第10話 覚醒キメラ美少女
襲撃を受けた翌朝。
お友だちを一気に2人も失った九美果ちゃんはさすがに寝込んでいるかと思ったけれど、九美果ちゃん用の布団に九美果ちゃんの姿がなかった。
その代わりなのか、失踪した思考が思い浮かばないほど、お腹のあたりがずっしりと重たい。寝返りさえ打てないほど拘束されているような圧迫感がある。
眠い目をこすりながら視線を上げると、私の上に、ニコニコと笑う少女が座っていた。
「噛子お姉ちゃん。朝だよー」
「はーい。起きます起きま……」
ゆさゆさと揺らしてくるとは、まるでアニメみたいな少女だな。なんて考えながら私は少女へ向けて手を伸ばした。
指先に触れたのは、信じられないほどなめらかな肌。まるで赤ちゃんの頬みたいな感触で、それは思わずもう一度確かめたくなるほどの柔らかさだった。
そこまで確かめられたところで一気に眠気が吹き飛んだ。
すぐに体がビクッとして手が引っ込む。
触れた肌の感覚がスベスベでびっくりした。
呼びかける声が完全に九美果ちゃんだったから、私に乗っかっているのも九美果ちゃんだろうと思って手を伸ばしたのだ。無意識のうちに、昨日までのウロコっぽいひんやりつるっとした感触を無意識のうちに予想しながら。それなのに、みずみずしいモチスベッ! みたいな撫で回したい感覚が帰ってきて一気に脳が覚醒した。
目をはっきり開けた先にいたのは髪色と瞳の色こそハーフアンドハーフ。黒白髪に、黒赤目のままながら、それ以外は普通の女の子と変わらない、いや、キラキラとしたその容姿は明らかに普通じゃない。どこのアイドル事務所も放っておかないレベル、いやさ、私がプロデュースしてアイドルとして売り出したいほどのルックスに今の九美果ちゃんはなっていた。
まるで天使が舞い降りたような夢見心地で、私はすぐに言葉が出てこなかった。
「……くぁいぃ」
そして、最初に出た言葉は音にもならないような感想だった。
「え?」
「く、九美果、ちゃん……? それ、その見た目……」
切り替えるように私が問うと、九美果ちゃんはニコッと嬉しそうにほほをほころばせた。
「噛子お姉ちゃんのことを想いながら寝て、起きたらこうなってたんだ。ね! やっぱり変わったよね? 噛子お姉ちゃんの魔力のおかげだよ」
「もしかするとテイムの関係が深くなったってこと? テイムは絆が大事って言うから、九美果ちゃんが私を信頼してくれたことで変化が起きたのかも?」
「噛子お姉ちゃんにテイムされたってことになって、ちょっと手足とか見た目が元に近づいたのと近いのかな?」
「多分だけど……」
私もテイムを生業にしてないから確証はないけど、私に乗ったまま不思議そうにする九美果ちゃんへの回答としては妥当なところだろうか。
ただ、昨日、テイムをした後に初めてキメラ化した時に気づいたことだけど、通常時の姿が人の姿に近い方が魔力が安定しているみたいだった。だから多分、このかわいくなったのも成長ってことな気がする。
今だって、九美果ちゃんの体からただただ外へ放出されていた魔力が静かに本人の中に収まっている感じだし。
と、分析するため見つめていた九美果ちゃんがすっと私に体をすり寄せるように私の上に寝そべってきた。
「やっぱり、噛子お姉ちゃんの下僕になって、わたし、よかったぁ……守ってくれるのが噛子お姉ちゃんだもん」
「何度も言うけど九美果ちゃんは私の下僕じゃないから。あくまで私たちは対等な関係だから」
「ふふっ。そうやって焦る噛子お姉ちゃんがかわいくって」
小悪魔みたいに舌を出して私の上からどいてくれた九美果ちゃん。
本当、こんな子だったかな、って思うほど昨日今日でからかわれている気がする。
「あんまり年上をからかわないこと」
「はーい」
間延びした返事をしつつも九美果ちゃんは私の横に正座の姿勢で座った。
顔は真剣そのもので私のことをじっと見つめてくる。
そんな様子の変化にただ事でない雰囲気を感じて、私はすぐに起き上がって九美果ちゃんの正面に正座した。
「噛子お姉ちゃん。ちょっといいかな」
「なんでしょう」
「わたし、孤児院があった場所に行きたい」
昨日は無理をさせないため、また暗いからということで、楽しみの方向へシフトしていた。
けれど、今日行くのは私もどこかで言い出すつもりだった。
「わかった。九美果ちゃんが言うなら行こうか」
「ありがとう。噛子お姉ちゃん。わたしの口からも言いたいことがあるから」
「了解」
感謝してくれる九美果ちゃんは私の心配がいらないほどリラックスした様子に見えた。
ただ、私を前に無理をしているんじゃないかと思うところもある。
だってそれは九美果ちゃんが育った場所であり、今はない場所だから。
私はダンジョン孤児院の跡地で九美果ちゃんと向き合わないといけないと思ったのと同じように、ダンジョン孤児院に向き合う覚悟を決めた。
それからスマホを少し操作してから、軽い支度をして、私たちはすぐに家を出た。
昨日に続き、再び訪れたダンジョン孤児院跡地。
どれだけ見てもプレハブ小屋の面影すら思い出されないほど自然な草木が生い茂っている。
風の音が耳にうるさいほどのこの場所は雨の後のように自然の青臭いにおいしか香ってこない。
そんな場所に私と2人、九美果ちゃんは立っていた。
「本当に、何もないんだね」
「でしょ?」
「ここで育ってきたのにな」
「……」
九美果ちゃんの言葉にかけられる言葉が見当たらなかった。
どんな顔をしているのか見ることすらためらわれるほど、私の思いの及ばない感覚だと思う。
だから今は、今の景色が九美果ちゃんにどう映っているのか考えることで精一杯だった。
「でも、ここから連れて行かれて、今の……キメラの姿にされたんだ。それが嫌で嫌で仕方なくって、暴れて、壊して、何もかもぐちゃぐちゃにして、ダンジョンに逃げた。だから、わたしのせいだと思った」
「九美果ちゃんのせいじゃないよ。悪いのは改造した人」
「ありがとう。噛子お姉ちゃん。でも、多分そう。わたしはこんな更地になるほど壊してないと思う。無意識で記憶は確かじゃないけど」
「あれ、それならここに改造施設が」
「……」
足音を聞きつけて九美果ちゃんが即座に私の背後へと隠れた。
やってきたのは私がここへくる前にSNSのDMで連絡を取った人物だ。
「朝活配信もしないでわざわざ呼び出してくれるなんて嬉しいな。話題として取り上げたかいがあったかな」
「来てくださってありがとうございます。獅子狼苦針さん」
「いやぁ、礼にはおよばないよ」
私を前にして、獅子狼苦針さんは気持ちの悪いニヤニヤした笑みを浮かべていた。
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