31 女子高生も天球塔を登る
学校帰りの平日。綺麗な夕焼け空を堪能していたら、満天の青空に変わっていた。
こっちの空はいつも青い。水色、青色、群青色で朝昼夜に分かれてる気がする。
今はお昼かな。でも、少しずつ暗くなってる気もする。
瑠璃が鞄から出て来て肩に乗った。市場の通りを歩いてると、色んな獣の人とすれ違う。
普通の人も多い。皆私の横を過ぎる度に瑠璃を見ては振り返ってる気がする。
やっぱりドラゴンは目立つなぁ。ミー美程じゃないと信じたい。
鳥頭の店長さんの店の横を通ると手を振ってくれる。私も手を振り返した。瑠璃は欠伸してる。おーい、君の主食を売ってくれるお店だよー。愛想よくしてー。
ちょっと頭を突いてあげると申し訳程度に手をあげてくれる。うんうん、宜しい。
そのまま市場を歩いてるとあちこちの出店から良い匂いがしてくる。
見知らぬ肉や生地を焼いてはソースをかけてる。美味しそー。
「あれ!? ノノ!?」
「リリだー。やほー」
リリが出店の前で串焼きを何本も片手に持って食べてる所だった。リリも学校帰りなのか肩から鞄を下げてる。
「え、えっと! これは単なる間食だから!」
「この時間ってお腹空くよね」
「だよね! そうだ。ノノにもあげる」
「悪いよ。リリが買ったんだし」
「食べきれないと思ってた所なの!」
「本当にー?」
「本当本当!」
リリが強引に串焼きを押し付けてきたから有り難くもらった。
「ありがとう。これは何の串焼き?」
串には白い塊が4つ刺さってて、少し溶けかかってる。マシュマロみたい。
「マイコニドの霜降りの串焼きよ」
前にリリと草原で出会った等身大茸さんの料理かぁ。
「じゃあ頂きます。はむ」
一口サイズだったから一塊を口に運んだ。すると口の中にふんわりと柔らかい食感が広がって、舌の上で溶けていく。脂独特のべたつきもなくて、すごく美味しい。
瑠璃も物欲しそうに眺めてたから串を差し出して食べさせてあげる。表情が緩んでるね。
「こんなの初めてかも。何本でも食べれそう」
「でしょー? この串焼きに最近はまってるの」
「それはソース?」
リリの手に持ってる串焼きの1つに赤いソースが付いてるのがあったから聞いて見る。
「うん。サラマンダーの体液から作ったマンダースよ。食べてみる?」
リリが串焼きを突き出してくれたから前の塊を口に運ぶ。柔らかい食感は同じだけど、あれ何か舌が燃えてくる。
「ひゅごくかりゃい」
呂律が回らないよ。どんどん口の中が灼熱になっちゃう。するとリリがボトルを差し出してくれる。頭を下げてそれを受け取ると中の水を一気飲みしちゃった。
「ごめんごめん。でもこの辛さも食べ続けてると癖になるの」
リリは赤いソースの串焼きを平気な顔で1つ2つって食べてる。すごい。これが味覚の慣れかぁ。
私とリリは食べ歩きながら市場を後にした。オフィス街のような所に来て人通りも少ない。
建物はどれも石造建築、時々木造建築も見かける。
神殿のような場所や高い建物を横に過ぎていく。
「どこへ向かってるの?」
「着いてからのお楽しみ」
リリが悪戯な笑みを見せて言った。どこかに案内してくれてるみたい。
それから10分くらい通りを歩いてるとリリの足が止まった。
目の前にはすごく高い石垣の塔がそびえ立ってる。見上げても先端の所がよく見えない。
塔の各地は窓になってる空洞の穴が点在してて、入り口の扉があるだけ。扉は木製だった。
リリはそこを開けて中に入ろうとする。
「勝手に入っていいの?」
「うん。ここに来る物好きは早々いないから」
それで私も中に入ったけど、そこは上にずーっと続いてる螺旋階段があるだけ。中央には太い柱があって、その外周を登っていく感じ。段差は低くて丁度人が2人並べるくらいの幅だった。私とリリは並んで階段を上がっていく。
「こんな大きな塔もあるんだね」
「うん。大昔に10年かけて建設されたんだって」
リリが愛想笑いして話す。壁には時々空洞があって外が眺めれる。
それからずっと階段を上がってた。どれだけ進んだかは外を見たら分かるけど、どこが最上階かは分からない。上を見上げても螺旋の天井が見えるだけ。
さすがに疲れてくる。
「まだかなー?」
「もう少しよ」
さっきからそればっかり言ってるよ。リンリンだったらサクッと行けるんだろうなぁ。
「でもどうしてここに来たの?」
「それは、その」
リリが自分のお腹に視線を落とす。
「んー? もしかしてダイエット?」
リリは顔を赤くして俯く。図星だったみたい。そんなに太ってるように見えないけどなぁ。
寧ろ私の方がふくよかな気がする。
「そ、それもあるけど上りきったら達成感あるから」
それを聞いたら頑張らないとね。
休憩も挟みながらゆっくりと上って雑談してた。おかげで疲労感も忘れられて螺旋の終わりが見えた。
一番最後の段の横の壁が外に出られるようになってた。リリが私の手を引いて外に出る。
「ふあぁ」
その先はバルコニーみたいになってて街中を一望出来た。
群青色の空をバックに街は白く輝いてる。魔法の文字を光らせてる所や建物の中の光が一際綺麗。
さっき歩いてた市場には多くの人が見える。北の方には大きなお城が見えた。
街の外は森が多くて、南の方では川が見える。西の方には街道があってその先にはきっとスライムが沢山いる。もっと遠い所には薄っすらと山も見えるけど何かまでは分からない。
向かいにはここと同じような塔も見える。そこで気付いたけど塔の上に白い球体がある。
後ろを振り返ると塔の天辺には同様の白い球体が輝いてる。
「ここは天球塔って言われてね、夜景がすごく綺麗なの。ノノにも見て欲しかった」
リリが隣に立って言う。瑠璃も興味が湧いて鞄から飛んできた。あんまり飛び出すと危ないと思って尻尾を掴んじゃう。手摺があるけど落ちたら大変。
「大丈夫だよ。落ちないように魔障壁が張ってあるから」
リリが空に向かって手を突き出したけど、透明のガラスがあるみたいに詰まってた。
近付いて触ってみる。本当だ、何かが阻んで飛び出せない。
だからこの高さでも風がないんだ。
「それとこの天球塔の凄い所は夜景だけじゃないんだよ」
リリが塔の上の白い球体に手を向けると、色が白から赤に変わった。
それで球体がアーチ状に光を向かいの球体に飛んで、向こうの球体も赤く輝く。
まるで虹のような光景。
「この天球塔はとある兄妹によって造られたの。元々は1つだけ造る予定だったらしいんだけど、製作途中に兄妹が喧嘩してそれで別々の所に塔を建てることになってね。でも喧嘩別れしたまま別々で作業してる内にお互い罪悪感が湧いてね。兄は塔の天辺に向かいに届く魔導具を設置して完成させた。不思議なことに妹も全く同じ魔導具を設置したのよね。それで完成した暁に両者が赤い信号を送って仲直りしたんだって」
「何だかロマンチックだね」
「うん。それでね、この塔はすれ違っても仲直りできる場所となったんだよ。それに魔導具の色で相手に思いを伝えたりね。青色は友情、黄色は忠誠みたいな感じでね」
確かに言葉では伝えにくくても、こうやって魔法を使って自分の気持ちを伝えるって何だかいいね。こっちの世界ならでは方法って感じ。
「それで赤は何を示すの?」
「えっ? それは、その」
「んー? 愛情?」
友情、忠誠って来たらそれしかないよね。するとリリの顔が赤くなった。当たってる?
それならさっきの兄妹の話もお互いが愛し合ってたのかぁ。愛には色んな形があるよね。
「リリ?」
どうして黙っているんだろう。確かにリリは赤い色を再現したけど向かいには誰もいないだろうし。
「こ、これは赤が綺麗と思って表現しただけで! べ、別にノノに対してやったとかそんなのじゃないから!」
「私はリリが好きだよー」
「えっ?」
こっちの世界で初めて友達になった人だし、色々よくしてくれるし。
「今日もリリと会えて本当に楽しかったよ。ありがとう」
「うん……どういたしまして……」
リリが耳たぶまで真っ赤にして顔を隠しちゃった。あれれ、また変なこと言っちゃったのかな。
手摺に座った瑠璃が溜息みたいな声を出してたけど。うーん?




