第11話 獅子狼苦針 正体
ダンジョン孤児院跡地で私たちのもとへやってきたのは大人気配信者の獅子狼苦針さん。
紫色のロングヘアに高校の制服を改造したような姿。どうやら配信で使用している格好のままやってきてくれたみたいだ。
改めて、私を取り上げてくれた理由を調べてみたところ、どういう訳かキメラの件が理由らしい。
昨日だけで急に私のチャンネルが伸びたのはこの獅子狼さんのおかげだ。
ただ、私としてはこの流れに疑問が残っていた。
九美果ちゃんのような元々人間だった人が改造されてキメラになっている件。これは、今までほとんど情報が明るみになっていなかった。
それを以前から知っていたかのように取り上げたのはおかしいんじゃないか。
実際、獅子狼さんは怪しさ満点でやってきた。
やってくるなりほほを引くつかせる異様なニヤつきを顔に貼り付け、私たちの前に現れた。
その顔に九美果ちゃんは引いてしまって、今では隠れるように私の背後から出てこないほど。
「あの人、多分信用できないよ」
「うーん……」
そうなのかなぁ。
どういう訳か、普段の配信における視聴者とノリのいいかけあいをしている姿とは全く違う人物像だ。
たしかに何か裏がありそうな感じはする。
それでも、今の状況を仕組んだとか、そういうタイプの企みではない気もする。
とはいえ、気持ち悪い表情をしているのは事実。
獅子狼さん、九美果ちゃんには完全に警戒されちゃってるな。
「あの獅子狼さん」
「ひゃっ……うわぁ、かみちゃに名前呼ばれちゃった。どうしよ。ワタシ今日死ぬんか?」
「あの、獅子狼さん?」
「え、えへへ。ほ、本日はお日柄もよく、かみちゃ……えー、銀牙観噛子様、じゃなく、う、うふふ。やっばぁ。本物じゃん。どーしよ。もう冷静さの仮面取れたんだけど」
来た時はニヤつきながらも流暢に話していたはずなのに、獅子狼さんの声は急にボソボソとし出してなんとも要領を得ない。
なんだろう。見た目は同じだけの別人なのかな?
「あの。あなたが本物の獅子狼苦針さんなんですよね?」
「は、はい。そうです。ワタクシまさしく獅子狼苦針です。……キャー! 名乗っちゃった名乗っちゃった!」
名乗るなり、顔を押さえて背を向けられた。
これ、本当は誰かと入れ替わってない?
「……あの。言いにくいんですけど、配信と雰囲気が違うというか……、もしかして体調が良くないですか?」
「あー! ダメです。それはよくない!」
心配ではあるからと、一歩踏み出して確認しようとした瞬間、今度は早口でまくし立てられた。
「な、なんですか?」
「やめて。それ以上近寄らないで。そのご尊顔はワタシにはまぶしすぎる。そんなに近づかれたら目が灼かれてしまいます」
「灼かれませんよ?」
「灼かれますよ! あぁ。そんな謙遜する姿勢も美しい。けど、かわいいに決まってんだから、目に入れたら痛すぎなんです」
「私が!?」
「そりゃ後ろの子もかわいいですよ? 将来有望株でしょうとも。ただ、ワタシはあんたが好きなんだからタイプはあんたに決まってんだろうが、ドチクショー!」
「ふっ……」
キレられた。
そして、面白かったのか、九美果ちゃんが吹き出した。
その後でシュッとすぐに私の後ろに隠れちゃったけど、でも、今の九美果ちゃんが笑うくらいに場の雰囲気は壊されている。
「……えーと……、ですね。単刀直入に聞くんですけど、獅子狼さんはキメラ事件の黒幕ではないんですか?」
「ないです。推しに嘘はつけません。なんなら真実の口のように、ワタシの口に手でも足でも突っ込んでもらっていいですよ。舐めさせていただきます」
「い、いいです……。じゃあ、なんで詳しいんですか?」
ようやく本題が回ってきたとばかりに、獅子狼さんの顔が引き締ま……ってない!
ほほをピクピクさせて、真顔になろうと頑張ってる。
「ワタシは配信者として活動をする中で解決したい問題を色々と知ってしまったんです。その中の一つがキメラへの改造でした。この件についてもワタシたちは以前からチームで追っていました」
「なるほど」
「そして、さまざまな情報ソースを頼る中で、かみちゃの配信を見つけ、接触を狙って取り上げました。思ったよりも話題になりましたけど、道化を演じて、何も掴んでいないと思わせられていると思います」
「そう、ですか?」
「昨日の件ですよね。たしかに、こちらの動きはバレていないのでしょうが、2人が昨日襲われたように状況はそこまでよくないです」
「どうしてそれを」
「キメラ関連の情報を本腰入れて集めている中で、ワタシの元にも情報が回ってきました。助けに入れずごめんなさい。キメラの子たちを守ることもできず……」
チラと見た九美果ちゃんは真剣に獅子狼さんの話を受け止めているように見えた。
獅子狼さんが謝ったその言葉、そして、消えてしまった2人に思いを馳せているその姿に何か思うところがあったように見える。
「昨日の一件のように、キメラの研究は危険です。それは、キメラにされている後ろの子が一番知ってるんじゃないかな。ワタシたちが止めようとしているってことを信じてもらうためにも、まずは、ワタシたちが集めた情報を見てもらえないですか」
「悪くない気はしますけど、九美果ちゃん次第ですかね」
「……」
ここまでの会話を黙って聞いていた九美果ちゃんは考え込むようにじっと地面の一点を見つめて固まっていた。
難しい話だと思う。私だって簡単には結論が出せない。
でも、九美果ちゃんをテイムしているんだから、九美果ちゃんの望みを叶えられる私でありたい。
それがどんなものであっても。
「無理しなくていいよ」
私が気を遣って言うと、九美果ちゃんはフルフルと首を左右に振った。
そして、九美果ちゃんは一つうなずくと、私の背後からようやく出てきた。
「その獅子狼って人、変な人だけど悪い人じゃなさそう。だから、もう少し話を聞いてみたい」
「いいの?」
「噛子お姉ちゃんにも、もっとキメラについて知ってほしいし、わたしもわたし以外に何が起きているのか知りたい」
「九美果ちゃんがそう言うなら、私は従うよ」
「それじゃ、決まりだね」
言うと同時に獅子狼さんが指を鳴らす音が響いた。
それが、私が孤児院跡地で最後に聞いた音だった。
多分、私たちはこれから、キメラ研究の危険な側面を見ることになるような気がする。
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