第15話 ヤマネのアルバム
ヤマネが登場です!
The Dormouse。
彼はいつも眠そうで、ゆっくりまったりしゃべります。
寝床は専用のポットの中です。
新たな愛玩動物(!?)の出現に、アリスは平常を保てるのだろうか!!
保ってくれなきゃ困るんですけどね…。
「ふわわぁ…。
あれぇ?女王様ぁ。
いらしてたんですか?」
その生き物は、ポットから顔を出した状態のまま、ぺこりとおじぎをした。
「……ヤバい。」
コレが…眠りネズミ(ヤマネ)か……!
想像以上の可愛らしさです。大ダメージだ。
あぁ…ズルいよそんな寝起きの姿(しかもポット入り)というステータスを持って出現するなんて…。
じ、自制心が……
「あ…アリス、大丈夫?なんかスゴい震えてるけど」
「だ、大丈夫だよ猫くん…。
あたしは負けない。
あたしには猫くんという心に決めた相手が…
色即是空
色即是空…。
む…無心…無心になるのよアリス…!!」
「おー、
なんか面白い事になってるな、アリス。」
帽子屋が、興味深そうな目でコッチを見てる。
「ぼ、帽子屋!
のんきに観察してないでヤマネをどうにかして!とにかくポットから出さすくらいしないとアタシもう……ハァハァ」
「…なんか本当にヤバそうだな。
あ、
じゃあこんなのはどうだ?」
こんなのって…?
「ほら出てこいヤマネ」
「あぅ」
帽子屋はポットからヤマネを摘み出すと…
「ふみゃっ!?」
あろうことか猫くんをポットにつっこんだ。
「あ、あああ……!!」
「仕上げにフタを乗っけて…と。」
ポットのフタを頭に乗せて、ポットから顔をのぞかせる子猫……。
「ふ、ふにゃあ…」
妄想力が及ばない方は、画像検索でもしてごらんなさい。
最近は鍋の中で寝てる猫とかも話題になってるんだから。
猫好きにはたまりません。
たまりませんよ……!!
「こ……子猫くん…」
「あ…アリス?」
「ゴチになりまぁぁぁぁぁあああすっ!!!!」
「落ち着かんか」
ゴンッ
女王様の手刀が、あたしの眉間にヒットしました。
「…という惨事を経て、今現在に至るワケだけど〜……。」
「あ…アリス、おでこ大丈夫か?
済まない、つい力を入れてしまって……」
うう…痛い。
いや、アタシが悪いんだけどさ。
「だって…可愛かったんだもん…グスン。」
「はいはい。
誰も怒ってないから、もう泣かないの〜」
猫くんがほっぺを舐めて慰めてくれました。
「それにしても…アリスの愛情表現ってなんかこう…鬼気迫るものを感じるよなぁ」
帽子屋が1人で納得したように頷いてる。
なんかムカつくなぁ…
そんでもって、この言葉を聞いたヤマネがやっとあたしに気付いた。
「……ほわっ?
もしかしてぇ…アリスさん、帰ってきたんですかぁ!?」
「あー、アナタが思ってる"アリス"とは別物なんだけどねぇ…。
いちいち説明するの面倒くさいんだけどなぁ」
〜〜説明中でござい〜〜
「…とまあ、そういう ワケなのよ。」
「へぇ〜。
"アリス"さんに娘さんが出来てたなんて、知らなかったなぁ〜。」
納得してくれたらしくて、ヤマネは寝ぼけ眼をパチクリさせた。
あ〜んカワイイ。
でもあたしはやっぱり猫派だってことが、はっきりわかったよ。さっきの一件で……。
我ながら、あそこまで理性崩壊するとはねぇ。
「…あれ?
そういえば女王様って、あたしが前の"アリス"の娘だってこと、始めから知ってるカンジでしたよね…
あ!よく思い出せば猫くんも!!」
「僕はバンチョーから話を聞いたことがあったから…。
僕が産まれたのは"アリス"がこの国から帰った後だし、実際はどんな娘なのかは、よく知らなかったんだけどね。」
猫くんが、あたしの膝の上で答える。
バンチョーって…あの白うさぎが知ってたのか。それこそ何でなのか気になるし!
「わ…私はだな…
その…」
「あ。それと、ママから聞いた話だと、なんでか女王様がメチャクチャ怖い人みたいだったんですよ。何かあるとすぐ処刑!みたいな。
でも実際はそんな怖い人じゃないし……ウチのママって、女王様と仲悪かったんですか?」
「………っ。
わ…わたし……そんな風に言われてたのか…?」
あれ?
なんだか女王様…落ち込んでるみたい?
「あはは〜。
まあまあ女王様ぁ!
イイじゃないですか。何しろ昔の話なんですしぃ〜」
「……帽子屋。」
突然、女王様が帽子屋の肩を掴みました。
肩の骨が粉砕されてそうな勢いです。
「あ………
あは、調子乗りすぎちゃいましたかね。まいったなこりゃアハハ(滝汗);」
「ちょっと来い。
大事な用があるから…なぁ。」
あ〜、帽子屋がどこかに連れてかれちゃった。
死なない程度にボコボコにされるといいんだけど…。
「はぁ…結局ハートの女王様の事はわからず仕舞いか。」
帽子屋も女王様もどっか行っちゃったし……
それにさっきから、三月ウサギの姿も見えないんだよね。
どこ行ったんだろ?
「…まぁいっか。
あたし達、そろそろ薬探しに戻らせてもらわなくちゃ。
ばいばいヤマネさん」
「あ、ちょっと待ってください…」
あたしと猫くんが席を離れると、ヤマネが急に引き止める。
「もしかして…この先の森に入るつもりなんですか?」
え…?
そりゃまあ、この辺りは見る限り森ばっかりだし…先に進むとなると森の中になるんだよね。
「そうだけど…
どうかしたの?」
「この先は迷いの森なんですぅ…。
帽子屋や三月さんは慣れてるみたいなんですけど、知らない人が入ったら生きて出られるかどうか…」
「…マジですか?」
あたしと猫くんは森の入口を凝視した。
あ〜、なんか背中に悪寒が…!!
「じゃ…じゃあ、この先には進めないって事?」
「進まないほうがぁ…身のためですかねぇ。」
…なによそれぇ。
結局ここにとどまるしかないじゃん。せめて帽子屋か三月ウサギが来るのを待たないと…。
だいたい白うさぎさんは、帽子屋に事情を話せば薬探しを手伝ってもらえるって言ってたのに。
あいつ使いもんにならないじゃない…!!
「あ〜なんかイライラしてきた。
早く姉さんに薬持って帰ってあげたいのに〜」
怒りながら椅子に座るあたしを見て、ヤマネがクスクス笑った。
「まあまあ。
そのうち三月さんが帰ってきますから…それまで、一緒に"コレ"でも見ませんかぁ?」
そう言って、ヤマネはテーブルの上に何かを乗せる。
大きな本みたいだけど…?
「…?
なんの本なのソレ?」
あたしが聞くと、ヤマネはトロンとした目を細めて微笑む。
それから、本を開いて見せてくれた。
「…うわぁ!
これってアルバム?」
本の中には、たくさんの古びた写真。
帽子屋や白うさぎさんも写ってる。
「たしかぁ……この国の、18年くらい昔の写真なんですぅ。
まだアリスさんも猫くんも、産まれてませんねぇ…」
そう言うと、ヤマネは一枚の写真を指さした。
「2人とも…、この女の子が誰だかわかります?」
「このちっちゃい子?」
ヤマネが指さしたのは、薔薇の花園をバックにした大きな写真。
広い庭園のまん中に、ドレスを着た女の子が立ってる。
「うーん、年は4才くらいかなぁ〜。
…なんか機嫌悪そうだけど?」
猫くんは不思議そうに首を傾ける。
「ああ、たぶん写真撮られるの自体がイヤなんだよ。
アレって何十分もじっとしてポーズ決めてなきゃダメでしょ?面倒くさいじゃん」
というのはあたしの意見なんだけどね。
「ふふ。
それもあるでしょうけどぉ…この時期は特におてんばだったから。」
懐かしそうに写真を眺めるヤマネさん。
いったい誰なんだろ?
白黒だから髪の色はわかんないけど、顔はスゴく可愛いし…。
こりゃ大人になったら、かなりの美人だろ〜な。
「んー?
ダメだ〜白黒だからぜんぜんわかんないよ!
…それにしてもこの子、眼力あるなぁ…。」
キッと眼前を見据える眼差し…。かなり怒ってますね。反抗期だったのかな?
でもそんな表情がなんともまた綺麗で…。
綺麗…で…?
「あれ…
この子の眼、なんか見覚えあるかも…?」
「あ、ホントだ!
なんかついさっき、こんな鋭い眼差しを見た気がする…」
…あ。
「「も…もしかして…
女王様ぁっ!?」」
「当たり〜っ
2人とも、驚きましたぁ?」
いやいやいや、そんなほのぼのしたレベルの驚きじゃありませんよ!
…ホントに女王様?
ちっちゃいし…てか、当たり前だけどさ、ハートの女王にも子供の頃ってあったんだね…。
「うわー
すごくカワイイし////
女王様って昔はこんなだったんだ…」
開いた口のふさがらないあたし達。
それを見ると、ヤマネは次のページを開いた。
「やーんちっちゃい女王様がいっぱいいる〜!!」
そのページには女王様の写真がいっぱい!
「小さい頃から、女王様がよくぼく達のところに遊びに来てくれたんですぅ。
だからぼくらにとってはぁ……今でも 、妹みたいな感じなんですよねぇ」
「そうだったんだ…!
だからこんなに写真があるのね!!」
お茶会に遊びに来てるトコとか、白うさぎさんに抱きついてるトコとか、……お昼寝中の寝顔まである〜っ////
「こ、これ一枚いくらだったらゆずってもらえますか!?」
「端から見るとあぶない人みたいですね〜!」
……………。
「……こほんっ。
き、気を取り直して…
18年前の女王様は、こんなにちっちゃかったんだねー!!」
「…ふふっ。
驚きついでに、他のページも見てみますぅ?」
「み、見たい見たいっ! 」
あたしはアルバムを受け取ると、ペラペラとページをめくってみた。
いろんな写真がある…けど……女王様以外は、あんまり今と変わらないなぁ…。
「…帽子屋は女王様と同じ人間なのに、ぜんぜん歳とってないじゃない…ヤツは不老不死か!?
……ん?」
何枚かページをめくった時……不意に、ある写真が目にとまった。
「…ねぇ、この女の子は?」
クロッケーをする女王様の隣に、もう1人女の子がいる。
この頃の女王様より、3才くらい年上みたいだけど…?
じ〜〜〜〜。
「ね、猫くん?
どうしたの…?あたしのことそんなに見つめて……///」
「あ、
えっとね、この女の子、なんか……アリスに似てない?」
あたしに?
そういえば、着てる服もあたしのエプロンドレスにそっくり…。
よくよく観察すると、その女の子の頭にもリボンがついてる。
「…このリボン……!!」
あたしは、自分のアタマに手をやった。髪に結んである、淡い水色のリボン。
「………ママなの?」
ヤマネは…あたしを見つめたまま、ゆっくりと頷いた。
昔の写真は撮るのに時間がかかったそうで…。
ルイス・キャロル自身、写真撮るのが好きだったみたいですねっ
アリス・リデル本人も彼に写真撮ってもらったらしいです。
19世紀の子供は我慢強かったんだなぁ…!




