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第六話 「すまなかった」

「どういうことだ!? どこからこんなにドラゴンが!!」


 ボルガンは太陽の光を遮る無数の影を、唖然としながら見上げていた。


 飛んできたドラゴンたちは、次々と中庭に舞い降り、人型へと変身していく。


「あんたたち大丈夫かい」


 村の老婆の声だった。ノアやオリヴィアが降り立ったドラゴンたちを見ると、その顔には見覚えがある。あの村の者たちだ。


「待ってな! 今、網をどかしてやるからな!」


 村人がノアたちを網の中から救い出す。磔にされていた三人の縄も解きにかかっている。


「どうしてドラゴンが網に触れて平気なんだ!?」

「ボルガン様! よく見てください!! 瞳の色が……あいつら人間です!!」

「なんだと!?」


 ドラゴンたちに人間の味方がいることなど想像もしていなかったボルガンは、さらに狼狽する。黒いローブたちにも動揺がはしった。


 そんな混乱の最中、オリヴィアは一瞬の隙を見逃さなかった。オリヴィアを押さえていた男も、この事態に狼狽え、手の力が弱まったのだ。オリヴィアは全力で腕を振り払い、拘束を抜け出す。


「ノア!!」

「オリヴィアッ!!」


 走って向かう先は、網から解放されたノアのもと。ノアの温かい腕に包まれると、触れた箇所から恐怖が溶けていくように感じる。

 ノアはオリヴィアの存在を確かめるように、強く抱きしめるのだった。


「くそがああ!!」


 ふたりの世界に浸っているノアとオリヴィアを、ボルガンの絶叫が現実へと引き戻す。


「この裏切り者どもが! ドラゴンに手を貸すとはいったいどういう了見だ!!」


 ボルガンが村の人間たちに向かって叫ぶ。


「こいつらは、もはや人間ではない! ドラゴンもろとも殺してしまえ!!」


 黒いローブたちはドラゴン、人間の見境なしに襲いかかる。村人たちも持ってきた武器を手に応戦する。先ほどまで静かだった中庭が、完全に戦場と化してしまった。


「どうしてこんなことに……」

「俺は……」


 悲しそうに目を伏せるオリヴィアを、ノアがより一層強く抱き寄せる。


「やめろ!!」


 ノアの一声が中庭に木霊した。

 綺麗に透き通ったバリトンの声は、戦う者たちの騒音をかき消し、地の果てまで響いてくようだった。

 その圧に、思わずみんなが戦いの手を止める。中には尻もちをついてしまっている者までいた。


 すべての視線がノアへと向けられる。


「俺はここに話し合いに来たんだ。殺し合いに来たのではない!!」


 ノアはオリヴィアに一度目配せをする。オリヴィアもその意思を受け取るように見つめ返す。少し笑みを浮かべたノアは、オリヴィアから離れ、ボルガンのもとへと向かった。


「すまなかった」


 ノアが頭を下げる。


「王!!」


 リリーやローマンたちが驚きの声をあげた。それでも、ノアは頭を下げたまま話し続ける。


「俺は今まで周りに興味がなく、ずっと城に閉じこもっていた。外がどのような状況か知りもせず。名ばかりの王で、何もしてこなかった。このような事態を招いてしまったのは、俺の無関心故だ。本当に申し訳ない」

「何を今さら!」


 ボルガンはノアの謝罪を受け入れようとはしない。

 ノアは顔をあげ、ボルガンと向かい合う。


「ああ、その通りだ。今さらかもしれない。だが、このままではずっと何も変わらない。俺はこれからを少しでも良い方向に変えていきたい。そのために、今動くんだ」


 そう言って、ノアは周囲を見回した。


「さっき『どうして人間がドラゴンに手を貸すのか』と言っていたな……違う。手を取り合っているんだ。俺たちもそうしないか?」


 再びボルガンへと視線を戻したノア。


「このまま続けても、犠牲者が増えるだけだ。もう武器を捨てよう」


 村人たちは、ノアの想いに応えるように武器をその場に捨てた。ドラゴンたちも構えていた拳を降ろす。

 一方、黒いローブたちは、敵意をなくした相手を前に、当惑した表情で指示を仰ぐようにボルガンを見ている。


「お前ら何をやっている! 今が絶好のチャンスだろうが! やれーーー!!」


 ところが、黒いローブたちは動かなかった。敵意の無い相手、人間も混ざった相手を前に、ボルガンの殺せという命令に従うべきか決めかねているのだ。


「何故従わない!!」


 ボルガンは顔を真っ赤にして、周囲の黒いローブたちを睨みつける。


「ここから少し離れたところに村があるんだ」


 ボルガンとは対象的に、冷静にノアが話し出す。


「今ここにいるドラゴンも、人間もそこから来てくれた。村では種族に関係なく、みんなが共存して生活している。みずみずしい果実や動物もいて、自然がとても豊かな良い場所なんだ! 彼らに教えてもらいながら、ともに、この国を良くしていけないだろうか。人間もドラゴンも暮らしやすい国に変えていこう!」


 ノアがボルガンに手を差し出す。

 オリヴィアはふたりの様子を祈るような眼差しで見つめていた。


 ボルガンは下を向いており、表情が見えない。


 そのまましばらくの沈黙が訪れた。


「そうだよな」


 ボルガンが顔を上げる。


「貴様の言う通りかもしれない。俺たちは長年憎しみ合ってきた。今日、今この場所で終止符を打とうではないか!」


 ボルガンが手を伸ばしながら、ノアへと歩み寄る。

 ノアも応えるように、一歩踏み出した。


 ふたりの距離が縮まり、お互いの手が触れようかというとき。

 ボルガンの片方の口角がこれ以上ないほどにつり上がった。

 ボルガンの差し伸べていた手と反対の手が振り上げられている。その手には短剣が握られていた。


「ノア!!」


 オリヴィアが悲鳴をあげる。


「愚かなドラゴンめ! どうせいつかお前らは裏切るんだ! その前に殺してくれるわ!!」


 ザシュッ


 止めにはいる間もなく、嫌な音がオリヴィアの耳に届いた。

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