第二話 「オリヴィア……無事か?」
「どうして効いていないんだ!」
黒いローブの集団が焦った声をあげる。ドラゴンの弱点であるペイルダストを大量に撒いたというのに、ドラゴンたちがなんてことないという風に立っているのだ。
煙が完全に晴れてくると、ドラゴンたちの姿もはっきりと見えてきた。彼らの鼻と口が何かで覆われていたのだ。
「息しづれえな」
「取ればいいじゃない。そこら辺で倒れてなさい」
ドラゴンたちは、周囲の黒いローブを気にもせず、会話を続けている。彼らの口元を覆っているのは、村人たちがペイルダスト対策にと用意してくれたものだ。
「つ、次の手だー!」
中庭は、いつの間にか弓を構えた黒いローブに取り囲まれていた。開始の合図と同時に、四方八方から無数の矢が襲いかかる。
「オリヴィア、こっちだ」
ノアがオリヴィアを守るように自分の背後へと誘導した。
バサッ
ドラゴン三人がまとっていたマントを勢いよくはためかす。
その風圧は相当なもので、降り注いでいた矢がすべて弾き返されてしまった。
これもまた準備してきた対策のひとつ。このマントには通常のものより堅い生地が使用されている。人間が使用すれば、防御力が高いマントになるだけだが、ドラゴンの腕力をもってすれば弓矢に対抗できる代物にもなるのだ。
「おいおい! こんなもんかー!!」
ローマンが興奮した声で喚く。
「みんな、大丈夫!?」
リリーは自分への矢だけでなく、縛り上げられているドラゴンたちを守るようにマントを振るっていた。雨のように降り注ぐ矢は、ドラゴンたちに魔法を繰り出す暇を与えない。
「まだまだだ! やれ!」
黒いローブたちが二度目の矢の雨を降らせる。今度の矢には、火のついているものが紛れ込んでいた。マントを焼いてしまう魂胆なのだろう。
だが、ドラゴンたちは難なくすべての矢を防ぎきる。火がマントに引火する前に矢を吹き飛ばせば良いだけなのだ。
黒いローブたちの弓矢による攻撃と、ドラゴンたちのマントによる防御。これでは埒が明かない。黒いローブ側に焦りの色が見え始めたときだった。
「ドラゴンども動くな! こいつがどうなってもいいのか!!」
声は、縛られているケイレブの背後から聞こえてきた。
「ボルガン様……!」
ケイレブの後ろから現れたのは、ボルガンだった。その手には小さなナイフが握られており、刃の先はケイレブの首元に据えられている。もちろんナイフはキメラの牙で造られたものだ。
ノア、リリー、ローマンの動きが止まった。
ここぞとばかりに、黒いローブたちの矢の攻撃が再開される。火のついた矢があたり、遂にマントに引火してしまった。三人は慌ててマントを脱ぎ捨てる。
「今だ! 行けーーー!!」
ボルガンの声を合図に、どこから出てきたのか、大きな網がドラゴンたちに覆い被せられた。
「くそ……力が……」
「何よこれ……」
網に捕らえられたドラゴンたちは、ぐったりと地面に這いつくばる。
「力が入らんだろう。それはペイルダストをたっぷり塗り込んだ縄で作ってあるからな。はっはっは」
一瞬で形勢は逆転した。
「オリヴィア……無事か?」
ノアは力が入らない体で、後ろにいるオリヴィアへ声を掛ける。
オリヴィアからの返事はない。
人間であるオリヴィアには、ペイルダストは効かないはず。どうして返事がないのか。何かあったのかと、ノアは力を振り絞り後ろを振り返る。
「オリヴィア……?」
先ほどまでいたはずの場所に、オリヴィアの姿はなかった。
必死に辺りを見回すと、誰かに手を引かれ、城の中へと引っ張られていくオリヴィアがいた。
「オリヴィアッ!!」
ノアは力の限りの大声でオリヴィアの名を呼んだ。




