ミャリーナの秘密
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
朝の柔らかな光が、ガラス張りの近代的なオフィスビルのエントランスを優しく彩っていた。受付カウンターに立つミャリーナは、柔らかな茶色の髪をそよ風のように揺らし、愛らしい猫耳をピンと立てて今日も晴れやかな笑顔で来客を迎えていた。彼女の白いブラウスと紺色のスカートからなる清潔感のある制服は、プロフェッショナリズムと可愛らしさを見事に融合させていた。
毎朝、彼女の軽やかな「にゃ」言葉と愛くるしい仕草は、オフィス中の社員たちに小さな喜びと癒しをもたらしていた。コーヒーマシンの蒸気が立ち上り、キーボードのタイピング音が響く中、ミャリーナは受付の仕事を几帳面にこなしていた。
しかし、その明るい表面の下には、切なる想いが静かに息づいていた。営業部のエース、ルーク・ウルフへの秘めた恋心。彼は同じ会社の狼獣人で、冷静沈着な性格と鋭い眼差しは周囲から尊敬と羨望の的だった。背が高く、肩幅の広い彼の凛とした立ち姿は、まるで野生の狼を思わせるほど力強かった。
ミャリーナは彼の一挙手一投足を、いつも遠くから密かに見つめていた。彼が書類に目を通す姿、会議で堂々と意見を述べる姿、コーヒーを飲みながら窓の外を見つめる横顔。すべてが彼女の心を高鳴らせた。
前夜、彼女は寝る間も惜しんで特別なお弁当を用意していた。小さなキッチンで、肉球の形をしたサクサクのクッキーを丁寧に焼き、彼の好みを考えながら食材を選んだ。白地に水色の花柄のお弁当箱は、彼女の繊細で優しい心遣いを物語っていた。からあげ、卵焼き、野菜の彩りよく詰められたお弁当は、まるで彼女の気持ちそのものだった。
お昼休み。緊張でわずかに震える手でお弁当箱を持ち、彼女は勇気を振り絞ってルークのデスクへと向かった。その矢先、まるで運命が彼女をからかうかのように、予期せぬ出来事が起こった。
突然、屋上から侵入したハトが、オフィス内を飛び回り、書類を散らし、パニックを巻き起こしたのだ。社員たちは悲鳴を上げ、混乱に陥る中、ルークは驚くほど冷静に立ち上がった。彼の素早い動きは、狼獣人特有の俊敏さを感じさせた。
ミャリーナも何かできることはないかと動こうとしたが、慌てふためいて思わず躓き、ルークの腕に飛び込んでしまった。彼の体は温かく、力強く、安心感に満ちていた。「大丈夫か?」ルークの低く優しい声が、彼女の耳元で響く。
ミャリーナの心臓は激しく鼓動し、顔は真っ赤に染まった。「は、はい、ありがとにゃ…」彼女はいつもの「にゃ」言葉で返事をした。驚いたことに、いつも厳しい表情のルークに、わずかながら微笑みが浮かんだ。
数分後、ルークの巧みな対応でハトは無事に捕まり、オフィスは落ち着きを取り戻した。混乱の中、ミャリーナは震える手でお弁当箱を差し出した。
「これ…作ったにゃ。良かったら食べてほしいにゃ!」声は小さく、かすかに震えていた。
ルークは一瞬驚いたような表情を見せたが、お弁当を優しく受け取った。「ありがとう。あとで一緒に食べよう」その言葉は、ミャリーナの心に希望の光を灯した。
彼女は心に誓った。いつか勇気を出して、ルークに自分の気持ちを正直に伝える日が来ることを。猫耳をちょっと恥ずかしそうにかくしながら、ミャリーナは夢見るような表情で微笑んだ。
オフィスの窓からは、午後の陽光が柔らかく差し込み、新たな可能性を感じさせるのだった。