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猫姫は鼠王子に婚約を白紙にされるが望むところである〜問題が多いのに平民の子がなにもかもを壊してきたが羊と高みで踊り鼠の本性を知ったあの子は逃げられない〜

作者: リーシャ
掲載日:2025/01/03

華やかなパーティー。


中心に居るのは鼠の耳が特徴的な鼠族王子マウスティン。


対峙するは、他国から婚約者の交流のためにいる猫族キャトラ。


鼠王子は威嚇するようにチーズの色の髪を揺らして、猫族を睨みつける。


「もう我慢の限界だ!」


いきなり怒鳴りつける愚行。


キャトラは白けた目を相手に向けている。


「我慢とは?」


「限界なのは!君が私の婚約者ということだ!」


「はあ……」


鼠国は猫国と交友を結ぶだけの関係なのだが、今回婚約があったのはとある事情によるものだ。


「よろしいですよ。書類はこちらが用意してありますのでご記入を」


「なっ。少しの情も見せないなんてなんて冷たいんだ」


なにがしたいのかよくわからない言葉を吐き出す男に、猫特有のくるんとしたカールした耳をゆっくり動かす。


「情でございますか?話し合いもなくこんな場所で叫んで醜態を晒す相手に情云々以前の問題だと思いますけどもねぇ。ねぇ、シプリ」


護衛の羊族の男に語りかける。


「はっ。わたしくしめが言葉を挟む権利はありません」


「真面目ですね」


好感触しかない答えに大満足だ。


そんな真面目な話をしているのを邪魔するマウスティンは、己の立場を何一つ理解していない発言を繰り返す。


この世界にはさまざまな種族がいて、互いに支え合って国を成り立たせている。


王子の問答にキャトラは呆れた目を向けた。


婚約をなしにしたい、ただの浮気であることはすでに知っていた。


何を言うかと思えばと笑う。


早くサインなさいと責める。


相手はこちらの有責にできないからとごねる。


「構いませんのよ。サインしないならばうちの国からの輸入品を引き上げ、高く値上げするだけですもの」


(ネズミ族は砂糖も大好物。耐えられるわけがないのよね)


断言しておけば、周りが王子に書けと圧力をかけていく。


そのことに王子は周りをウロウロ見て、なぜかこちらに助けてくれといった視線を流してくるが、助ける理由もなくなってしまった。


彼は猫の自分の後ろ盾を投げ捨てたのだ。


「ぐう!?ぬ、そ、それは……私達のことと、砂糖はっ、べ、別だろうっ??人のことに輸入を絡めるなど、無関係ではないか」


「はぁ?そんなわけないでしように。私の国のものをあなたたちの国が買っていて、その国の王女は私なのですが?私が不快になるようなことをされて今後も砂糖を入荷できるなどとまさか、思ってませんよね?」


眉をひそめて問いかける。


ネズミ王子は口元を引きつらせると、首を振った。


いやいやと首を振る、小さな子供みたいでみっともなさすぎる。


大人として、責任追及されるのは至極当たり前のことなのだが。


「それで、早くサインなさいませ。言った言葉が消える都合良い時間など来ません」


なにもなかった、なにもしなくていいというにはあまりにも遅い。


すでに決定的な言葉は出てしまっている。


婚約をやめると。


叱責も加えるとネズミ王子の震える手がペンへ。


しかし、そこに手を出す不届きものが。


「王子。惑わされないで。彼女にそんな力なんてある証明がどこにもないわっ」


どこにその知識があるのかわからないが、少なくとも王子はハッとなったらしい。


いや、ハッじゃない。


「そこの無関係な娘。口を閉じなさい。国同士の話し合いに口を挟むなど処罰ものよ。衛兵!」


手をぱんぱんと鳴らす。


王子が前に出るがこちらの方が権限が少し上なので衛兵は王子の制止の命令には従わずそばにいた令嬢を捕える。


きゃー、と叫ぶ女に猿轡をと提唱。


「彼女はかの有名な猿人なんだぞ!貴重な存在をそのように扱うなど許されないっ」


「猿人?ああ、爪もない非殺傷種族でしたか」


王子の追加情報を吟味して、センスを閉じる。


思案してからにっこり笑って王子にペンを握らせてサインをさせた。


都合よく王子の親や親族がそこにいたわけもなく、あっさり婚姻はなかったことになった。


しかも、相手有責だ。


ホクホクした気分でキャトラは笑う。


呆然とする王子を置いて会場をあとにして向かったのは、例の猿人の女のところ。


「おい、まさか行くのか?」


シプリが呆れた様子で問いかけてくる。


別室に軟禁されているらしい。


王子と彼女はもう結ばれてしまうか、二人ともひっそり隠されるかはこちらの人たちの手腕によるだろう。


「優しいな」


嫌味な口でにやりと笑う護衛。


それに答えないまま、部屋へ入る。


猿ぐつわを咥えていた女は、こちらの登場に酷く驚いた。


「これにサインを」


ついでに王子にサインさせたものの、婚姻届けをスイッと出す。


彼女は猿轡を取られて、嬉々としてサインする。


「あなた?まだ説明が」


「私と王子は結ばれるべきなのです」


うっとりした顔をしている。


確かに元婚約者のマウスティンは、かっこいい。


かっこいいけど問題があるから、猫族のキャトラと異例の婚姻前提婚約を結んでいたのだが。


「では、説明いたしますね。マウスティン王子は先祖返りが強い傾向にあります」


「知ってます!」


勝ったと言わんばかりの笑顔に、シプリが舌打ちする。


「私と婚約したのは国内に王子と婚約したいと思う人達がいなかったからです」


「ん?今の会話、繋がってなかったような。いきなりなにを言い出すんですか」


「猿人の狭いコミュニティで暮らしたあなたは恐らく先祖返りが起こす問題を知らないでここまできてしまったのでしょう」


キャトラはダメな子を見る目で相手を見つめる。


「王子の先祖はネズミという生物で、極端に言ってしまうとなんでも食べます。人の血が混じり薄くなることでその本能が抑え込まれるという恩恵があります」


「でも、王子はだから耳がいいし、鼻もいいから変化に気づきやすくなったと国内で人気ですよ!」


恐らくメイドやらに聞いたのかも。


「そんな王子を避ける女性たちは真実を知ってますから褒めるでしょうね」


「なにを、ですかっ」


猫はセンスを持ち上げて横に置く。


「起きている時は人の部分で理性的なのですが、意識が薄まったり寝たりすると彼は……」


女はごくりと喉を鳴らす。


「しかし、あなたはもう婚姻する意思のある契約書にサインもして、こちらの関係を壊してでもマウスティン第一王子を選びましたので……もう関係ないでしょうし、ねぇ?」


キャトラの言葉に、ただの嫌がらせだったと安堵する相手。


嫌な気分にするためだけの攻撃。


「では、ごきげんよう」


綺麗なフォームで膝を動かす女性。


高貴な空気を観に纏い退場していく猫族。


猿人、猿族に分類される女は不安な気持ちを抱いたが王子と結婚できる事実に、その時の会話などすぐに忘れた。







「マウスティン様!」


「ルイミ」


ネズミ族とサル族は互いに抱擁しあい、王から投げやりの婚姻をさせられてすぐに共に生活し始める。


「ルイミ、眠いから寝るよ。君も今日、少し近くで共に、どうだい?」


と、言われたので彼女は頬を染めて頷いた。


寝る前には同じ目線で笑い合った。


深夜、ルイミというサル族の少女は体に走る痛みに跳ね起きる。


「痛いっ、痛い!」


暗い中、慌てて蝋燭に火を灯してヒリヒリする腕を見る。


「え、は、歯型っ……!?」


ガッチリ、上下のでこぼこが赤い状態で残っていた。


「ひぃ!」


明らかに犬や小動物のものではなく、平坦な歯型だったこと。


恐る恐るベットに近寄り、王子を見てもあれだけ騒いだのにも関わらず寝ていた。


「今、二人きりよね?誰もいないわよね」


恐怖に震える彼女は静かな部屋に密室状態であることを確認すると、王子を起こす気にもなれなかった。


頭にはキャトラという、王子の元婚約者の話が脳内で再生されている。


あの時彼女は意識が薄まったり、寝たりすると本能がと言っていた。


王子は先祖返り。


ネズミの本能は食べること。


「ち、違う、違う違う違う」


頭を抱えて何度も唱えたが、くっきりしている歯型が目に入る度に、後ろへ下がる。


頭を振る。


何度も何度も。


違う違うと心でも反復させていたら、とろりとした目でこちらを見るマウスティンがいた。


「!!」


「…………」


「ま、マウスティン?」


起きているのかと見ると、焦点が合ってない。


ジッと見ていたらマウスティンは手をベッドの上に這わせる。


まるでなにかを探すように。


ゾッ。


ゾゾゾ!


背筋が震えた。


噛まれた後を守るように無意識に、抑えた。


「さ、探してる?かじるもの、食べる、ものっ……!?」


食べるはずがないという反論はこの腕が否定している。


あの痛みを思い出すと全身がこの部屋から逃げなければと足を動かす。


逃げないと逃げないと。


足を動かして、彼のいる場所から離れるために寝室から出ようとする。


──グイ


「きゃ!な、ひっ」


引っ張られて後ろを見て、顔を確認しようとした時赤いものが見えた。


鼻が見え、その下にあるものを認識した時には歯が目前に迫っていたので反応出来ず。


口を大きく開けてこちらに向かっている。


「いやあああああああああ!!」


声をあげればどうこうとなる話ではなかった。


相手には意識がないのだ。


頭をぶつけた彼女はぐったりした顔で自身の髪の毛を噛むネズミを見ているしかなかった。







「聞いたか?」


「ええ。髪の毛を食べられちゃったらしいわね」


「お前の匂いがあってやっと奇行が止んでいたのに、馬鹿なことしたな」


キャトラはただの婚約者だったので、寝室になどに行くわけがない。


しかし、あの王子&サル族はどうやらやらかしたというか、起こしてしまったらしいのだ。


噛まれたらしい。


然もありなんなキャトラは、当たり前な結末だわとお菓子を摘む。


キャトラの猫族特有の香りを振りまいたからこそ、王子の寝ている時の奇行は鳴りをひそめていた。


夜に噛むという、夢遊病かと思われたそれは、先祖返りによる副作用とも言われていたので、城では隠されてはいた。


が、知っているものは知っている。


あちこち歯形で家具もカーテンも、次の日噛まれてボロボロになるのだ。


新調するにも限界もあり、奇行は肉体を持つ相手であっても関係ない。


現に、王と王妃はメイド達が被害にあっていると聞いて、現場を見たことがあった。


やはり、噛み付く姿が恐ろしいと二人は感じている。


「派手にやられたらしいぞ?すっかりマダラになってしまって、結婚したくないと言っているらしい」


護衛の相手は鼻で笑って、キャトラを後ろから抱きしめた。


「ご愁傷様ねえ。自業自得だけれど」


抱きしめられながら、猫の子はうっそり笑う。


キャトラとて、夜になって寝ている相手に噛みつかれていたという生活など真っ平ごめん。


結婚した後は寝屋を分けると決めていたのに、当の本人たちといえば。


政略なので恋人の護衛を連れて行ったけれど、幸運にも相手にも愛を誓った相手がいたと知り、うまく利用できた。


キャトラが酷いと言われようと、同じく髪をむしゃむしゃしてくる男となど、王子でも嫌だ。


破談にしたくてしかたなかった。


羊獣人シプリは、マウスティンが噛み付く前に阻止するための護衛役でもあった。


眠らなくともうとうとするだけで発症するらしいので、近くにいる自分が一番被害にあう。


猿轡でもさせようかと思っていたので、手間が省けた。


正直、噛み付く相手ならば猫をそばに置きたい。


シプリは良かったなと耳を撫でて、キャトラはうっとりとなる。


「結婚式は出てやろう」


「ええ、そうね。盛大に祝ってあげましょうよ!ふふっ。楽しみ」


ルイミがどれだけ嫌がろうと、王女と破談になった王子に後がない。


その時、キャトラはがっぽり慰謝料を貰っていたので、別荘でも買ってのんびり過ごす予定だ。


祖国に関しては気にする意味はない。


「うちの国は多産だから一人一人の価値はないのよね。だから最弱国のところでも私を娶れたのよ。迷惑だったけれど、もう決められた相手を相手にしなくて済むから、お礼だけは言いたいの」


本当にお礼だけは言いたい。


恋人と今後も過ごせるお礼をいえば、結婚式をした二人もきっと喜ぶに違いない。


片方はカツラや顔にガーゼを貼った女。


にこにことなにもしらない男。


噛んでいると聞かされるが、甘やかされた王子に深刻さなど伝わらず。


嫌悪に滲む花嫁の射殺す目を浴びながらも、噛まれた口でキスをして誓いをするしか、花嫁には道がないことだろうし。


もしかしたらカツラを付けているかもしれない。


「今度ドレスを買いに行くぞ」


想像しただけでお腹が痛くなる。


ふふふふ、と笑うと恋人はどうしたと聞いてくる。


「カツラだし、怪我をして包帯だらけだろうなと考えたら、愛も大変なのねって。それでも今後噛まれる日々は変化しないのよねぇ」


寝室を分けるのは無理だろう。


キャトラは王族だが、ルイミは平民みたいなものと聞いている。


意見など封殺されるだろう。


くすくすと笑ってしまうのは、こちらのことなどお構いなしな二人の世界がすでに崩壊していることを思えば、おかしくてたまらない。


恋人のぬくもりを感じながらも猫獣人は、羊の抱擁を受け取り目を細めた。

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