第十話 「オリヴィアを取り戻そうな」
「我が主は……絶対に負けない……」
オリヴィアたちが連れ去られた後、あまりの出来事に静まり返った部屋で、最初に口を開いたのは空のドラゴンだった。ペイルダストをまともに吸い込んだせいだろう。床に伏し体を動かすこともままならない状態だ。それでも、王の側近に選ばれた最強のドラゴンなだけあり、放たれる圧は凄まじかった。
「そんな状態で何を言っているんだ! お前らの時代はここまでだ。おい、こいつらもさっさと縛っちまえ!」
ボルガンが指示を飛ばし、空のドラゴンと水のドラゴンも捕らえられた。
「ほ、本当にドラゴン様たちを捕まえてしまったわ……」
マーヤは入口の傍で、ポカンと突っ立っていた。
正直、いくら作戦を立てようと、相手は最強の生物であるドラゴンの王と選りすぐりの側近たち。どうなることかと思っていたが、側近の五人のうち半分は俺たちの手中に落ちた。
それなのに……。
「おい! オリヴィアが攫われてしまった!!」
「あのドラゴンを庇ってた女か? ドラゴンなんかの味方をしているせいだ。むしろ良かったんじゃねえか」
「なんだと?」
ふざけたことをぬかす、黒いローブの胸ぐらを掴み上げた。
「オリヴィアは俺側の人間だ!! ドラゴンなんかと一緒にするな! 絶対に救いだす」
「わ、分かったから、一回落ち着けって。な?」
そう言われてもこの熱は収まらない。オリヴィアが連れ去られる光景が何度もフラッシュバックする。
「まーまー、リアム。そいつのことを放してやってくれ。あの子も必ず救うさ。同じ人間なんだからな」
間に入ってきたのはボルガンだった。彼に言われ、渋々手を緩める。
「だったら早く! 遠くに行かれる前に今すぐ追いかけよう!」
「まー、焦るなって。どこまで飛んでいったのか分からないんだ。俺たちから探しに向かうのは効率が悪いだろう?」
「だったらどうするんだ! こうしている間にもオリヴィアは……!」
「誘い出すんだよ」
にやりと笑ったボルガンの作戦はこうだった。
まず、捕らえた三人のドラゴンを中庭で磔にする。次に、城の近くからドラゴンへの攻撃を開始する。徐々に範囲を広げていけば、いずれ逃げたドラゴンの王の耳にも入り、王自ら城に戻って来るだろうと。
すぐにでもオリヴィアを探しに行きたい気持ちを抑え、ボルガンの作戦の準備を進める。
拘束されている親父たちの説得も、今一度試みたが、俺の考えを理解してくれる者はひとりもいなかった。
「どうしてなんだ……」
親父たちとの話し合いがうまくいかず、ひとりで廊下を戻っているときだった。
自分以外、他に誰もいないと思っていたのに足音が聞こえる。けれど、顔を上げる元気もない俺は俯いたまま歩き続けた。
「まったくもう。何落ち込んでるの!」
「マーヤ……」
「やると決めたなら最後まで貫けって!」
そう言うマーヤはいつものように、笑顔を向けてくれていた。
「ああ、一緒に……オリヴィアを取り戻そうな」
「……うん!」
俺は背筋を伸ばし、ボルガンの作戦を頭の中でおさらいする。
「……目的が変わっちゃっていること、分かっているのかなぁ」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何も。私も一緒に行く! 何をすればいい?」
それから俺たちは作戦を行動に移した。次々と目の前にドラゴンの死体が積み上げられていく。
ドラゴンに怯えて生きてきたことがまるで嘘のようだ。
やつらの胸をキメラの牙で造られた槍で貫く。胸から全身へと亀裂が広がり、ドラゴンの体は崩れ落ちていった。なんともあっけない。風が吹くとその塵さえも消え去っていった。
ドラゴン狩りを繰り返す日々。ボルガンの作戦は順調に進行しているというのに、何故か満たされることがなかった。
それでも、オリヴィアを連れ戻すため。来る日も来る日もドラゴンを殺し続ける。
「いつになったらオリヴィアたちは来るんだ!!」
日に日に焦燥感だけが強くなっていく。
「リアム……少し休みましょう? ひどい隈よ?」
マーヤが食事を持ってきてくれたようだったが、食べる気にはなれず断った。
一分一秒が惜しいのだ。こうしている間にも、オリヴィアの身に何か起きるかもしれない。
ドラゴンの王め。早く出てこい……!
「来たぞー!」
願いがやっと天に届いたのか。待ちに待った知らせが聞こえてきた。
羽ばたく音が聞こえ、近くの窓から外を見る。すると、三匹のドラゴンがその大きな翼を広げ、こちらへ向かってきていた。
俺の視線はすぐにオリヴィアを捉える。彼女は白銀色のドラゴンの背に乗っていた。
待ち望んだ瞬間に心が踊る。
オリヴィア!
必ず俺が救い出してみせるからな!




