第17話 薬を作りましょう!
「おーいみんなぁ」
突然、ほのぼのした声が響きわたる。
「あれ?
三月ウサギじゃん!」
声のした方を見ると、三月ウサギが森の中から飛び出してきました。
「おーー三月!!
待ってたぞ〜
どうだった!?」
あれ、帽子屋が復活したよ。
「あんた女王様にフルボッコにされたんじゃ…」
「まあまあ細かい事は気にするなよ!
三月!ワームはいたのか?」
細かくないし気にするって。なんなんだアンタ?
ホントに不老不死かい。
…それと、"ワーム"って誰ですか?
「お待たせ〜!!
連れてきたよっ」
三月ウサギは、テーブルの上に、小さなキノコをのせた。
「紹介しよう、
コイツがワームだ!」
キノコの上にいたのは、ちいさな芋虫だった。
なんか…パイプみたいなのを吸って煙はいてる。水煙管っていうんだっけ?
「…おぉ、
この子供が"アリス"の…。
なんじゃ…チェシャ猫の子供までおるのか。
おまけに、気の強い女王陛下かね?」
しわがれた声で、芋虫はゆっくりしゃべる。
「久しいな"毒虫"。
単刀直入に言う。
……万能薬を出せ。」
芋虫を睨みつけながら、女王様が言った。
"気の強い"って言われたのが気に入らなかったのかなぁ?
「ね、ねぇ。
万能薬って…?」
「万能薬はね〜っ
たいていの病気なら、理屈抜きの問答無用で治しちゃうスゴーい薬だよ!」
三月ウサギが飛び跳ねながら教えてくれた。
「問答無用で?
じゃ…じゃあ、その薬を飲めば…!?」
「アリスのおねーさんも元気になるってワケだ。
よかったなーアリス!」
やった…!
その薬を持って帰れば、姉さんの病気も治せるんだ!!
この芋虫は、白うさぎさん達が言ってたお医者さんなんだね。
「ありがと〜三月ウサギ !!わざわざ芋虫さんを探してきてくれたんだね」
「んふふ〜。
いいんだよ〜アリスのためだもんっ!」
あぁ…今はあなたが天使に見えるよ。
「芋虫さん!
その薬どこにあるの?
早く持って帰りたいんだけどっ」
「まぁそう焦らんでおくれ。
今から作るんだから」
あ、今から作るの?
「でも…材料とか調合とか大変なんじゃ…?」
「ああ、大変じゃぞ。
なにせ万能薬じゃからなぁ」
うぅ…やっぱり大変そうだぁ。
まぁ、仕方ないか。
あと一踏ん張り。
材料が見つかったら、薬を作ってもらえるんだし!
「それで芋虫さん。
材料って何がいるの?
頑張って探してくるから」
「おぉ…。
まずはなぁ、ブージャムツリーの葉が必要なのじゃ。」
「ブージャムツリー…ってなにそれ?」
いきなり聞いたことも無い材料だよ…。
はぁ…。
やっぱりそう簡単には見つかりそうもないなぁ。
「あったよ〜」
ってあったんですか!?
早いね!!
「うちの庭に生えてたから〜
アハハ!」
三月ウサギが笑いながら言った。
「あ、ありがと…。
えと、次の材料はなんですか?」
「次はクロタンポポの花じゃ」
「おっ!
見つけたぞ〜」
「次はダイオウシイタケじゃ」
「む、
コレのことか?」
「次は満月瓜の果汁が」
「あったよ〜アリスっ」
「…ふむ。
だいたいそろったようじゃの」
集まった材料を見て、ワームが満足げに頷いた。
「…いやいやいや!
おかしいでしょなんで全部三月ウサギの庭で見つかるのよ!?
なんか雑草みたいなのもあるじゃん!!」
「材料自体はどこにでもあるものなのじゃ。
次は調合じゃのう」
…さっき大変だって言ってたじゃないですか。
ホントに大丈夫かなぁ?
おままごとの要領で事が進んでる気がするんだけど…。
「…よし。
そこのティーカップを取ってくれ。
そこに今まで採った材料を入れる。」
「あの…、でっかい鍋とか使わないんですか…」
「ダメだよぉアリス!」
思わず聞いてみたら、ヤマネに止められました。
「ワームはあの大きさだから…ティーカップぐらいがちょうどいいんだよぉ。」
「あ、そうなんだ。」
なんやかんや言ってる間に、芋虫は材料を小さくちぎり始めた。
それをカップの中に入れて終わると、あたし達の方を向いて口を開く。
「ふぅ…。
これでよい。
後はカップに紅茶を注げば、おおかた終わりじゃな。」
「それだけでいいの!?
ホントに?
激しく不安なんですけど!!」
ツッコミもいれたくなりますよ…。
最後は紅茶を注ぐだけ、って簡単すぎるでしょ?
「まぁそうおっしゃるなお嬢さん。
これでも、長年いろいろな病気を治してきた身じゃ。」
「大丈夫だよアリス。
僕もワームの噂は聞いてるけど、ちゃんとした薬を作ってくれるのは確かだから!」
「猫くん…。
あなたがそう言うんなら、まぁ…大丈夫なんだよね?」
なんだかんだで半信半疑だよ。
とにかく、これで万能薬が出来るんなら……
姉さんの病気が治るんなら、あたしも手伝わなきゃ。
「この中に、紅茶を入れればいいんだよね」
「そうじゃよ。
カップいっぱいに、溢れるギリギリまでのぉ」
ワームに言われた通り、紅茶を注いでみる。
こぼれないように、慎重に慎重に…。
「…ふぅ!
終わったよ?」
…そう言うが早いか、カップの中身は急に光始めた。
眩い銀色に輝くてぃーカップ。
なんだか、不思議なエネルギーみたいなのが伝わってくる。
「うわぁ…
ホントに出来ちゃった」
「いや、まだ完成ではないのじゃよ。」
芋虫が、チッチッチと前足を振ってみせる。
「…どんな強力な特効薬でも、あるモノが欠けているだけで、効果は格段に落ちるものじゃ。」
「あるモノ…?
まだ必要なモノがあるの?」
あたしは、首を傾げてワームに聞いてみた。
特に思い当たるものは無いし。
「なぁに…お前さんならすでに持っとるモノじゃ。
…心じゃよ。
病に打ち勝とうとする病人の意思。
病人が回復する事を心から願う者の祈り…。
わしの薬は、その2つを後押しするためのモノなのじゃ」
……心、か。
上手いこと言ってくれるわ。
「だったら大丈夫。
あたし、姉さんに元気になって欲しいって、本気で願ってるから。」
「…その様でなによりじゃな。
さすれば……その薬、姉上に飲ませてみるがよい。必ずお嬢さんの願いを聞き届けるはずじゃ。」
ワームの言葉に、あたしはただ頷いた。
「ありがとう、芋虫さん。」
「あと半日ほど熟成させたら、家にもってお帰り。その頃には完全に出来上がっとるだろうからのう。」
そう言うと、ワームは三月ウサギを呼び寄せる。
「さぁ、仕事は終わりじゃ。
さっさと家に帰してくれんか?」
「はいはいごくろーさま。
それじゃ、ちょっくら送り返して来るから」
三月ウサギは、芋虫の乗ったキノコを手にとって、また森の中へと走っていきました。
「…アリス!」
猫くんが、あたしの顔を見て微笑んだ。
「うん猫くん。
とうとう……薬手に入ったんだよね!?」
「「やったあぁあ!!」」
「やれやれ。
どうやら用は済んだらしいな」
女王様は、薬のティーカップを覗き込んだ。
さっきまで銀色に光ってた中身が、今は透明な液体に変わってる…!
「はい、女王様!
手伝って下さって、本当にありがとうございました!!」
お礼を言ってにっこり笑って見せたら、女王様は少し照れたような表情になった。
「と…とにかく、
私はこれで本当に帰るからな。
あとは自分達で上手くやるのだぞ!」
「はいっ!
ほんとうにお世話になりましたっ」
「では……達者でな。
2、4、3、7、9!
出発だ、ついて来い」
女王様の声を聞いて、森の中からトランプの兵隊達が戻ってきた。
今まで森の中で待機してたのかな。
「おい、NO,9はどうした?」
「また森の中で迷ってるみたいであります!」
迷子か。
…あいつら、女王様の護衛には役不足な気が…。
女王様達の姿が見えなくなると、帽子屋が口を開いた。
「いや〜。
なんかいろいろあったけどさ、楽しかったよ!
また遊びに来いよな、アリス!!」
「うん。
手伝ってくれてありがとね、あとお茶も。
美味しかったよ♪」
「アリス…。
この小瓶に薬を入れとくといいよ。
紐もつけてあるから運びやすいよぉ…」
ヤマネが小さな瓶を手渡してくれた。
いつの間にやら、さっきの薬をたっぷり入れてくれてたんだ。
また眠そうな顔になってる…もうすぐ寝ちゃうかな?
「ありがとう、ヤマネさん。
三月…は今はいないけど、3人のこと忘れないから!」
「……アリス。
一つだけ…いい?」
トロンとした目であたしを見つめながら、ヤマネは静かに言った。
「"アリス"は……。
キミのお母さんは…、大人になってから、キミにこの国のこと、話したんだよね…?」
「…え?」
「ボクたちのこと…大人になっても忘れてなかったんだよね…?
ちゃんと…覚えてて……くれたんだよね……?」
こっくりこっくりして、今にも眠り込みそうなヤマネさん。
傾き始めた体をそっと抱き寄せて、あたしは答える。
「…うん。
ずっとずーっと…覚えててくれてたよ?
ヤマネさんの事も、帽子屋の事も…。
みんなの事、ずっと大好きだって……あたしに話してくれたもの」
それを聞くと、ヤマネは嬉しそうに微笑んだ。
「………………よかっ……たぁ。………zzz。」
「ありゃりゃ、ホントに眠り込んじまったよ。」
苦笑いしながら、ヤマネを抱き上げる帽子屋。
「…それじゃ、ホントにお別れだな。
また遊びに来てくれよアリ……
ってもういないしっ!?」
森の中の小さな道を、あたしは走って帰っていく。
隣には子猫くん。
首からは薬の小瓶を下げて、両手で大事に包み込んで。
「はぁっはぁっ…。
なんで帰りはパピーがいないの〜!?」
「どっか遊びに行っちゃったみたい…。
アリス、疲れてない?」
息切れ気味のあたしを見て、猫くんが心配してくれた。
「ううん、大丈夫だよ……たぶん。
それより帰り道コレであってんのかな?」
「うーん…
ほとんど一本道だし、これで合ってると思うけど…。」
日は沈みかけてきてるし、森の中だからヤケに暗いんです!
「白うさぎが迎えに着てくれればいいのに〜!!
不審者が出たらどうすんのよ……
あ、その時は猫くんがアタシを守ってくれるもんね♪」
「え?
う、うん!
もちろん……僕が守るから。」
ね…猫くん……!!
カッコイいよ////。
オマケにすっごく可愛いです!!
「あははっ!
だったら怖いものなんてないわね。
猫くんってすっごく頼もしいもの…」
『ぎゃああああああっ』
……。
な、なによ今の!?
「猫くん…なんだろ?
悲鳴みたいだったけど。」
「…向こうの方からだね」
猫くんが見つめる方向には、細い脇道があった。夕暮れの暗い光に照らされて、怪しく浮かび上がってる。
「うぁ……
いかにもなカンジで不気味な道じゃん。」
「あっちは確か…女王様の薔薇園がある場所だよ!どうしたんだろ?」
薔薇園…?
そんな綺麗な場所があったんだ。
…ちょっと行ってみたいかも。
「ねぇ猫くん、ちょっと言ってみようよ」
「え!?
でも変な悲鳴したし…」
少し焦る子猫くん。
「大丈夫だって。
誰かがケガをしてるのかもしれないじゃん!
…それとも、やっぱり怖いのかな?」
「なっ……!!
そんなことないよ!
危ないかもって……
あ、アリス待ってよ!?」
あたしが駆け出すと、子猫くんも慌ててついてきてくれた。
こんなに心配してくれてる。それがとっても嬉しくて、愛おしくて、自然と笑顔が溢れてくる。
この子がいれば、怖いものなんか一つもないよ。
なぜか今は、そんな気がして止まない。
今はただ……
こんな幸せな時間に、いつまでも続いて欲しかった……。




