第六話 進展
一日目
エルは種の前で胡坐をかいて座り、瞑想していた。
おじいさんに言われた通りに、まずは魔力を感じることからだ。
意識を深い所まで落とし込み、体内に眠るものを探る。
気付けば数時間が経過しても尚、エルは何も感じられずにいた。
一度休憩し、掃除洗濯等を済ませ、再び再開する。
この繰り返しだった。
結局この日は何も感じられず、一日を終えた。
魔力を感じるのは難易度で言ったらそれなりに高い。人によって変わてくるが、大体半年から一年程度かかる場合がほとんどだ。
もちろん、エルはそれをおじいさんから聞いている。
だから焦りはなかった。
それから更に三週間。何の成果も見られずにいた。
(んー……分からない……そもそも、魔力って概念が漠然とし過ぎだよ……)
練習を始めて数週間。進展が全くと言っていい程無く、瞑想中に雑念が現れ始めた。
一度集中力を切らしてしまえば、戻すのは困難だ。
ここ最近は、集中力が切れたら水を浴び、頭を冷やして再度挑戦の繰り返しだった。
おじいさんは、「これからじゃよ」とよいうばかりである。
今日も何も感じることが出来ず、一日を終えた。
一か月が過ぎた頃。
変化は突然現れた。
(ん……? お? おぉ!?)
夏の暑さが少しばかりマシになってきた頃。エルはこの日初めて何かを感じることが出来た。
胸の奥底に眠る暖かいもの。おじいさんの言っていた事と一致していた。
(やった……っ!)
たった一瞬だたが、確かに感じた。
先の見えなかった道に、新たな風が吹いた感覚だ。
エルが喋れていたら、今頃叫んでいただろう。
(まだだ。これをしっかり感じれるようにならなきゃ)
喜びのあまり集中力を欠いたエルは、水を浴びこの日は眠りについた。
翌日。この日は雨が降ていた。
(うわぁ。雨じゃん。いや、やるけどね?)
雨だからやらないという事にはならない。何より、昨日の感覚を忘れたくないからだ。
魔力を感じるだけなら家の中でも出来そうだが、おじいさんがダメだといった。理由としては、間違って家を吹き飛ばしかねないのだと。
そんな事あるのかとエルは思ったが、おじいさんが言うならそうなんだろうと深く考えなかった。
地面に敷くシートに加え、パラソルを持ち外に出る。
雨によって冷やされた風が頬を撫でる。雨は土砂降りではないが、決して弱い訳では無い。傘をしていても風が吹けば濡れてしまうだろう。
雨の日用のローブは大きすぎて着れない為、濡れてもいい服を着ている。
濡れても関係ないとばかりに、エルはパラソルを広げながら種の前へ移動し、地面に刺す。
(よし、やるか)
深呼吸をして心を鎮める。次第に、意識は深い所まで落ちていった。パラソルに打ち付ける雨音すら聞こえない程、深く深く。
(……ッ!)
エルは感じた。昨日と同じ、暖かい感覚を。
昨日感じたのは夢でなかった事に安堵するが、再び気を引き締める。感じるだけではダメだと。
今回の第一の試練は、種に魔力を送り、成長させる事。このことを忘れてはならない。
まだ魔力を操れていないのだから。
(魔力を引き出す……引き出す……)
両手を種のある地面に向け、体の奥底に眠るモノを引き出すイメージをする。
一時間程度経過したが、変化は見られない。未だ、胸の奥に暖かいのを感じるだけだった。
(引き出すだけじゃダメ……? 例えば……全身に巡らせるとか……?)
今度は引き出すのではなく、全身に巡らせるイメージをする。血液が全身を巡るように。
心臓の鼓動、血液が流れるのを感じる。
更に一時間。
(やっぱ直ぐには……お? お?)
やっぱり駄目だったかと思った、その時だった。
(体が……暖かい?)
先程まで胸の奥に感じるばかりだった暖かさは、今や全身に広がっていた。それどころか、体から溢れる様な感覚すらある。
今なら行ける。
何んとなしにそう感じ、再び挑戦する。
雨風が強まり、エルの服が水を吸うが、気にする事無く続けた。
単純に送るのではなく、体を巡らせ、放出する。
気付けば半日が過ぎていた。
集中していた為エルは気付いていないが、全身は雨でびしょびしょだった。顔は汗なのか雨なのか分からない位濡れている。
風は幾分かマシになったが、代わりに雨が強さを増していた。今や土砂降り状態。
「エル君や。雨が酷い。今日はそこまでにしなさい。風邪をひいてはいけないからね」
突然の声に、エルはビクッと小さく跳ねる。
そこでようやく周りの状態が見えた。
(雨やば! ってか僕すごい濡れてる!?)
「さぁ、パラソル何かはそのままでいいから来なさい」
差し出された手を取り立ち上がる。その際に種はどうかと振り返る。
(ん?)
「どうかし――……ほぉ?」
二人の目線の先には、小さな芽が生えていた。淡い黄緑色の、ごく小さな芽。
エルは思わず、その前ににしゃがみ込む。
確かに芽が生えている。見間違えではない。遂に成功したのだ。
汚れることなど気にせず、しゃがんだままガッツポーズをした。
芽を見たおじいさんは目を細め、エルを見据えるのだった。