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2 女子高生も異世界で授業を受ける

「ていうのがあったんだよ」


「また神隠しに遭ったんですか?」


 昼休憩になって窓際仲間のコルちゃんと机を寄せ合って仲良くお弁当を食べてる。

 相変わらず真っ白な髪が綺麗だなぁ。アルビノって言ってたけど、身近の人にいると本当不思議。

 私はちょっとだけ茶色く染めてるけど学校からは何も言われない。


「うん。これお土産」


 昨日買ったリガーを机に置いた。コルちゃんは興味深そうにそれをマジマジと見てる。


「伸縮性のある野菜なんだって。生で食べるのが冒険者の基本って鳥頭の人が言ってたよ」


「物覚えの悪い人ですか」


「そっちの鳥頭じゃなくてそのままの意味。なんか鷹っぽい頭で人の姿してる」


「なるほど。多種族が混在する街だったんですね」


「うん」


 この話をするのはコルちゃんともう1人の友達だけ。親にも話したことあるけど信じてくれなかったんだよね。でもコルちゃんは言葉だけであっさり信じてくれたんだ。だからあっちの世界に行った時はこうして休み時間に話しちゃう。


 リガーを手にして噛んだ……つもりだったんだけど何か弾力あって噛めない。柔らかすぎー。


「コルちゃん、ナイフない?」


「さすがにないですね」


 困ったなぁ。あ、そうだ。鳥さんの人はちょっと切れ目を入れたら食べられるって言ってたから、カッターで切ればいいかも。筆箱の中からカッターを取り出して軽く切った。

 そしたら皮を伝って汁が零れてきたから吸うしかない。


 ほんのり甘くて酸味みたいのも混ざってる。でも果物みたいな甘さというより、茹でた人参の甘さに近いかも。


「変わった野菜ですね。食べるのが勿体ないです」


「甘くて美味しいよ。冒険者はこれが携帯食なんだって」


「過酷な環境なのでしょうか」


 コルちゃんにカッターを渡すと器用にほんの少しだけ切れ目入れてた。しかも上の方だから汁も零れてない。すごい上手。


「どうなんだろう。剣や弓を持った人は沢山いたけど」


「武器があるのは何らかの争いがある証拠ですから、ちょっと怖いですね」


「でも鳥頭の人は優しかったよ? コルちゃんも見たら良い人って思うよ」


「ふふ、ノラさんが言うならきっとそうでしょうね」


 それはどういう意味だろう? あ、ぼうっとしてたら手にリガーの汁が付いた。


「ごめん。ちょっと手汚れたからお手洗い行ってくるね」


「どうぞお構いなく」


 席から立ち上がって教室を出ようと扉を開けて一番近くのトイレに向かった。誰も使ってないみたいで個室は全部開いてる。水道の蛇口を捻って置いてある石鹸で洗う。

 うん、綺麗になった。ハンカチで手を拭いて廊下に出た。


「うーん」


 廊下には学生が何人も揃って歩いていた。手には教材も持ってたけど辞書みたいに分厚い。

 何より皆三角の帽子被ってる。それにマントも羽織ってて身体を隠してる。偶に不良っぽい女の子がマントしなくて腰に巻いてたけど、中は制服じゃなかった。何かシャツにコルセットで締め上げて、長めのスカート履いてた。んー、やっぱり制服かも。


 周りの視線が気になるけど多分気のせい。だってトイレに行って手を洗っただけだもん。

 取りあえず隣の教室に入った。中は講義室になってて横長の机が一杯並んでた。生徒も沢山いる。一番前にはサンタさんみたいな白髭が立派な先生が何か話してる。


「ん、遅刻かね? 授業は始まっておるぞ。ここが空いてるから来なさい」


 サンタさんに手招きされて一番前の席に座った。先生も三角の帽子被ってたけど、生徒よりもずっと大きかった。それとマントじゃなくてローブ着てる。


「君、私服で来たのかい?」


「ごめんなさい」


 一応制服なんだけどなぁ。


「それでは続けよう。古代から伝わる魔法論だがこれには二極化されており……」


 先生が青い黒板に文字を書いて授業を始める。生徒は皆辞書みたいな教材広げて板書してる。ノートは持ってないなぁ。

 すると横から鉛筆で腕をツンツンされた。隣の席の金髪の女の子だ。綺麗な青い目。外人?


「あなた、もしかして教科書とノート持ってきてないの?」


「うん。ペンもない」


「何しに魔術学園に来たの? 仕方ないわね。見てて可哀想だから特別に貸してあげる」


「ありがとう。優しいね」


「あなたはマイペースね。私だったら授業中に入ってくるなんて絶対できない」


 その子は千切った紙と鉛筆を貸してくれた。おまけに教材も見やすいように間に位置を変えてくれた。うん、やっぱり優しい。


「でもあなたの格好変わってるね。この辺の制服じゃないし、校外の生徒?」


「んー、多分そう」


「何か曖昧ねぇ。大丈夫なの?」


「うん」


 よくある日常だから。


「名前聞いてもいい?」


野々村野良(ののむらのら)だよ」


「ノノムラ・ノラ? やっぱり変わってるね。私はリリアンナ・リリルよ」


 うーん、似たような名前に感じるけど変わってるのかな?


「宜しくね、リリ」


「こっちこそ」


 軽い自己紹介が終わるとサンタさんが振り返った。


「それではこの例文の魔法を実践してもらおうかの。じゃあ、さっきの君、いいかね?」


 私が指名された。とりあえず席を立つ。

 するとサンタさんは木の棒で黒板の文字をトントンと叩いた。何かアラビア文字みたいな変わった記号の羅列で私には解読できない。


「どうした? 魔力制御をして魔法陣を展開するだけだ」


 とりあえず右手を突き出してみた。


「そうだそうだ。左手を添えて意識を魔の流れに委ねるのだ」


 当たってたみたい。深呼吸して左手を右腕の上に添えて意識を……何に向けるの?


 何も起こらないから教室は静まり返ってる。悲しいけどこればっかりは仕方ないかな。


「君、もしや魔力がないのかの?」


 私達の世界の人は皆持ってないと思う。


「魔力なしって。そんなあなた……」


 何だかリリが凄く悲しそうな目をしてる。ううん、他の生徒も何か同情の目を向けてる。

 するとサンタさんが私の肩を叩いてくれた。


「すまない。魔力なしと気付いてやれなかったワシを許してくれ。これからは遠慮なく言って欲しい。困ったことがあったら何でも言うんだよ。皆もこの子が魔法生活で何かあったらちゃんとサポートするように」


「「「はいっ!」」」


 なんかよく分からないけど凄く同情されてる?

 先生に言われて席に座って別の生徒が魔法を実践してる。右手を出すと掌の前に六芒星の円とその周囲にアラビア文字が浮かんでる。その後に黒板の文字が光った。なるほど、そういう魔法なんだ。


「ねぇ、あなた魔力なしって本当なの?」


 リリが肘で突いて言ってくる。


「うん」


「そう、なの。悪かったわ。変って言って」


「どうして謝るの?」


「だって魔力なしって辛いでしょ? 生活にも困ってるだろうし、色々不便だろうし」


 魔力なしを障害か何かと思ってるのかな? だから同情してる?


「んー、平気だよ。リリも居てくれるし」


「何て眩しい笑顔。私もあなたを見習わないとね」


 笑顔を?


 そんな感じで授業は10分ほどで終わった。


「リリ、貸してくれてありがとう。お礼は何もないけど、このハンカチでもいい?」


「礼なんていいよ」


「ううん。多分もう会えないだろうし」


「そう。じゃあ受け取っておくね」


 リリは納得してくれてハンカチを取ってくれた。


「何か濡れてない?」


「うん。さっき使ったから」


「あなたも中々ね」


 リリは苦笑しながらちょっとだけ笑ってた。こうして見ると絵本のアリスにも見えるなぁ。

 リリと別れて教室を後にする。


「でさー、あの展開が激熱でよー」


「次の授業だりー」


「やっべ昼休憩終わるじゃん!」


 いつもの教室の前の廊下に立ってた。その前を男子のグループが通り過ぎていく。

 戸を開けて中に入ったらコルちゃんが弁当箱を仕舞ってる所だった。


「ノラさん、遅かったですね」


「うん。授業に出てた」


「そうでしたか。学べる物はありましたか?」


「友達が増えた」


「それは是非とも聞きたいですね」


「いいよ。それでね、リリアンナ・リリルって子が……」


 今日も1日平和に終わる。平和が一番だよね。

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