俺のカワイイ幼馴染みの男の娘が突然TS女体化してしまった上に、男に戻りたくないと言い出したので、完全に困ってしまった俺の話を聞いてくれ!
序盤に不快に思われるセリフが出てきますが、これには聞くも涙、語るも涙の深~い理由があるのです。
不快なセリフは、ホンのさわりのシーンだけですので、辛抱してお付き合い願えましたら幸いです。
「お前らいつまで長文タイトルのラノベを書くつもりだよ!」
1月の夕暮れ。俺はファミレスにてラノベについて熱く語る。
俺は初めのうちは、昨日読んだ悪役令嬢転生もののラノベの内容に不満があり、色々と作品の批評をしていたが、そこからラノベ業界のマンネリ化にまで話題が飛躍してしまい、今、それについて大熱弁を振るっている。
俺の名は坂神松之亟。高校2年生。柔道2段の健康優良児だ。
そんな俺の話し相手をしている高梨香織は、死んだ魚のような目をしてドリンクバーのソーダを飲みながら、時々「あ、そう」「ふーん。そうなんだ。」と相づちを打つ。流石、俺の可愛い幼馴染だ。俺の意見に共感してくれている。
気を良くした俺はさらに加熱して熱弁を振るう。
「そもそもさ、作家ってのは、オリジナリティがないと駄目だろ? 自分の言いたいこと、伝えたいことがあるからペンを取るんだろう?」
「それをちょっと長文タイトルが売れたからって猫も杓子も長文タイトルって、どうなのよ?」
「そもそもさ。ああいうのって、帯文に書くことでしょーがっ!!」
「大体、異世界転生物多すぎるでしょうがっ!! お前らなんなの? そんなに悪役令嬢になって人生やりなおしたいのか?」
「そうやってブームに乗っかって、似たような作品を作ることをオマージュとか影響を受けたってごまかすけどさ、そういうのってパクリっていうんじゃないの?」
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・完全に決まった!俺の言葉は、一分一厘のスキも無い。グウの音も出ないほどの正論である。
その証拠に香織の可愛らしい大きな黒いお目々が俺をジッと見つめている。カワイイ。滅茶苦茶、カワイイ。
長い黒髪も少し大きめの制服のブレザーもタータンチェックのスカートも黒のパンストも革靴も完璧に似合っている。
今すぐ抱きしめてキスして、そのまま襲っても罪にはならないくらいにカワイイ。だって、そうだろう? こんなに可愛いのだから「理性が効かなくても仕方ないね」と警察も納得するはずだ! え?無理かな? チクショー、なんて世の中だ。異世界転生しようかな。
だが、しかし。何ということでしょう。さっきまであんなにも共感してくれていた香織の口からは、意外な返事が返ってきた。
「て、いうかさ。それって何様のつもりなの?」
なに?
「そもそもさ。そこって無料で読めるサイトなんだよね? そこのラノベをわざわざ読んでケチつける権利なんか誰にあるの?」
なんだと?
「いるんだよね。無産のくせに意見だけは一丁前の人って。でもね、そういうのってわかった上で皆やってるんじゃないの? その業界にはその業界のやり方があるのを素人がわかったように口出しして、それが正論だとか、本気で思ってるの?」
な、な、ななんだと?
「異世界転生物が多いのは、需要があるから供給しているんでしょ? 読み手が求めてないような話を突きつけられてもウザいだけじゃない。”読者が読みたい話を自分の表現で伝えたい。” そういう正当な理由があって皆、異世界転生物を書いてるんじゃないの?」
「そういうの考えもせずに自分の考え方を押し付けるのって、私、付き合えない。きらーい!」
な、ななななな・・・・・・・
なんだと、コノヤロー!お前だけには、言われたくないぞ!高梨香一!
そう、こいつの名前は本当は香織ではなく、香一。つまり、男だ。いや、男の娘だ。
こいつには女装趣味があって、幼いころから俺はこいつの趣味に付き合わされてきた。
最近なんかはSNSでの承認欲求が加速してしまい、次から次へとドンドン女装画像をアップしてる。おかげでSNSのフォロワー数の多い事。だが、そのせいで困ったことに今度はストーカーが出る始末。仕方なく柔道2段で全国大会出場経験もある強面の俺が虫よけとして彼氏役を演じることになった。そのかいあって気持ち悪いレスやストーキングをされることがなくなった。俺に感謝しろ。
最近なんかは敵がいなくなったのを幸いに調子に乗って「デートに行ってきました」とか「キスしました」とか、もっと際どいシーンを演出して写真を撮ったりもしているんだよ。
これは、男の娘の友達がいる男あるあるだと思うが、幼馴染の無茶ぶりおねだりに付き合わされて恋人疑似体験の濃厚なキスをしたり、デートしたり、抱きしめあったり、セックスの一歩手前までやらされる経験を俺はしてきた。男の娘の友達や幼馴染がいる人は当然のこととして体験しているはずだ。・・・・・・してるよね?きっと。
俺は役得と思いながらも、お前の趣味に付き合ってやっているんだから、お前も俺の趣味に付き合うべきだろうがよっ!?そこは取引でしょ?取引。
お前の趣味に俺が合わせて、俺の趣味にお前が合わす。win-winの関係を築き上げるべきだし、言わなくてもこっちが合わせてるんだから、お前も黙って合わせろよっ!!
そんな感じで心の中でこの不公平について憤っていたら、香織が窓からファミレスの外を見ながら言う。
「大体、松之亟は文句ばっかり言って、自分ではラノベ書く書くいうだけで、今まで書き切ったことないじゃない・・・・・・。」
おおおおおお、おおおおおお、お前っ!!
それは言っちゃダメでしょ!?そっちがその気なら、こっちも本気出してやるぞ!!
俺は怒った。こうなったら、奥の手を使うぞ!!
俺はスーッと深く呼吸をすると大声を上げて泣き出した。
「うああああああーっ!! 香織ちゃんが酷いのーっ!!」
「いじめるのーっ!!」
身長180センチ体重90キロを超える大男がファミレス中に聞こえるほど大声をあげて泣いたら、皆さんはどう思うだろうか?
異様な光景に嫌でも店中の視線が俺たちに集中する。
いたたまれなくなった香織が、慌てて謝ってきた。
「ご、ごめんってば。ね、もう泣かないでよ? は、恥ずかしいよぉ・・・・・」
ふっ、チョロいもんだ。俺は泣き止むと、ニヤリと笑って「謝ったな? 香織、お前の負けだ。」と、勝利宣言する。
この手段は、人並外れた体格の俺がやったから効果を発揮したわけではない。皆さんも学校や会社の同僚と飯を食いに出かけたときにどうしても勝利したかったら、この手を使うとよい。涙は女の武器だというが、それは男でもあてはまる。
出来るだけ第三者が集まった場所で泣くとよい。必ず勝利するだろう。大切な何かを失うかもしれんが。
そして、俺と香織も大切なものを失った。ファミレスを出入り禁止にされてしまったのだ。
ちーん。
帰る道すがら、怒った香織に許しを得るのは大変だった。向こう3か月、デートの時にケーキをおごる約束をさせられてしまった。果たして俺は勝利したのだろうか?
そんなことを考えていると、香織が毎日日課にしている神社のお百度参りが始まった。
毎日、毎日、神社に通って「女の子にしてください。」ってお願いしている。切実な悩みなんだろうが、俺からするとお〇ん〇ん無くなっちゃったら一大事だろうがっ!って言いたい。それでも、毎日、毎日、一生懸命に拝むの姿はいじらしく、応援したくなる気持ちが無いわけではない。
(今日で何回目の満願成就の日なんだろうか?)
そんなことを考えていると、香織が可哀そうになって自然と俺も手を合わせて「香織を女の子にしてあげてください」と声に出してしまった。香織は、その言葉を聞いて感動したらしく、俺に抱きついていつまでも泣いていた。
やっぱり、涙は女の武器だな。ずるい。胸がキュンとした・・・・・・・・。
香織を家まで送ると、俺はそこから200メートル離れた自宅へ帰る。別れる前に香織に言われた。
「今日、冷たくしてごめんね?」
「実は話の初めに松之亟が馬鹿にしたラノベなんだけどさ。言いにくくて黙ってたけど、アレ、私が書いたのだから腹が立っちゃって…‥」
おお。なんてこった。
知らぬこととはいえ、俺は最低なことをしてしまった。
女の子に憧れている香織が悪役令嬢に転生する夢を見て物語を書いていたのだとしたら、俺が言った言葉は本当に最低の行為だった。
自分のやらかしたことに心底落ち込みながら、自室のベッドに入り眠りにつく俺は、せめてもの償いにもう一度「あいつの願いをかなえてあげてほしい。」と神に頼むのだった。
どこかで
(その願い。叶えてしんぜよう!)
という声がした気がした。
翌日、悪夢が起きた。
香織を迎えに行ったら、ご両親が涙を流して「今日は病院に香織を連れて行くから、先に行ってて」と言ってきた。何事かと思ったが、「良いことなの」と言っていたので、問題はないだろう。 しかし、良いことで誰が病院に行くんだ?などと考えながら学校の授業を受けていた。どんな人間にも平等に時間は流れるもので、やがて終わりのHRの時間になった。その時、担任の教師が
「高梨香織さんが本当に女性になってしまったので、ご連絡します。」と言い出した。
だっ、大問題じゃ・・・・ねーかよおおおおおおおおおっ!!
なんでも病院で調べてもらったところ、DNAレベルで体が完全に女性化してしまったという。
理由は不明。しかし、妊娠も可能な完全な女体となっているとのことだった。
俺は、大慌てで香織に詰め寄って「お〇ん〇ん、無くなっちゃったのかよ!!」と、問い詰めた。
香織は若干引きながらも、「う、うん。これで私は完璧になったの。」と、嬉しそうに答えた。
俺は憤慨した。
「何言ってんだ!!お〇ん〇んがあった方がいいに決まってるでしょーがっ!!」と魂の叫びをあげた。
クラス中が一瞬、シーンと静まりかえる。
しばらくたってから、誰かが「ないわー。」という。そして、その意見に全員が同意し始めた。
俺は心底思ったよ。
こいつら、全員。絶対に頭おかしい。
行きは両親の車だったが、帰りはどうしても俺とデート気分で帰りたいと香織が言い出したので、帰りは一緒に歩いて帰る。
今日ばかりは部活に出る気力がなかった俺は、体調不良を理由に部活を休み、香織と放課後デートする。
俺は、昨日寝る前に神の言葉を聞いた話をした。香織は喜び、「神社にお礼に行きましょう!」って言いだした。
いや、お礼じゃなくて、男に戻してもらおうよ。お〇ん〇ん返してもらおうよ。
そしたら、すんごい剣幕で香織が怒り出した。まぁ、無理もないわな。こいつらは、なんだかんだ言っても周囲から差別的な視線にさらされて生きてきた。それでも女の子として生きていくのは並大抵の覚悟と決意ではない。
それをソバで見ていた俺は、香織が怒るのも無理がないとは思いつつも、「可愛い上にお〇ん〇んついてたら得だと思わない?」と尋ねてみた。
そしたら、ガチのパンチしてきたのでメチャクチャびっくりした。うーん。困ったぞ。これは本気だぞ。
どうしようか?
どうしようもないよね。謝るしかないよね。
俺は平謝りで謝り倒すこと10分。ようやく香織の許しを得た。
「今度、私の事を男の子扱いしたら、もう他に彼氏作っちゃうんだからねっ!!」
と、脅してきた。
それは嫌だな。男だろうが女だろうが、俺はやっぱり香織のそばにいたい。
言葉に出されて初めて俺は自分でも意外なほど香織のことが好きなことに気が付いた。
誰にも香織を渡したくない。そう思った。だから、もう二度と香織を男の子に戻してほしいとは言わないと誓った。
香織は嬉しそうに俺の右腕に抱きついてきた。
「今までずっと、私の事を変態扱いする人たちから、私の事を守ってくれてありがとうね。」
「松之亟は、ずっと私の王子様だったの。だから、これからもずっと一緒にいてね?」
ああ、かわいい。俺の右腕には香織の標準サイズよりもかなり大きめの胸に包まれる感触があった。
うーん、幸せってこういう事なのかもしれない。
俺たちは寄り添うように暫く一緒に歩いて神社に到着した。神様の前に立つと俺たちは、二人で声に出してこう言った。
「女の子にしてくれてありがとうございます!」と。
同じことを同じタイミングで言った俺たちは可笑しくって互いに顔を見合わせあって笑いあった。
すると、不意にあることを思いついた香織が笑顔で言った。
「ね、この事をラノベにして書いてみたら? これなら、最後までストーリーが出来上がってるし、松之亟でも書き切れるんじゃないの?」
素晴らしい提案だ。「松之亟でも書き切れる」というのは余計だがな。
「書きあがったら、読んでくれよ。ブックマークと評価頼むぜ。」
俺がそう言うと香織はクスクス笑って言った。
「え~?面白かったらね?」
おい、そりゃねーだろ。俺、お前の彼氏だぞ。
「私、知り合いに評価頼むとか、ズルはしないのでっ!!」
くっそー、この女。いいよ、いいよ。俺が本気出して、お前が感動の涙で目玉がとれちゃうくらい良い話を書いてあげるんだからなっ!!
俺は家に帰ると、PCの電源を入れて執筆を始める。
タイトルはもう決まっている。これしかねーでしょ。
「俺のカワイイ幼馴染みの男の娘が突然TS女体化してしまった上に、男に戻りたくないと言い出したので、完全に困ってしまった俺の話を聞いてくれ!」
長文タイトルじゃねーかっ!!
(終わり)
最後までお読みくださってありがとうございます。
かなり狂ったストーリーですいません。
TS美少女との恋愛ネタは、ガチな恋愛ストーリー物も書く予定があるのですが、今回は1話完結のラブコメにしました。いや、はたしてこれをラブコメと呼ぶのか(?)・・・・・。
読み終わった方、全員が楽しんでいただけたことを祈るのみです。