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第七話 「人間を救えるのは君しかいない! ぜひ、我々に力を貸してくれ!!」

 この集団の長なのだろう。彼が話始めると、ざわざわとしていた集団が静まった。

 静寂が包む空間の中、男の声だけが響き渡る。


「我が名はボルガン! この国の本当の王である! この国は……この土地は、俺のものなのだ!」


 目を血走らせ、叫ぶように話すボルガンと名乗る男。顔に刻まれた皺は深く、かなり高齢のように見える。

 自分は王だと主張するこの男を正気かと疑ったが、俺以外は気にしていないらしい。

 そのまま、ボルガンは語り始めた。


 千年も昔の話。

 彼の先祖はこの国の王だったという。けれども、ある日、王国はドラゴンたちの襲撃にあった。僅かに生き残った王族と使用人たちは秘密の抜け道を通り、この空間に逃げ込んだのだ。


「あのドラゴンを殺した武器は何なんだ」


 ずっと気になっていた質問を投げかけると、ボルガンは誇らしそうに話を続けた。

 ここには千年も前の王国の武器が保管されていたと。古びた武器でも、食料調達には役に立つ。使用人たちが狩りに出るときには、持たせていたのだという。


 ある日、運悪くドラゴンに遭遇した使用人一行。ひとりの持っていた武器が、たまたまドラゴンの上腕をかすめた。

 するとどういうことか、傷口からドラゴンの腕がひび割れ崩れ落ちていくではないか。

 だが、最強の生物といわれるドラゴンもただでは倒れない。右腕を失いながらも、我々のいる地下まで追ってきたのだ。


「君も通ってきたあの階段。まさにあそこまで、ドラゴンは迫ってきたのだよ」


 通ってきた階段を思い浮かべる。人ひとりが通れるほどの狭い階段。手負いとはいえ、ドラゴンが入ってくれば、中にいる人間は逃げ場もなく、ひとたまりもないだろう。


「運はな、我らに味方した。ドラゴンは階段で急に意識を失い、倒れてしまったんだ」

「急に意識を失った?」

「ああ。そのドラゴンを捕らえて、すべてを吐いてもらったよ。ここにある王国の武器はキメラの牙でできており、ドラゴンを殺すことが可能だということ。そして階段のわきに咲いている花にはドラゴンの体を麻痺させる効力があるということ」


 甘い香りのした薄青い花を思い出す。たくさん咲いていたが、あれが追ってきたドラゴンを麻痺させたということか。


「『ペイルダスト』と、あのドラゴンは呼んだ」


 そのときのことを思い出しているのか、ボルガンはニタニタといやらしい笑顔を浮かべている。


「あいつには色々試させてもらったなぁ。あれから三十年。各地に散らばって生き残っている人間たちを集め、我々は勢力を拡大させてきた。十分な戦力を揃えた今、最後に必要なのが君だ! リアム!」


「俺……?」


 ボルガンは目を見開き、腕を広げ、大声で叫ぶ。


「お前は素晴らしい! 闘志に溢れている! 城に入るには中からの協力が必要なんだ! 人間を救えるのは君しかいない! ぜひ、我々に力を貸してくれ!!」


 ボルガンの声に、周りの者たちの声が重なり大きなどよめきになっていく。


「頼む!」

「リアム、一緒にやろう!」

「俺たちで人間を救うんだ!」


 みんなの声が響き、そのひとつひとつが俺を鼓舞するようだった。


「俺は、どうすればいい?」


 気づいたら、そう口にしていた。

 ボルガンが口角を上げたまま、彼らが考えている作戦を話し始める。

 俺に与えられた役割は、城の中から彼らの侵入を手助けし、ドラゴンの王へペイルダストを吸い込ませることだった。王を守る城のドラゴンたちをどうするかも考えねばいけなかった。


「他の城の同胞たちも協力してくれそうか?」


 城の同胞と言われ、脳内にはオリヴィアの姿が浮かんだ。

 ドラゴンの王に抱きかかえられる彼女の姿が。


 これで、あいつからオリヴィアを救える!

 オリヴィアに感謝されるんだ。あのとびっきりの笑顔で!

 今度こそ絶対に奪われたりしない!


『リアム!』


 愛しい声に名前を呼ばれた気がして、振り返る。

 そこには血まみれの親父が立っていた。その後ろには燃え盛る城と、たくさんの屍が。小さい頃から家族のように過ごしてきた城のみんなだ。


 冷や汗が背中をつたい、一度強く目を閉じた。


「考えさせてくれ」


 みんなに訪れるかもしれない血塗られた未来を想像すると、殺気も熱も引いていった。夜の冷気で頭を冷やしながら、城へと戻ったのだった。


 帰るのが遅くなってしまった。もうみんな部屋に戻っている時間だろう。

 俺も早くベッドにもぐりこみ、心も体も休ませたい。一度にいろんなことが起きたせいで、今日は本当にくたびれてしまった。


 大部屋の扉を押し開けると、静かな部屋にオリヴィアとマーヤがいた。


 俺の心はもう疲労と混乱でぐちゃぐちゃだ。ドラゴンに虐げられている現状を変えたい。とはいえ、その代償を払う覚悟もない。


 俺を見つめる純粋無垢なオリヴィアの瞳。

 どうすれば、この輝き守ることができるのだろうか。


 何日も考えた。空き時間を使っては、ボルガンたちのもとへ行き、彼らの話を聞いた。城ではオリヴィアの様子を見守る。


 そして、考える。


 ドラゴンに戦いを挑むということは、ドラゴンの王と戦うということだ。この城は確実に戦場になるだろう。血に塗れたみんなの姿が脳裏を過る。


 俺にみんなを巻き込む覚悟はあるのか……?


 城の様子は相変わらず平穏だ。オリヴィアは元気に暮らしている。王も他のドラゴンも機嫌が良い。城のみんなだって幸せそうだ。


 みんなが血を流さない選択ができるのではないだろうか。

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