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1 女子高生も歩けば異世界に迷い込む

気楽にどうぞ~

 キーンコーンカーンコーン


 放課後の鐘が響き渡る。教室に残ってるのは私と談笑する女子のグループだけ。特に仲がいいわけでもないから気にせず帰ろう。


 教室を出て廊下を歩くと部活へ向かう男子が近々ある大会へ向けての熱意を話してる。

 心の中で応援してるよ、頑張ってね。


 靴箱の所まで来て上履きを脱いでお気に入りのブーツに履き替える。ピンクのリボンも外して鞄にしまってから外に出た。本当はブレザーも着崩したいけど先生うるさいしなぁ。


 運動場では陸上部が掛け声を出して走りこみをしてる。邪魔しないように端を歩いて出よう。すると横を大きなバスが通り過ぎて行く。山奥の学校だから利用してる人も多い。私は利用したことないけど。


 道路に出る前に長い下り坂があって、周りは森ばかりだけど目にいいから嫌いじゃない。夏は虫が多くて、自動販売機もないのはちょっと不便。


 歩く事15分くらい。やっと麓が見えてきた。小さな田舎町だから目立ったものはないけど、道路脇の定食屋のおばあちゃんがすごく優しくてこの前なんて部員全員で来た野球部におかわり自由で無料で定食ご馳走したんだって。


 道端の横で畑仕事をしてるおじさんは時々いらない野菜をくれる。傷んだ野菜は売り物にならないからだって。でも味には全然問題ないし、なんなら凄く美味しい。


 そんな温かいこの町が私は好き。


 木造建築の古い家屋の住宅の横を通り過ぎる。丁度本屋さんが目に入って、店の前に新聞や雑誌が積まれてるのが見える。古い所だからマイナーな漫画や小説は置いてない。


「そういえば英語のノートなくなりそう」


 財布を確認したら野口さんが1枚あったから大丈夫。

 戸を開けて本屋の中に入ると、ポツポツと人が来てるみたい。この辺だと本屋はここしかないからね。


 英語のノートを一冊取る。別に拘りはないからいつものでいい。シャー芯は多分まだ大丈夫。

 会計に行っておじいちゃんにノートを渡した。


「100円じゃ」


 ワンコインがなかったから野口さんを渡す。小銭が増えて財布も太る。


「いつもありがとう」


 お礼を言ってノートを鞄の中に入れる。おじいちゃんは微笑んでくれて手を振ってくれる。私も軽く振って戸を開けた。


 道端に出ると何だか喧騒な声が聞こえる。あれ、いつもはもっと静かなんだけどな。人の声よりも農具の機械の音が大きいくらい。


 ガヤガヤ、ガヤガヤ。


「うーん」


 視界には見慣れない景色が広がっていた。白い石のタイルの道がずっと続いていて、鎧を着た人やトカゲみたいな人が歩いてる。


 街中は賑やかで出店が一杯並んでるし、石造建築の大きな建物が多い。何となく後ろを振り返ってみた。後ろはおじいちゃんの本屋さんじゃなくて酒場みたいなのに変わってるし。看板にジョッキが映ってるから多分そう。


 何となく空を見上げてみる。赤、黄、緑の大きな星が西、北、東に点在してる。


「知らない街かなぁ」


 とりあえず歩こう。皆背が高くて剣や弓を持ってる。服装は全体的にラフな感じかなぁ。でも鎧は動きにくそう。剣道してたら平気なのかな?


「次の依頼はオークの群れだ」


「数は少ないけどちゃんと戦略を練らないとな」


「回復薬も多めに用意して退路の確保も……」


 何だか大変そう。顔にも傷があったし大丈夫かなぁ。

 でも日本語だしここは日本なのかな。ハロウィンなら有り得るのかなぁ。

 よく見たら制服を着てる人は少ない。私と同年代くらいの女性も大きな帽子被ってたり、マントを羽織ってる。裏地が縞模様ってちょっといいかも。


 とりあえず通りを歩いてるけどこの街は楽しそうというのが伝わってくる。子供も武器持ってたりするのは物騒だけど、頭がトカゲや狼の人も普通にお喋りして笑ってる。人種差別はなさそう。


「おーい。そこの美人の姉ちゃん! 1つどうだい!」


 美人と前に付いていたので多分私じゃない。私じゃないだろうけど、周りにはトカゲの人しかいないし一応振り返ってみる。すると鷹頭の人が手招きしてくる。手じゃなくて翼?


「おー、そうそう。あんただよ、あんた!」


 ちょっとジジくさいけど、気のよさそうな鳥の人。店の前には濃い赤色のダイヤ状のトマトみたいなのを一杯積んである。


「1つどうだい? 今日採れたばかりで新鮮だぞ! スープにしてよし、サラダにしてよし、デザートにしてよしだ!」


 その情報だと何か分からないなぁ。


「んー。じゃあ2つください」


 分からないなら食べたらいいかな。


「毎度! 2個で280オンスだ!」


 オンス? うーん、これは貨幣が違うなぁ。でも買うって言っちゃったし、取りあえずそれっぽい500円玉を渡しておこう。


「なんだこれ?」


 受け取った鳥の人が目を丸くしてマジマジと眺めてる。やっぱり駄目かー。


「金貨にしては随分小さい。けど材質はかなり似てる。数字が描かれてるのも興味深い。この紋様はなんだ?」


 鳥の人は表に描かれてる花の絵柄を翼で指してる。うん、私もよく知らない。

 私と鳥の人が首を傾げあう。どうしよう。


「まぁいいか。珍しい物に違いない。ほら釣りだ」


 鳥の人が納得してくれてお釣りを渡してくれる。500円玉より倍はある銀の硬貨と銅の硬貨を2枚くれた。サービスしてくれて良かった。この鳥の人は凄く良い人だね。


 ダイヤ状の赤い実を眺める。どれも鮮度は良さそう。試しに1つ取ってみる。思ったより柔らかい。ふにふにしてる。


「姉ちゃん変わってるな。もしかしてリガーは初めてか?」


「リガー?」


「リガーを知らないのか。身なりもいいしどこかのお嬢様か。リガーは弾力のある野菜だ。これくらい握っても破裂しないんだ」


 鳥の人がリガーを1つ持って翼で包む。それでグッと力を込めてもリガーは実が縮むだけで中身は出なかった。


「こいつの皮が特殊でな。ちょっと切れ目入れたら汁が出るから注意な」


 なるほどー。だからこの店に並んでるリガーはどれも傷1つない新鮮なものなんだね。

 やっぱりどこの店も傷物は売れないんだ。


「そのままでも食べられる?」


「おう。寧ろこいつは生で食うのが一番うまい! 日持ちするし冒険者の携帯食みたいなもんだぞ!」


「教えてくれてありがとう。大切に食べるね」


 リガーを2つ貰って笑顔を送る。鳥の人も笑顔で手を振ってくれたから軽く手を振っておこう。


「また来てくれよー!」


 多分来れないと思うけど、素敵な鳥さんのことは忘れないよ。

 それから街を歩いていたけど、人通りが少なくなって空も暗くなってた。

 それで街の外に出る大きな門を潜ったら、私のよく知ってるコンクリートの歩道の上に立ってた。


 でも、両手にはちゃんとリガーが握られてる。空は真っ暗で時々通る車のライトが眩しい。後ろを振り返ると鳥居があった。私の家とは真反対の神社へと来てたみたい。


 とりあえずスマホを取り出して家に連絡しておく。すぐ迎えに来てくれそう。


「課題終わるかなぁ」


 しっかりと時間だけは進んでくれるのが本当に辛いけど、あっちの食べ物を食べれるって考えたらプラスなのかな?

 親が迎えに来てくれるまで境内の階段に座ってリガーをプニプニして暇を潰す。意外と気持ちいいかも。

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