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3 女子高生もスライムを捕まえる

 朝の通学路。今日も軽トラが沢山走り回ってる。

 いつもは赤の信号が青でちょっとラッキー。


 横断歩道の先は一面田んぼになってる所がある。

 この辺りに来ると登校中の生徒達もちらほら見えるけど私の学校の生徒は殆どバス通学だから地元通いは少ない。山奥にあるっていうのも理由だけど。

 コルちゃんも結構遠くから来てるって聞いた。中学と違って高校は地元じゃない所に行く人が多いけど、私は近いから通ってる。


「ふあぁ」


 眠い。早起きは苦手。夜更かししてる訳じゃないけど、朝は眠い。農家さんには一生頭が上がらないと思う。


「うーん」


 ちょっと欠伸をして伸びをしてたら、一面草原の景色に変わってる。見渡す限り道路も田んぼも家もない。またこっちに飛ばされたみたい。


「とりあえず歩いてたら大丈夫かなぁ」


 地平線の先も草原と砂利道が続くだけ。一応お弁当と水筒はあるから今日は餓死せずに済むと思うけど。


「でも良い景色かも」


 地元の周りが山だらけだから山が見えないのはちょっと新鮮。そうだ。コルちゃんにこの景色を見せたいから写真撮っておこ。


 スマホを取り出してホーム画面を開く。当たり前だけど電波は圏外になってる。

 数枚撮って満足。


「んー?」


 何もないと思ってたけど、草原の方に丸くて水色の何かが一杯動いてる。

 水溜りにしては山なりに高いし、ナメクジにしては大きいし綺麗。

 ちょっと観察していこう。草原に足を踏み入れてその水色の物体に近付いてみる。


「んー、これはスライム?」


 前に読んだ本に登場してた気がする。あんまり強くなくて簡単に倒される存在だったと思う。でも本で読んだのと違うのは目とかなくて本当にゼリー状が動いてるだけ。動きも遅くてナメクジとあんまり変わらないかも。でも見た目は綺麗ですごく透き通ってる。


 もう少し間近で見たくて屈んで近寄ったけど、向こうは私に気付いてなくてふよふよ動いてる。


 ツンツン。


 思ったより柔らかい。それに冷んやりしてて気持ちいかも。

 ちょっと撫でてみる。あ、全然ベタベタしてない。寧ろツルツルしてる。


「これはいいなぁ。持ち帰ったら駄目かな?」


 見ただけでも一杯いるし一匹くらいならいいよね? 話のネタになるし。

 よし決まり。このスライムさんを拝借しよう。


 両手で持ったけど全然重くなくてびっくり。綿か何かかと思った。全然抵抗しないし、もぞもぞ動いててくすぐったい。可愛い。


 そのまま砂利道を歩いてたら気付いたら元の通学路に戻ってた。手にはちゃんとスライムさんもいてくれてる。家に帰ろうか迷うけど、またあっちに飛ばされたら遅刻するしこのまま登校しよう。


 今日はちょっと日差しが強くて蒸し暑い。こういう日は苦手。ジメジメした暑さは日本特有って聞くけどいつになっても慣れない。


「君もそう思う?」


 なんとなくスライムさんに声をかけてみる。あれ、スライムさんが溶けてる? というか蒸発してる? 大変! 急いで学校に行かないと。学校に着いたら多分なんとかなる。


 通学中の同級生に挨拶して急いで小走り。向こうも笑顔でおはようって言ってくれた。私の手に収まってるのは気にされてない。大きな氷と思われてるのかな?


 学校まであと少しだけど一番の登竜門に来ちゃった。校門前の地獄の傾斜。

 ジェットコースターの最初の昇っていくアレくらい急な坂道。体育系じゃない私にとって走って行くには厳しいよ。でものんびり歩いてたらスライムさんが溶けちゃう。


「お、ノラノラじゃん。走って登校ってダイエットでもしてるのか?」


 聞きなれた声がする。隣に一年先輩で幼馴染のリンリンが自転車で並走してくれた。赤茶色に染めた髪で今日もポニーテール。


「リンリンー、助けてー」


 これは九死に一生だね。自転車の籠にスライムさんを入れた。


「うおっ、なんだこれ?」


「スライムー。リンリンお願い。その子を水に入れてあげてー」


 蒸発してるってことは多分水で濡らしたら大丈夫だと思う。安直だけど何もしないよりはマシかなぁ。


「また異世界か。分かった。ちょっと飛ばして来る」


「ありがとー」


 リンリンがペダルを勢いよく漕いで傾斜を上っていく。毎日自転車で登校してるだけあって凄いスピード。


 それから私も頑張ってそこそこの速さで上って校門を抜けた。体育の先生が腕時計を確認しながら門前で立ってたから挨拶する。そしたら芸人みたいに大きな声で挨拶してくれる。

 寝起きの頭にはちょっと煩い。


 それから靴箱で上履きに履き替えてる途中にリンリンがバケツを片手に戻って来た。


「おーい、これでいいか?」


 バケツには水が半分くらい入ってその上にスライムさんがプカプカ浮かんでる。掌サイズくらいに縮んでるけど蒸発する様子はなさそう。


「ありがとう。リンリン大好きー」


「お礼は向こうの話を教えてくれたらいいよ」


「全然いいよー。コルちゃんにも教えたいし、一緒に教室行こー」


 リンリンがバケツを運んでくれて一年3組に入った。生徒が結構溜まってて雑談してる。窓際の方ではコルちゃんが読書してる。


 私とリンリンに気付いてコルちゃんが顔を上げて本を置いた。


「おはようございます。リンさんも一緒でしたか」


「おはよー」


「おはおは。今日もノラノラが異世界行ってたってよ」


 リンリンが床にバケツを置いたからコルちゃんの視線もそこに移る。


「これは?」


「スライム」


「スライムってこんなに小さいんですね。もう少し大きいと思ってました」


「最初はもっと大きかったんだよ。でもこっちに連れて来たら蒸発しちゃった」


「気候の違いでしょうか」


「だねー」


 鞄を机の横の取ってに引っ掛けて机の上で伸びてみる。正直まだ眠たい。瞼を落としたら眠れそう。


「おーい、ノラノラー。約束を守れー」


「話しなんて殆どないよー。ちょっと草原行ってスライムさんが一杯いたから捕まえたんだー。あ、そうだ。景色撮ったから2人に写真送るね」


 スマホを取り出してラインで写真を送った。それを見たコルちゃんとリンリンは感嘆してた。


「すご。山ないじゃん」


「こんなに沢山のスライムがいるとは。確かに一匹欲しくなりますね」


「でしょー?」


 欲張って2匹持ち帰ってたら殺しちゃう所だったよ。


「それでこいつはどうすんのさ。やっぱ飼うの?」


「そうだねー。でもこの子って何食べるのかな?」


 スライムの主食は知らないから聞いてみる。


「似たような生物で考えますと、ナメクジは枯葉を食べると聞きます。水が必要となると両生類になりますし、カエルと同じなら昆虫でしょうか」


 おお、流石はコルちゃん、博識だ。


「いやいや、異世界の生物をこっちと同類と考えたら駄目だと思う。私の知ってる漫画だとスライムは相手を溶かして何でも食べる。主に哺乳類だな」


 むむむ、それはそれで怖いなぁ。私も食べられるの?


「もしそうならノラさんが持ち帰った時点で食べられるのでは?」


「単にお腹空いてなかっただけかもよ」


 うーん、これじゃあ何も分からないなぁ。


「とりあえず色々試してみる。コルちゃんとリンリンも協力してくれる?」


「構いませんよ。未知の生物との遭遇は興味深いですし」


「私もいいぞ。面白そうだし」


 心優しくあっさり承諾してくれた。持つべきは友人だね。

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