつも九美果ちゃんの手を握った。
そして、その手を引いた。
「うん」
九美果ちゃんがうなずいたのを見て、私は覚悟がブレないうちに通路を進んだ。
案の定、道の先には檻があった。音の正体はどうやら鉄格子だったらしい。
そして、中には人の姿……、いや、人型の何かがいた。
キメラはキメラなのだが、ただそれは、九美果ちゃんや九美果ちゃんの友だちの子たちと明らかに様子が違う。
まるで二足歩行している牛のような人の面影が少ないキメラだった。
「これって……モンスター化が進行してるってこと……?」
痛々しそうに顔を歪めて獅子狼さんは首を左右に振った。
「逆です。そもそも、モンスターに人を使って作ったキメラなんです」
「モンスターに人を!?」
「……」
檻の中からじっと恨めしそうに見てくるキメラの子は表情だけ見たら人だ。
それでも体調が悪いような荒い呼吸はどこか動物的な印象を受ける。
九美果ちゃんだって犠牲になっていることに変わりはないけれど、まるで材料のように人が使われた現状が理解できても受け入れたくない。
「どうしてこんなこと……そもそも、キメラなんてものなんで考えようとしたんでしょう」
「……彼らは魔力を持たず、魔力を恨み、人もモンスターも関係がない世界にしようしているようです」
「人もモンスターも関係なくなればいい……」
今まで見てきたキメラの子たちだけでなく、目の前にいるキメラの子を見れば、人をモンスターにするだけでなく、モンスターを人に近づけているようにも思える。
それは確かに、人もモンスターも同じ存在になるのかもしれない。
けれどそれは、これまでの生活も否定していることになる気がする。
「今は落ち着いていますが、この子も他のキメラと変わらず、魔力の供給を受けなければ消えてしまいます」
「そんな……、じゃあ、皆ダンジョンで暮らせと?」
「……そこまではわかりません。ただ、集めた資料からは、そうとも受け取れます」
「それで魔力の維持を……」
「はい。ここはダンジョンの環境を再現していますから、この子が生きるくらいの魔力はあります。檻の中にいるのは、時折暴走してしまうから檻の中に入れてくれと。冷静なら話せるんですけどね。今は無理みたいです」
キメラの一件はてっきり人が改造されているだけなのだと思っていた。
それはそれでどうにかしなくてはいけない問題だと感じていた。
けれど、どうやら問題は人だけにとどまらないみたいだ。
「ワタシたちは早く被害者を減らすため、改造作業を実施している施設の中で特定できている場所を強襲する作戦を考えています。決行は一週間後。ギルドの許可も得ているので余裕を持ってアジトを潰せ……すいません。緊急の連絡が入ってしまって」
「どうぞ」
突然の電話に、話をさえぎられてしまった。
悪寒がした。
電話の瞬間に訪れた虫の知らせだけではない気がする。ここまでの話を処理できていない、というのが正直なところだ。
何もわからない。どうしてこんなことになっているのか。
特定の少数が被害を受けているだけじゃなく、水面下で話は大きく進んでいただなんて。
「九美果ちゃん」
「あの子はわたしと一緒だよ。同じキメラ。それでも、噛子お姉ちゃんはわたしと一緒にいてくれるの?」
「もちろん」
間髪を入れずに言えたと思う。目を見てはっきり言えたと思う。
九美果ちゃんといたい、この気持ちに変わりはない。
私が大切にしたいのは九美果ちゃんだけど、たとえ今檻の中にいる子と同じ状態だったとしても、私は同じことをしたはずだ。
戻ってきた獅子狼さんは何やら焦っていて、引きつったそれでも真面目になろうとしているような不自然な笑みを浮かべていた。
「すいません。決行が今日になりました。一部のアジトで異様な動きが確認されているみたいで、何やら強力なキメラ改造の魔力を感知したらしいんです。待機させている人員は揃っているのですけど、可能ならお力をお借りしたく」
「ぜひ」
「やってもらえるんですか?」
「もちろん。ね」
「うん。やる」
九美果ちゃんと私を見てから、獅子狼さんも大きくうなずいた。
「ありがとうございます。場所はさっきのところ」
「「ダンジョン孤児院跡地!?」」
「はい。あそこの地下にはまだ研究施設が残っているらしくて、行ってもらえますか」
何もないと思っていた場所に悪の根源があった。
そんな状況で断る理由もなく、私たちは一緒にうなずいた。
それから私たちは作戦決行の時間に備え準備のために家へと帰った。
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