第九話 「お前さんも罪な男だねえ」
マーヤを先頭に、ドラゴンの王のもとへと向かう。俺は配膳台の下の段に隠れている。台には白い布を被せてあるから、外から俺の姿は見えない。
「あれー? みんな揃ってどうしたの?」
風のドラゴンが現れた。俺を含め、人間側に緊張が走る。
「ねえ、何を運んでいるの?」
少しずつ足音が近づいてくる。足音とともに、鼓動が早まる。
「お食事でございます」
マーヤの声が少し震えている。もう足音はすぐそこまで迫ってきていた。
出るしかないか、そう思い布に手をかけたときだった。
ガチャンッ
食器の割れる音がした。
「ちょっと! 服が汚れちゃったじゃん!」
「申し訳ございません。すぐにお拭きいたします」
マーヤの声ではない。黒いローブの誰かだろう。
「いいよ! そんな近寄らないで……グッ」
ドサッ
言葉が途中で途切れ、何かが地面に落ちる音がする。
ゆっくりと布を持ち上げると、そこには荒い呼吸を繰り返す風のドラゴンが倒れていた。
「こうも簡単に引っかかってくれるとは。縛っておけ」
無抵抗な風のドラゴンが、縄で縛り上げられていく。
「ドラゴン様が……縄がほどかれたりしないかしら……」
マーヤが呆気にとられた表情で呟いた。
「ドラゴンには毒になるペイルダストを練り込んだ縄だ。動けやしない。さっさと行くぞ」
縄を締めている男が淡々と答える。
とはいえ、マーヤの表情からは不安の色が消えない。今までずっとドラゴンたちの力を間近で見てきたのだから、仕方のないことかもしれない。
「マーヤ、安心して。ちゃんと俺たちは勝てるし、マーヤのことは俺が守る」
城の人間の中で唯一、俺の考えを分かってくれたんだ。俺にはマーヤを守る責任がある。
「リアム……うん、分かった」
俺の言葉に安心したのか、マーヤは頷いてから、また先頭に立って歩き始めた。
「お前さんも罪な男だねえ」
ボルガンがそう言ったが、意味がよく分からなかった。俺はまた配膳台に身を隠す。
布に覆われた暗い視界の中、城の中を進んでいく振動だけが感じられる。
コンコン
振動が止まると同時に、扉をノックする音が聞こえてくる。
俺たち……人間たちの反撃開始の合図だ。
「ごめんね」
布を取り払うと同時に、そんな声が聞こえた気がした。
声の主を探し当てる間もなく、視界一面が真っ白に染まる。
ドラゴンたちはペイルダストを吸い込んだだろうか。
オリヴィアは無事だろうか。
どこだ……!
オリヴィア、どこなんだ!!
煙が収まってくると、少しずつ辺りの様子が見えてきた。
一番に目に入ったのは、黒いローブのひとりがオリヴィアへ手を伸ばす姿。
オリヴィアに指一本触れさせてたまるものかと、焦ってそれを止めに入る。
それでも、オリヴィアの口から出てくるのは、俺への感謝ではない。
ドラゴンの王の味方をするというのか。
あろうことかドラゴンの王を名前で呼んでいる。
どうしてだ……!
そいつは敵。ドラゴンなんだぞ……!!
何故庇う?
何故親しげにする……?
俺の方が長くオリヴィアを見てきた。ずっと一緒に過ごしてきたんだ!
なんでこんなやつに……!!
ああ……。もうこいつからオリヴィアを引き離すには、殺すしかない。
俺の手でドラゴンの王を。
そう思ったときだった。
耳を咄嗟に塞いでしまうほどの爆音と衝撃が、部屋を襲った。衝撃の正体は他のドラゴンだ。壁に大きな穴があき、そこから瞬く間にドラゴンの王とオリヴィアが連れて行かれる。
「オリヴィアッ……!!」
必死に伸ばした手は、オリヴィアに届かない。




