第3話 曇り空
どれくらい経ったんだろう…。
アリスが体を起こすと、カーテン越しに朝日が射し込んでいた。
昨日は眠れないものとばかり思っていたのに…
小さな体では、眠気に勝つことさえ出来なかった。
悔しさと情けなさにシーツを握りしめて、アリスは、昨日の夜を思い出す。
「…必要な処置は、一先ず無事に終わりました」
「エリシアは…娘は助かるんですか?」
パパが、お医者様にすがるように聞いた。
「今はまだ、どうなるとも言えません。 危険な状態からは抜け出せましたが、今後いつ症状が再発するか……」
パパもあたしも、陰で聞いていた使用人達も、一斉に肩を落とした。
元々、姉さんは昔から体が弱かったんだっけ。
あたしが小さい頃にもこんな事があったとか、昔聞いた気がする。
「お願いです先生、娘を…娘を助けて下さい!
もう…妻の二の舞には…」
いつの間にか、日は高く上っている。
顔を洗って、歯を磨いて、服を着替えて…
髪をとかしていると、部屋の外からパパの声がする。
「アリス?
ちょっといいかい、お客さんなんだ」
…お客さん?
廊下に出てみたら、パパが立っていた。
すごく疲れた顔……。
きっと、朝まで姉さんに付きっきりだったんだ。
その隣に立っている男の人を、あたしは良く知ってる。
「スティーブじゃない!おはよう!」
「ああ、おはようアリス。」
「スティーブはエリスの見舞いに来てくれたんだ。私はこれから医者の先生のところに行かないといけないから、アリス、部屋に案内してあげなさい」
「うん、わかった。
いってらっしゃいパパ」
パパは帽子を被ると、玄関から出ていった。
姉さんの部屋は静だった。時間が止まったみたいに何もかも動かない。
…ベッドの上の姉さんも。
「…昨日からずっと寝てるのかい?」
姉さんの寝顔を見つめて、スティーブが聞く。
「うん…ずっと寝てる」
スティーブは姉さんの幼なじみだ。つまりあたしの幼なじみということにもなる。 姉さんとスティーブはあたしが生まれるより前から、とっても仲良しだった。
「…ねぇスティーブ?」
「ん?」
「姉さんは小さい頃にも病気にかかったんだっけ」
あたしの方を見て、スティーブは首を傾げた。
「うん。
確か…君が生まれてから一年だったかな?
今と全く同じだった。
2人で遊んでたら、いきなり血を吐いて…」
「…やっぱり血、吐いたんだ…」
口元を血まみれにして倒れてるのを見た時は、本気で気絶した。
もう血なんて見たくない…。
「あぁ…あれを見たら叫ばずにはいられないよ」
「スティーブも叫んだ?」
「そりゃまあ…天井が落ちる程に」
苦笑いをしながら、スティーブは姉さんに顔を近づけた。
「あの時からさ…医者になろうって決めてたんだ」
「え?スティーブが?」
初耳だよそんなの!
思わず驚いた声をだしたら、スティーブが振り返った。
「え…そんなに驚くほど意外?」
あたしはコクコクと頷く。
「あ〜そっか、アリスの前ではそんな話した事なかったもんなぁ」
また困ったように笑って、スティーブは姉さんの手をとった。
「医者はひとまず治った、って言ってたけど、本当に完治させるには今の医学じゃ力不足だったんだってさ。
俺はまたあんな事になったら嫌だったし……君達の母さんまで病気で亡くなった時、誓ったんだ。」
スティーブの体は少し奮えてるみたいだった。
「…スティーブ?」
「…絶対腕の立つ医者になって、お前の病気直すって約束したのに……。ごめんな、間に合わなかったかも」
小さく呟くと、スティーブはゆっくりドアの方に歩いていく。
「あっ、待ってどこ行くの?」
「ああ、ちょっと大学にいってくる。
先生達に、腕の良い医者を紹介して貰ってるんだ。 君のお父さんも今頃必死に捜してるはずだよ。」
そう言うと、スティーブはゆっくりと部屋を出て行く…
寸前にあたしの体当たりをくらった。
「うぐっ!?」
「あっゴメン力入れすぎた!?
でもまだ帰らないでよスティーブ!」
あたしはスティーブの服を引っ張る。
「な…何やって……?」
「ねぇスティーブ、恋ってどんな感じ?」
「………えぇっ?」
スティーブの顔が少し紅くなった。
「いぃぃいきなり何を!?」
「だって、姉さんとスティーブってそういう関係なんでしょ?」
「…なっ///!?」
あは、今度は耳の先まで真っ赤だ。
「…な…何で知って…」
「バレバレだよみんな知ってるよ、っていうか姉さんは公認してたし」
「え…エリシア、バラしてたのか…」
紅くなった顔を手で覆って、スティーブはため息をついた。
「ねえ、恋ってどんな感じなの?」
「……いや、何でまたそんな事を?」
横目でコッチを見て、スティーブは恥ずかしそうに聞いてきた。
「…なんか、姉さんとスティーブ見てたらさ。
あたしはそーゆうのまだわかんなくて…」
「……。
えと…そうだな、何というか……、
一緒にいると安心する、っていうか…。
ドキドキするっていうか…」
「安心するのにドキドキするの?
なんか変じゃない?」
「いやまぁそうなんだけどさ…?
あ〜、とにかく!
守りたかったり守られたかったり、甘えたかったり甘えられたかったりとかそんな感じだっ!」
「ふ〜ん。
…じゃあスティーブは姉さんに甘えたいんだ…?」
「………っ////!?」
あ、顔から湯気が出てる。
「…。
ま、まあそれはいいとして……。
じゃあ俺、帰るな」
「あ、待って」
呼び止めたら、今度は何だ?って感じで振り向かれた。
まだ顔が紅いよ?
「あたし、スティーブが義兄さんになったら嬉しいな」
「……え、あ…」
スティーブは、嬉しいような…困ったような顔をした。
「…でも……俺なんかでいいの?
肝心な時に、助けてくれる医者を捜すくらいしか出来ないのに…」
「今出来る事を必死にやってくれてるじゃん。
アタシの義兄としては、十分合格点ね!」
そう言って、思いっきり笑ってみせる。
スティーブも戸惑ったような顔をしてから…嬉しそうに笑ってくれた。
「…ありがとう。」
そう言って、スティーブは部屋を出て行く。
あたしは姉さんの方を見た。綺麗な顔して眠ってるよ、ほんと。
…スティーブが義兄さんになる前に死んだりしちゃ、絶対ダメだからね……?
「愛されてるねぇ…お姉ちゃん♪」
…スティーブとパパは必死にお医者さんを捜してくれてる。
使用人達は、自分達の仕事をしながらも姉さんの看病を一生懸命してくれてる。
「……あたしには、何が出来るんだろ。」
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