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第九話 『この国に王はいないのだ』

 +++



  人間とドラゴンの大きな戦いの後、国は『リヴァグン王国』改め『フリセリア共和国』へと生まれ変わった。ドラゴンの代表としてノアが、人間の代表としてリアムの父親が、村の代表としてリュカが手を取り合い、国の発展へと尽力していた。


 彼らがまず着手したのは城周りの陸地の設備だった。建築や用水路の知識を村人から学び、生活の基盤から整えていったのだ。

 それと同時に、城の五人のドラゴンたちは、各地を巡り、今後の国の方針を伝えて回った。ドラゴンの中には人間を奴隷のように扱う者も少なくなく、説得は容易ではなかったが、根気強く話し合いを続けることで、ノアたちは賛同者を増やしていった。


 ある程度、陸地の設備が整った後に取り掛かったのは、城と陸地を繋ぐ橋の建設だった。


『ここはもう王国ではない。この国に王はいないのだ』


 このノアの言葉を受け、城は誰かが住まう場所ではなく、国の方針を決める議論の場にすることが決められた。やらねばならないことが山積みの中、優先順位が設けられ、最優先とされたのが陸地の整備。次がこの橋の建築だ。国民たちの安全な生活が最優先であるというのは、三人の代表の総意だった。


 橋の建設は様々な意味で、みんなの希望となっていた。

 長い間、孤立状態だった城と陸地を繋ぐ橋。誰もが来られる場所になり、みんなの繋がりができる場所になるようにと。


 三年後――


「ようやく橋も完成ね」

「そうだな」


 城の最上階の窓から外を見ているオリヴィアと、その後ろから腰に手を回しているノア。


「もう少しかかるかと思っていたけど、さすがドラゴン様たちね。とても助けられたとみんな言っていたわ」

「ドラゴン様じゃないだろう」


 ノアの方を振り向き、いけないという顔をするオリヴィア。長年の癖はまだ抜けていないようだ。


「ごめんなさい。まだ慣れないわ。『ドラゴン』だなんて」

「三年も経ったんだ。そろそろ慣れろ」


 厳しいことを言いつつ、その声色は優しさに満ちている。


「ドラゴンたちは、人間の技術と器用さに驚いていたぞ。あと勤勉さにも」


 以前は一切の交流がなかったドラゴンと人間だったが、ともに暮らし始めてみることで、互いに知らない知識を有していることに気がついたのだ。今では定期的に、知識の共有会も開かれている。


「本当にこの国は変わったわね」


 まだ整っていないことの方が多いフリセリア共和国だが、自然が増え、人が増え、笑顔が増えた。


「ああ。まだこの変化に賛同していない者たちもいるが、必ず説得してみせるさ」


 コンコン


「ノア様、オリヴィアさん。まもなく式典のお時間となりますので、会場の方へ」


 ドアの外からふたりを呼ぶケイレブの声。今日は橋の完成を祝う式典が行われるのだ。


「分かりました!」

「今行く」


「行きましょう、ノア」


 ノアはオリヴィアの後ろから動かないでいる。


「オリヴィア……」


 ノアがオリヴィアの右手を取る。


「ノア?」


 オリヴィアはされるがままに大人しくしていると、ふと指に重みを感じた。


「ノア、これって……!?」


 オリヴィアの右手薬指には柔らかい光を放つ指輪が。


「千年前、結婚指輪をしている両親に憧れていただろ?」

「え、ええ。ふたりは指輪を見ると、いつも幸せそうで……私もそうなりたいなって」

 ノアがオリヴィアの肩を掴み、自分の方を向かせる。

「それが本来は左手にはめるものだということは知っている。だが、それはもう少し待っていて欲しい。ドラゴンの代表として、俺にはやらなければならないことがまだ沢山残っている。俺の我儘で本当にすまない」


 何も着いていないオリヴィアの左手を取り、ノアが言った。


 自分より大きいノアが、子犬のようにしゅんとしているのがおかしく、オリヴィアは思わず笑ってしまう。


「なんだその笑みは」

「ううん。何でもないわ」


 ノアは少しいじけたように唇を突き出している。

 そんな仕草さえも愛おしいと感じるオリヴィア。ノアの首に手を回し、抱きしめる。

 そして、心からの気持ちを伝えた。


「いつまでも待っていますよ」



 それから遠くない未来。

 ふたりの左手の薬指にはお揃いの指輪が光り、小さくてわんぱくな男の子に翻弄される日々が待っているのであった。

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