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第八話 久しぶり

 エルが初めて魔法を使ってから早一か月。


 この間、充実した日々を過ごしていた。


 毎日魔法の練習をしている今では、それなりに魔法を扱えるようになっていた。

 

 炎の玉を出す、水の玉を出す、氷を出す、風を生む、土の塊を作る、光を灯す。

 いわば各属性の初歩魔法だ。


 魔法の属性は、炎、水、風、土、雷、光、闇がある。

 殆どの魔法は、このどこかの属性に当てはめることが出来る。


 ちなみに、氷は水魔法の派生。氷魔法というのは無い。


 エルは、闇以外の初歩魔法が使える様になっていた。

 何故闇だけ使えないかというと、おじいさんに止められていたからだ。

 何でも、闇属性は危ないから、もう少し魔法に慣れてから教えるとの事だった。


(うーん。何かもうちょっと面白い事出来ないかな……?)


 そんな中、今エルは何をしているかというと、いつもの如く木に魔力を送る訓練とランニングを終え、魔法の練習に入るところだった。


 エルの周りには、ふわふわと浮かぶいくつもの炎と水の玉。それらを、自分を中心にして円を描くように動かして遊んでいた。


(初歩魔法に大分慣れて来たし、今では十個ぐらいなら同時に使える様になったしけど……)


 そう。今のエルは、十個程度なら同時に魔法を扱える。普通の人が頑張っても三つしか展開できないと考えると、今のエルは規格外と言っていい。

 だが当の本人はというと、リナの足元身も及ばぬといった具合で、全く凄いとも思っていない。

 リナのお陰で、感覚は完全に壊れていた。環境とは恐ろしい。


 今エルを悩ませているのは、ただ数を増やすだけではなく、何か変化が欲しかった。

 勿論、もっと攻撃性の高い魔法や、便利な魔法はいくらでもある。だが、まだ初歩魔法以外は使ってはいけないと言われている以上、そこまで進む訳にはいかないのだ。


(数を増やす以外……数……形とか? あーでもどうなんだろな……)


 形を変える。一瞬いい案だと思ったが、極論を言えば全ての魔法は形を変えたに過ぎないのではと思い、頭を悩ませる。


(うーん。攻撃性が無く、尚且つ拳大ぐらいの大きさならいいかな?)


 そんなこんなで自分を納得させ、形を変えてみる事に。好奇心には勝てなかった。


(最初は四角にして……次は――)


 浮かんでいる魔法を一つづつ形を変えていった。

 四角、三角、星。図形以外に、きゅうり、ナス、キャベツなど、様々な野菜の形を作った。


 何んとなしにやっているこの形の変化も、普通ならそう簡単に出来ない。他の魔法使いが見たら目が点になっているだろう。


(後……何かあるかな……スプーンとか?)


 何の意味がある訳でもないが適当に形を変えていく。そこで、あることを思いついた。


(て、これで文字書けば紙もペンも要らなくない?)


 エルは雷に打たれた様な感覚だった。むしろ、今まで何故気付かなかったのだろうかと。

 早速やってみる事にし、一旦全ての魔法を解除した。


 懸念点もあるが、まずはやらないと分からない。


 心を落ち着け、集中する。


『こんにちは、エルです』


 まずは挨拶。炎の魔法で文字を作る。エルの扱える魔法の数とほぼ同じ数だ。問題はここからだ。数を増やさないと会話にすらならない。ぶつ切りだと、ただで際悪い会話のテンポが更に悪くなる。

 ただ、何を書けばいいかが悩み所であった。


(ん~まいいか適当で)


『リナはめっちゃスタイル良くて可愛い』


 出来た。文字を小さめにすれば何とか行けそうだ。

 更に続ける。


『何がとは言わないけど柔らかいし、いい匂い』


 更に続ける。


『抱かれて寝るの恥ずかしいけど寝心地抜群! 最高! 毎日欲しい!』


 これただの変態じゃん。そう思ってしまったエル。どうせ誰も見ていないのだから大丈夫だろうと、少し調子に乗っていた。

 集中し、次の言葉を考える。

 

 ……だからこそだろう。後ろからの視線に気がつかなかったのは。


「あれ~? そんな風に思ってたの~?」


 その声を聞き、エルは反射的に飛び上がった。


 冷や汗と焦り、驚きなどと言った様々な感情がエルの頭を駆け巡る。

 集中していたせいで周囲の事など全く気にしていなかった。

 

 だから、聞き間違いではと一途の望みに掛け、震えながら後ろを振り向く。

 仮に、おじいさんなら笑って済まされそうだから。

 だが、そんな望みは呆気無く消え失せ、居る筈がないと思っていた人物の姿がそこにはあった。


「ただいま。エル?」


 ニマニマと満面の笑みで見下ろす彼女の表情は、新しいおもちゃを見つけたかの様だった。


『え……えっと……い、いつから見て……?』


 無意識で先程使える様になった魔法を使う。人は窮地にこそ成長があるのだと言わんばかりに。


「え~? いつからだろうな~?」


 完全に遊ばれていた。

 今は秋後半に近付き、気温がかなり下がってきて涼しいよりも肌寒い位のはずだが、エルの体は真夏の様に暑くなっていた。


 一生の不覚。いっそひと思いにやってくれと悲痛の叫びを心で唱えていた。


「大丈夫。安心して」


 何がですか。何も安心出来ません。心で思う。


「ちゃんと一緒にお風呂入ってあげるし、一緒に寝てあげるから」


 全く大丈夫ではなかった。





 その後、家の中へ戻り雑談に花を咲かせていた。


 ここ数か月帰れていなかったのは、遠征に出ていたからなのだと。普通なら長くても二週間程度。大体は一週間前後で終わるものが多いらしいが、今回は特別だったらしい。


 国外の部隊と合同で、大規模な魔物討伐を行ったのだと。数十年に一度あるかないかレベルの魔物の数で、中には魔物を統率する魔人が複数隊現れ、それらの対処、経過観察が今回の長期遠征の原因なのだと。


 無事に帰って来たことが何よりも嬉しい。リナの力は何となく理解しているが、それでも心配なのだ。


「ん~やっぱ野菜おいし~。ここ最近は保存食ばっか食べてたから、飽きるし美味しくないしで早く終わりたかったんだよね」

「そうかいそうかい。たんとお食べ。そっちのはエル君が作ったんだよ」

「そうなの! すごいじゃん!」


 むしゃむしゃと野菜を頬張っていたリナは、目を輝かせていた。


「それに魔法も徐々に上達しておるようじゃしの」

「あ! それ! さっきのもそうだし覚えるの早いよ!」


 ビクッとエルは小さく跳ね、思わず視線を逸らした。


『で、でもまだ初歩魔法だけだから』

「時間はあるから、ゆっくりと覚えていきなさい。基礎を疎かにしては上達はしないからの」

「ん? ちょっと待って」


 ここでリナは何かに気づいた様子。


「エル君……詠唱は? さっきもそうだけど」


 流石に気がついたようだ。隠すつもりもないけど、さっきはそれどころじゃなかったせいで説明が出来ていなかった。


『詠唱はしてないよ。なんたって喋れないからね』

「……? じゃあどうやっ――無詠唱魔法?」

『そう。火の魔法の形を変えて文字にしてみたんだ』

「えっ……えっ……? 無詠唱……? 魔法の変換……? えぇぇぇぇっ!」

「ほっほっほ」


 家の中にリナの驚嘆が響き渡り、おじいさんはニコニコと笑っているのだった。

多分後数話で一章が終わります。

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