《夏休み》
-----香織side-----
昨日はすぐ寝て、
朝起きて、
家を出て、
今の現状に至る。
駅のホームで、
電車が来るのを待っている。
船とか飛行機とか
いろいろ行く方法が
あったけど...
電車にした。
だって、船や飛行機は
この世界にいても
この地に足はちゃんとついてないから...。
私がこの世界にいないって、
......想わせる。
だから、
必ず足がつく電車にした。
長い道のりで、
長い時間がかかっても、
それは確かなモノだから...。
心が不安になったりしなくてすむから。
じゃぁ、
電車を待ってる時間が長いから
私の昔話でもしようかな。
【香織の過去】
私は、
今は無愛想というか、
人と関わっていない。
...関われない。
だけど、昔はちゃんと
人とも関わりを持っていたし、
愛想も良く
表情もコロコロ変わっていた。
その頃の家庭は
今のお父さんじゃなくて
優しく
頼りになる
実のお父さんだった。
みんな笑顔で
笑い合って、
私も笑顔に自然となって
何処にでもあるような
優しく思いやりが溢れる家族だった。
その家族に亀裂が入った原因。
それは......
実のお父さんの
...死。
私の小学校の入学式当日。
私達家族は、
いつもと変わらない平和な日を送るはずだった。
3人で手を繋いで、
いつものように笑い合って、
他愛もない会話をして、
学校に向かっていたんだ。
キキーッ!!
耳に響くような音がなる。
隣を見ると、
私から手を放した
お父さんがいた。
......頭から大量の血を流して。
私は立ち尽くしたままで、
お母さんはお父さんに駆け寄り、
泣き叫んでいた。
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私達は横断歩道を歩いていた。
仲良く手を繋いで。
お父さんは、
信号を無視して
こっちに向かってくる
〔車〕に気付いた。
でも、それに
気付くのが遅かった。
お父さんは
私とお母さんを守るため
咄嗟に手を放し、
私の背中を軽く押した。
その直ぐに耳に響くような高い音が鳴った。
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今は病院。
手術中の手術室の前。
赤く光っていた使用中の文字が
お父さんから
流れていた血を思い出させる。
その時、お父さんは助からないかも・・・。
という、予想が頭を過った......
でも、そんなこと考えたくなかった。
そして、赤い光が消える。
ドアが開く。
白衣を着た男性が
こっちに来る。
私の嫌な予想は
悲しくも、的中してしまった。
「...申し難いですが、もう......」
お母さんは、
泣き崩れる。
ーーーー死んだ?
お父さんが?
私は
またその場に立ち尽くしていた。
そして、
一粒の涙が頬をつたった。
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葬式の日になった。
お父さんは、
近所関係も良く
たくさんの人が
お父さんのために泣いている。
そして、私も涙が出そう...
という、直前だった。
見てしっまったのだ。
......お母さんの事を。
お母さんは泣いていた。
...筈だった。
表向きには......
その時だけ、
私はお母さんの心の中が見えてしまった。
......心は笑っていたんだ。
お母さんの心の中は、
お父さんが死んでしまったのに
笑ってたんだ。
その時、
涙が溢れかけていた私の目が
一瞬にして乾ききった。
私の心は泣いているのに、
私の頬に涙は流れナカッタ......。
悲シイ、筈ナノニ・・・
泣キタイ、筈ナノニ・・・
どうして?
涙が乾いたの?
なんで、
お母さんの心は笑ってるの?
その答えを
知るのは思ったより早かった。
葬式の2週間経った日。
お母さんが発した言葉に、
私は驚いて声も出せなかった。
ーーー「私、結婚するわ」
笑顔でそう言っていた。
今回は心が直接見えなくても
分かる気がした。
・・・笑っている。
あの時と同じように...
お父さんの葬式のときと同じように。
・・・そうだったんだ。
お母さんはお父さんと
離婚しようとしてたんだね......。
あんなに笑顔だった家庭は
すべて偽りだったんだ・・・。
あんなに楽しかった日々は
すべて偽りだったんだ・・・。
じゃあ何が、
私たちの本当の家庭だったんだろう?
じゃあ何が、
私たちの本当の日々だったの......?
そして私は、
怒ることを忘れ、
喜ぶことを忘れ、
泣くことを忘れ、
...笑うことを忘れた。
【過去 END】
それが私が笑わなくなった、
理由の
・・・過去。
「あっ電車が来た」
私は電車に乗り込んだ。
電車に揺られながら、
東京を
人間が溢れてる町を
目指した。