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第八話 「申し訳ないが、引き返してくれ。リアム、お前もだ」

 賭けてみよう。


 そう思い、王のいる部屋へと向かった。


 その道中、オリヴィアと遭遇する。

 ここは王の部屋へと続く廊下。そこを急ぎ足で歩くオリヴィア。


 体の内側が熱を持つ。目がチカチカする。


 近づいてきたオリヴィアを見て、何かが弾けた気がした。

 彼女の首元に残る赤い跡。


 今まで理性によって保たれていた全てが音をたてて崩れていった。


 その後のことはよく覚えていない。


 唯一記憶にあるのは、オリヴィアの目。

 俺を責めるような……あの目。

 そしてあいつに寄り添うオリヴィア。


 城から逃げ出し、船を出すと、その先に黒いローブたちが待ち構えていた。


「どうしてこんなところにいるんだ?」

「お前の顔を見ていたら分かる。そろそろ動きだすだろうと思って、ここ数日、近くで待機していたんだ」


 男の言葉に返事をしようとした瞬間、上から風の音が聞こえた。急いで岩陰に身を潜める。おそらくドラゴンたちが俺を探しているのだろう。


「そろそろ俺たちの船が着く頃だ。沖へ向かうぞ。……案内を頼んだぞ……リアム」


 もう引き返すことはできない……。


「城の人間たちに話しはしたのか? お前の裏切りがドラゴンにバレてしまった今、城の中に別の協力者が必要だぞ」


 当初の作戦では、俺が黒いローブたちをドラゴンの近くに誘導する予定だった。どうせドラゴンたちは人間の顔なんて覚えちゃいない。城の外の人間が紛れ込んでいたって、気づかれることもない。


 だが、失敗してしまった。このままでは作戦に支障をきたしてしまう。

 考えているうちに、俺たちは城に到着した。物音をたてないよう細心の注意を払いながら、城内を進む。まず向かった先は、使用人たちの大部屋だ。

 扉を開くと、そこには城のみんなが揃っていた。


「何か隠し事があるのは知っていたが……、まさか反逆を企てていたとはな……」

「親父……人間も勝てるんだ! ドラゴンたちを殺して、また人間の国を取り戻そう! 誰も苦しまなくてすむんだ!」

「お前は人一倍、責任感が強いことは分かっていた。それに俺たちが頼りすぎていたことも……。優しく、強いお前なら、きっと新しい道を切り開けると思ったんだが……」


 親父は憐れむような目で俺を見ていた。周りのみんなも失望したような、悲しそうな顔をしている。


 なんだ。俺はみんなを救おうとしているというのに。この反応は何なんだ。

 いつものように『さすが!』って言ってくれよ。『頼りになるな!』って言ってくれよ。


「なあ、リアム。たとえ今日、ドラゴン様たちに勝ったとしても、また歴史を繰り返すだけだ。手を取り合って生きていかないといけないんだ。現に、最近は城の中が変わってきているのを、お前も感じていたんじゃないか?」

「お前らは城の中でのうのうと暮らしているから、そんなことが言えるんだ!」


 親父との会話に割って入るように、ボルガンが叫んだ。


「外の世界がどれほど悲惨か! 俺たちは同じ人間じゃないか! 手を取り合おう!」

「この人の言う通りだ! 親父たちだって、城の外の状況を何も知らないわけじゃないだろう?」


 ボルガンの声にも、俺の説得にも、首を縦に振る者はいなかった。


「城の者に危害が及ぶ可能性がある。お前たちを通すことはできない。申し訳ないが、引き返してくれ。リアム、お前もだ」


 俺……も……?

 今まで散々俺を頼りにしてきたくせに、都合が悪くなったら切り捨てるのか……?

 俺たちみんな家族じゃなかったのかよ。


 怒りと悲しみで、もう親父の顔を見ていられなかった。俯いた視線には、俺と親父の足が見える。何度も何度も一緒に狩りに出て、ボロボロになった俺たちの靴。


「もう俺のことは必要なくなったんだな」

「ちがっ」

「なんてことだ、リアム! もう俺たちは俺たちでやるしかない! おい、お前ら! こいつらを縛っておけ。同じ人間だ。殺しはするなよ」


 ボルガンの命令通り、黒いローブたちが城のみんなを捕らえ、拘束していく。


「リアム!」


 捕らえられていくみんなの助けを求めるような視線。


 もう遅い。今さら俺の名前を呼ぶな。

 俺は……やり遂げるんだ。


「ちょっと! 私はリアムに協力するわ! だから縛らないで! 触らないでってば!」


 騒ぎ声の方を向くと、声の主はマーヤだった。


「マーヤ、協力してくれるのか!」

「ええ。リアムひとりに背負わせたりしないよ」

「嬉しいよ! 誰も……生まれてからずっと一緒だったオリヴィアさえ理解してくれなかったのに! マーヤは分かってくれるんだな!」

「リアム……」


 マーヤの瞳が城の明かりに照らされて揺れる。


 これで舞台は整った。

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