プロローグ
「高野君のことが好き」
あまりのことに俺はぼーっとした。だって言われた相手が俺が片想いをしている女の子――冴房佳奈だからだ。
「はっ」
いけない。あまりのことに放心していたけどなんか裏があるんじゃないのか? 俺は周りを見回す。すると彼女の後ろにいつも一緒にいる女子がニヤニヤしながら僕達を見ていた。俺はそれを認めてから顔を俯かせる。
――あぁやっぱりか。
俺――高野幸仁高野幸仁15歳。今の今まで彼女は愚か友達すらできたことがないボッチだ、そんな俺に片想いをしている女の子が告白してくるなんてありえない。それを証明するように彼女の友達が僕達のやり取りを見ているのだから。
きっと罰ゲームなんだろうな。いやそれしかないだろう。でもいいんだ。たとえ嘘とはいえ冴房さんが俺に告白してくれたんだから。これ以上に嬉しいことがあるだろうか……いや、ない。
「冴房さん嬉しいよ」
俺の言葉に彼女の強張っていた顔が弾かれたように満面の笑みへと変わる。
「ならっ」
「うん。俺……もう死んでもいいや」
嘘とはいえ好きな子に告白してもらえて感極まった俺は彼女にそう呟く。普通なら気持ちが冷めたり怒りを覚えたりするんだろうけど、人生初めての告白されたのとその相手が好きな子だとそんな気持ちも湧かないみたいだ。今の俺にこれ以上嬉しいことがないからそれを表現したくて俺は今の言葉を呟いた。
あーでもこれで彼女は俺に構ってはくれなくなるのか。それは少し……いや大分寂しいし嫌だな。俺はそう思いながら顔を上げた。
「え?」
そこには涙を流している冴房さんの姿。透き通るように白い肌の冴房さんの顔が涙で濡れていた。彼女の綺麗な瞳から綺麗な真珠のように大粒の涙が次から次へと溢れ出しては零れていく。
「さ、冴房さん」
「っ」
俺が声を掛けると彼女は駆け出していった。あっという間に冴房さんの姿が俺の視界から消えていく。その後ろを彼女の友達が慌てて追いかけていく。そして一人取り残された俺は
「え〜」
と予想していなかった展開に俺は困惑の声を上げる。その声は誰にも届くことなく静寂の中で消えていった。