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82 女子高生も魔物を追いかける

 クリスマスも過ぎて今年も残り少なくなってきた。外は雪が降ってて家の中に居ても寒い。こんな日は炬燵であったまってミカンでも食べるに限るね。瑠璃なんか炬燵の中に入ってぐーたらしてる。猫丸も中で丸くなってる。おかげであんまり足が伸ばせない。


「ノラー、いるー?」


「いるよー」


 お母さんの声だ。


「悪いけど柴助の散歩お願いできない? 最近雪が積もって行けてなかったから」


「んー。分かったー」


 雪が積もると雪かきとかに時間も取られるし、それに道も凍ってたら危ないもんね。今日はそんなに雪が積もってないから良い機会なんだと思う。思うんだけど。


「炬燵から出られない」


 炬燵って一度入ったら出るのが億劫になる。外も寒いし。よし、1、2、3で出よう。


「1、2の3!」


 うん、声だけで出られてない。


「わふわふっ!」


 そしたら縁側の方に柴助が走って来て尻尾を振ってる。そんな潤んだ目で見られたら行くしかないなー。よし、出よう。


「瑠璃も行くー?」


 反応がない。こやつ、寝てるな。寒さは平気でも文明機器には竜でも勝てなかったみたい。

 仕方ないから1人で行こう。取りあえずマフラーにニット帽に手袋もして。


「ってよく考えたら異世界に行ったら問題ないじゃん」


 灯台もと暗しだね。そうと決まったらマフラーだけ巻いて外に出よう。ぱらぱらって振る雪が綺麗。いつも見てる田んぼや畑も冬になったら真っ白になるからすごく幻想的なんだよね。外が寒いのが難点だけど。


「じゃあ行こっか」


「わふっ!」


 リードを握ってとぼとぼ道を歩いて行く。そしたら数分もすれば異世界の景色に早変わり。うん、やっぱりこっちは気候もよくて涼しい。


 今日は特に当てもないし適当にぶらぶら街を歩いてよう。鳥頭の店長さんの前を通ったら私に気付いて手を振ってくれたから、振り返しておこう。すっかり顔も覚えられたね。


 それで適当に歩いてたら出店の並ぶ通りに来た。いつもならレティちゃんの店にでも寄りたいけど柴助を待たせちゃうし、今日は我慢しよう。


「ほわあぁぁぁぁ! できたあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 いつにも増して賑やかな声が耳に聞こえてくる。今日も異世界は平和だね。


「できたできたできたあぁぁぁ! ユカタができたあぁぁぁぁ!」


 店から誰かが飛び出して来たと思ったら知ってる顔だった。キツネの耳と尻尾を持ってるあれはきっとフランちゃん。何か舞い上がって街中でぴょんぴょん跳ね回ってる。うーん、眼福。


「レティレティ! ユカタができたよっ!」


 何かテンション上がってるのか道具屋に駆け込んで騒いでる。あんなに騒ぐフランちゃんは珍しいなぁ。少ししたら道具屋から出て来てとぼとぼ歩いて着物に顔を埋めてた。多分我に返って恥ずかしくなったパターン。


「フランちゃん、こんにちは」


「あっ、ノノムラさん! それと、えーと」


「柴助だよ」


「シバスケ!」


「わん!」


 フランちゃんに声をかけたら明るい顔を見せてくれた。


「何か良い事あった?」


 大体察してるけど敢えて聞いて見る。


「そうなの! ユカタが完成したんだよ!」


 フランちゃんが自慢気に見せてくれた。おー、これは確かに再現度が高い。全体的に白ベースの生地で帯は赤い。触ってみるとふわっと飛んでしまいそうなくらい軽かった。


「すごい、本当にできたんだ。それに良い素材使ってそう」


「そう! この前行った時に集めた星屑綿で編んだんだよ!」


 渓流の頂上で取れた奴かな? だからこんなにも軽いのかー。


「これならお店で売ったら大繁盛間違いなし?」


「これに星屑綿を使い切ったから同じのはもう作れないんだよね。でも大体の作り方は分かったよ!」


 やっぱりフランちゃんはすごいなぁ。普通の人は服を見ただけでどうやって編んでるかなんて分からないし。


「だからこれはノノムラさんにあげるね!」


 そう言って浴衣を差し出してくれた。まさかの私に?


「悪いよ。これはフランちゃんが着たら?」


「ううん。この前もプレゼントをもらったし、渓流に連れてくれたお礼も出来てないから、これは是非ノノムラさんに受け取って欲しいな」


 フランちゃんは私に押し付けるみたいに浴衣を手に持たせてくる。フランちゃんって時々強引な所ある。でもそれ以上にこんな素敵な着物をくれたのが嬉しい。


「ありがとう。これは晴着として着させてもらうね」


「ハレギ?」


「うん。特別な日に着る着物を晴着って言うんだよ。私の所だともうすぐお正月って言って新らしい年になるからその時に着ようかな」


「わぁ、そんな日もあるんだね」


「なんならフランちゃんもこっちに来る? 一緒に年越しできたら嬉しいな」


 何となくお誘いして見たけどフランちゃん、耳と尻尾をシュンと垂れさせた。およ?


「う~、素敵なお誘いだけど実は私もうすぐ帰省しないと駄目なの」


「家に帰るの?」


「うん。毎年この時期になると故郷に帰るんだ。それであちこちに出てる皆も帰って来て村でお祭して1日騒いで過ごすんだよ」


 それめちゃくちゃ行きたいんだけど。確かここから馬車で3日近くかかるって行ってたし、結構準備して帰るんだろうね。


「そうなんだ。となるとレティちゃん達も帰るの?」


「そうだよ。だからさっきユカタ出来たの見せに行ったら荷造りで忙しいってレティに怒られちゃった」


 そっかー。となると暫くはケモミミちゃんズに会えないって考えたら寂しくなるなぁ。よし、今の内にもふもふ成分を補給しよう。


「の、ノノムラさん!? 急に抱き付かれたら恥ずかしいです……」


「会えなくなるって思ったら寂しいなって思って」


「す、すぐに帰って来るから大丈夫だよ」


「ううん。お母さんとお父さんの時間も大切にね。私は大丈夫だからゆっくりしてきてね」


 名残惜しいけど離れよう。もふもふ成分は我が家の家族で補給すれば問題ない、と思う。


「分かった。あ、それと借りてたユカタも返すね!」


 フランちゃんがぱたぱたとお店に戻って帰ってくる。それを受け取って手を振って別れた。


「それにしても帰省かぁ」


 こっちに来て結構長いけどまだまだ異世界の文化も知れてないなぁ。それに出て行った皆が帰って来るって行ってたし、その村だと何歳かになると村を出る決まりでもあるのかな。また今度聞いてみようかな。


「わんわん!」


「んー。柴助どうしたの?」


 なんかずっと吠えてる。その先を目で追ったら耳の長い白いウサギがぴょんぴょん跳ねて走って行ってる。耳を曲げて器用に服を持ってる。へー、あの服私の持ってるのと似てるなー。


 あれ、似てる? 思わず手元を確認したらフランちゃんから貰った着物と返してもらった浴衣がなくなってる。


「もしかして盗られた?」


 もしかしなくても盗られてる。


「わー、待って待って」


 急いで白ウサギさんの後を追いかけたけど小さいわりにすばしっこくて距離が離されてく。寧ろ私が運動音痴なだけかもしれない。柴助なら追いつけるかもしれないけど、柴助とも逸れたら見つけるのが悲惨なことになりそう。


「どうしよう……」


 せっかくのフランちゃんのプレゼントが盗られたなんて言えないよ。貴重な素材も使ってくれたのに。白ウサギさんは石橋を渡った先へと向かってる。あっちは確か孤児院がある市街地。あんな所に行かれたら益々見つけるのが難しくなるよ。


 そう思って辺りを見渡してたら丁度騎士の服を着た人を発見した。そうだ、騎士の人ならすぐに捕まえてくれそう。ここはお願いしてみよう。


「あ、あのう。向こうに走って行った白いウサギさんに服を盗られたんです。取り返してくれませんか?」


「任せて」


 聞き覚えのある声と思って顔をあげたら青い髪のツインテの子が石橋の向こうに走って行った。あの後ろ姿ってムツキ?


 慌ててたからそこまで見えてなかったよ。でも白ウサギさんの姿も見えなくなってるし、ムツキでも見つけるのは大変そう。


「そうだ。柴助、あの白ウサギさんの匂いが分かるよね。ムツキを案内してあげて」


 ムツキなら柴助の足にも追いつけるだろうし。それでリードを外したら柴助は一目散に走ってくれた。いつもの天然を発動しなくてよかったよ。


 私はどうしようかな。下手に動いて皆と逸れた方が迷惑だろうし、ここで待ってるのが正解かな……。なんか申し訳ないけど何もできないし。


「あれ、ノノじゃない。どうしたの、こんな所で?」


「リリだ。こんー」


 まさかのリリとばったり遭遇。鞄を持ってるし魔術学園から帰ってる途中だったのかな?


「実は白いウサギさんに服を盗られてムツキに取り返しに行ってもらってる所」


「あー、ラビラビかぁ。あの魔物は結構タチが悪いのよね」


 やっぱり魔物なんだ。


「人の物を盗む魔物で人の多い所に目撃されるの。ラビラビに物を盗まれたって被害は結構多くて時々問題になってるわ。危害はないんだけど、小さいし早いしで厄介なのよね」


 あんなに可愛い見た目なのに結構腹黒い魔物さんだなぁ。


 そうこうしてたらムツキと柴助が戻ってきた。でもその先頭に走ってるのは、あれはラビラビ?


「ノラ! ごめん、捕まえて!」


 なんていう無理難題。そしたらリリが袖を捲って前を歩いた。それで片手を突き出してアラビア文字を浮かばせると風がぶわって舞い上がる。その風に飛ばされてラビラビも空に飛ばされた。


 丁度着物を落としてくれたみたいでそれをキャッチ。でも結構飛ばされたみたいでラビラビが慌ててるような? 私からは遠くて今からじゃあ間に合わないよー。そしたらムツキがジャンプしてラビラビを捕まえて事無きを得た。


「ありがとう、ムツキ、リリ。おかげで助かったよー」


「わふわふ」


 柴助も戻って尻尾をぶんぶん振ってる。多分久し振りに走り回れて楽しかっただけだろうけど。


「……リリルに良い所取りされた」


「ふふん、これが魔法の力ね」


 リリが誇らしげにしてる。ラビラビに目を向けたらムツキの手の中でぐったりしてた。追いかけられて疲れたのかな。


「その子はどうするの?」


 一応悪い魔物みたいだし。


「一応森に逃がすつもり」


「へぇ。私はてっきり駆除するって言うと思ったけど?」


 私もリリと同じこと思った。


「ラビラビは人に捕獲駆除され過ぎて今では絶滅しかけてる。だから見かけても殺したら駄目って騎士学校では言われてる」


 そうなんだ。やっぱり人に危害を加えるから目を付けられやすいんだね。


「君もあんまり悪さしたら駄目だよ」


「きゅい~」


 ラビラビがか細い声を出して反省してるみたいだった。また見かけた時は遊んであげようかな。うん、そうしよう。

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