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第四話 「俺たちは……会話をしにきた」

 +++



 網に全身を捕らえられ、地面に這いつくばりながらも、ノアはオリヴィアの連れて行かれた方向を悔しそうに見つめていた。


「ざまあねえなあ!」


 黒いローブがノアたちを引っ張り、ボルガンの前に移動させたが、ノアの視線の先は変わらないままだった。

 けれど、オリヴィアの手を引く人間の顔を確認すると、こみ上げる悔しさを押し殺しながら、視線を目の前のボルガンへと移した。


 今は自分のやるべきことをやろう。

 そう決意をして。


 対するボルガンはというと、目を細め、嬉しそうにノアたちを見つめていた。長年自分たちを苦しめてきた元凶が、今やっと目の前にいるのだ。元凶たちは必死に睨みをきかせてはいるものの、網に捕らえられ、無力化された状態で何をすることもできない。


 そんな惨めな姿を見ることが、何にも代えがたい恍惚感をボルガンに与えていた。


「非力な人間に捕まるというのはどのような気分だ? ずっと馬鹿にしてきた人間に見下される気分は!! さぞかし悔しいことだろうなあ! だが、俺たちはこの千年間ずっと耐えてきたんだ。今度は俺たちの番だ! 今度こそお前らドラゴンを根絶やしにし、人間の世を! 俺の世を創り上げて見せる!!」


 ボルガンの声が中庭に響き渡る。


「安心しろ? お前らをすぐに殺したりはしない。千年分の恨みをしっかり払ってもらってからだ」


 にんまりと笑うボルガン。ねっとりとした視線がノアたちに絡みつく。


「俺たちは……会話をしにきた」


 ノアが静かに言う。

 その発言で、ボルガンから一瞬で笑みは消え失せ、恐ろしい目つきでノアを睨みつけた。


「会話だあ!? 人間とドラゴンに、そんなものは無意味だ!!」

「いいや。できる」


 ノアが強く答える。

 その全てがボルガンの気に障り、彼のこめかみには青筋が浮かび上がっていた。


「何を偉そうに! そもそもお前は、そんなことを言える立場ではないだろう!!」


 そういうと、ボルガンはハッとしたように落ち着きを取り戻し、またしても、あの気味の悪い笑みに戻ったのだった。

 何かを企んでいるのかは明らかだ。ノアはその嫌な雰囲気に眉をひそめる。


 ボルガンは一度ノアたちから視線を外すと、くるりと方向を変え、鼻歌交じりに軽い足取りで歩き出した。愉快そうに進む彼の先にいるのは、磔にされたケイレブだった。

 懐から取り出した剣をケイレブへと向ける。その剣先が、縛られているケイレブの腕に横一本の赤い線を刻んでいく。


「ぐっ、ぐあっ!」


 痛みに声が漏れるが、口を布で塞がれているせいで嗚咽だけが響く。

 赤い一本線から傷口は変色し、徐々に石化が広がる。


「あんたっ!!」


 今まで大人しくしていたリリーとローマンも、もう黙っていることはできなかった。


「おっと? 怒鳴られると、怖くて手元が狂っちゃいそうだなぁ。もーっと心臓の近くを刺してしまいそうだ。グサッとな?」


 ボルガンは横目でリリーたちを見ながら、ゆっくりと剣先をケイレブの心臓へと移動させる。網に捕らえられた三人は大人しく口を閉じるしかなかった。


 ノアは歯を食いしばった。我を忘れ、怒りに任せて暴れたいのを必死に堪える。頭の中で自分たちの目的を何度も繰り返した。ここには会話をしに来たのだと。


 ドラゴンたちの悔しがり、惨めに騒ぐ姿を期待していたボルガンは、この状況を何だか物足りなく感じていた。どうしたものかと思案するボルガン。その視界の端でこちらに走ってくる人物の姿を捕らえると、また彼の口角が釣り上がるのだった。

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