この一冊の本に、恋を託して
いつも通りの静かな朝、彼女は窓辺に佇んでいる。素朴な表情の彼女は、遠くを見つめながらぽつりとつぶやいた。
「あの人、今日も忙しそう」
彼女の名前は知世優子。
小さな本屋で働いている一人暮らしの女性だった。
優子の日々の楽しみは、隣に住む青年・晴菜太拓也が店にやってくることだった。
彼が本屋に来ると、店内は一気に明るくなる。そんな彼の存在が優子の心を、ほんわかと温かくしてくれた。
彼の笑顔や、時折見せる真剣な表情に、優子の心は揺れ動いた。
彼が本屋に来るたびに、優子は少しだけ勇気を出して話しかけようとするが、いつも言葉が出てこない。
彼女の心は、まるで春の風に揺れる花びらのように、拓也の存在に触れるたびに慌ただしく舞う。彼の一挙一動が、小さな波紋を広げ、その波紋が静かに優子の心を満たしていった。
ある日、彼女は勇気を振り絞って拓也に声をかけることにした。本屋の人だからこそ、本を通じて自分の気持ちを伝えることができるのではないかと思ったのだ。
その日も静かな店内で、優子は彼に一冊の本を手渡した。
「これ、読んでみてください。私の気持ちが少しでも伝わるといいなぁ..なんて.....」
ほんのりと赤くなりながら、優子は拓也に微笑みかけた。
彼に渡したのは、恥ずかしがり屋の女の子が好きな人に想いを伝える、ありふれたお話。
本という媒体を通じて、恋する想いが拓也に伝わることを願って。