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135 女子高生も西都へ行く(4)

 今日、お昼で学校が終わったからお昼ご飯を買いにコンビニに寄ろうと思ったけど異世界に飛ばされちゃった。せっかくこっちに来たからにはこっちで食べよう。財布を2種類常備してる私に隙はない。


「そういえばお昼時にシロちゃんのお店でバイキングしてたね。今日はしてるかな?」


 最悪してなくても普通にパンを売ってもらってそれをお昼ご飯にしよう。

 早速お店に向かってみた。


「はあぁぁぁぁぁぁぁ。終わったあぁぁぁぁぁ」


 中からまるでこの世の終わりみたいな溜息が聞こえてくる。扉を開けて覗いたらフブちゃんが机に突っ伏して倒れてた。狐の耳と尻尾もシュンとしてて垂れてるのがなんともかわいい。


「シロ!? 帰ってくれたんだね! 私がわるか……」


「えーと。フブちゃん、こんにちはー」


 なんだか間が悪かったみたい。でもフブちゃんは気にしてなさそうで私の胸に飛び込んでくる。


「ノラくーん! 私は自分の浅はかさに後悔で胸が裂けそうだよ!」


「何かあったの? そういえばシロちゃんは?」


 いつも店番してるからいないのは珍しい。


「そう。あれは思い出すも悲しい私の愚かさだった」


 何か急に語りだした。


「夕飯はいつもシロが用意してくれたパンを食べていたんだ。その日もいつものように他愛のない話をしながら楽しく食事をしていたんだ」


「うん」


「それで何となく食べたパンの感想を口走ってさぁ。私、シロのパンってどれも似たような味だよねって言っちゃったんだよー! 本当馬鹿―!」


 それは料理人に対して言ってはいけない言葉ランキング何位かに入りそうな言葉だね。

 まぁでも毎日シロちゃんのパンを食べてて、お互い気心もしれてるならつい口走るのも無理がない気もしなくはないけど。


「そしたら朝起きたらシロがこんな書置きを残していなくなったんだ」


 フブちゃんがまた突っ伏して片手で手紙みたいなのを私に見せてくれる。それを受け取って内容を見てみる。


「モコ・シロイロ、修行、旅、出る。料理、知識、増やす。美味しい、パン、作る。西都、料理、深い。修行、終わる、帰らない」


「なんでそんなカタコト?」


 分かる単語を拾って読んだだけだからそうなったとは言えない。まだ文法までは把握できてないんだよね。でも大体の意味は分かった。フブちゃんに言われたのがきっかけで修行に出ていったみたい。


「うぅ。修行が終わるまで帰らないって遠回しに私とは会いたくないってことだよね。うわぁん、せっかくシロと仲直りできたと思ったのにー!」


「フブちゃん待って! 下の方に何か小さく書いてある! 追伸。今日、夕刻、帰る。フブキ、仕事、お願い。ご飯、適当、食べて」


「なんですと!」


 今日中に帰るってシロちゃん別に怒っても何でもないみたい。もしかしたらフブちゃんに言われる前から自分でも気にしてたのかも。


「やば! 仕事何もしてない! しかももう昼じゃん! そういえば謎に作り置きしてあった大量のパンは学園に持っていく奴だったのかも! ノラ君、ごめん! ちょっと行って来る!」


 フブちゃんが忙しなく走り回って店から出て行っちゃった。どの道、シロちゃんがいないならお昼のパンも買えなかったし仕方ないね。


「んー。それなら」


 私も西都に行ってみよう!



 ~西都~



 王都から西へ行って樹海の中にある大樹のトンネルを抜けた先が西都。前に来たから今回は1人でも大丈夫だった。緑豊かで木を居住区にしてる不思議な街。


「うー、シロちゃんを探す前に何か食べよう」


 ずっと歩き続けたせいで腹ペコゲージが限界突破してる。とりあえず近くにあった木のお店に近づいてみる。窓っぽい所があってそこで注文ができそう。


「ご注文はお決まりですか?」


 綺麗なお姉さんに尋ねられちゃう。メニューが木の窪みに描かれててちょっとおしゃれ。アラビアっぽい文字で書かれてるけど今の私なら少しは読める!


「えーっと。星、降る、肉をください! 2つ!」


「はーい。少々お待ちくださーい」


 こっちの文字も大分読めるようになってちょっとドヤ顔したい。

 って、今更思ったんだけど星降る肉って何? 適当に頼んだせいでそこまで頭が回ってなかったよ。


「お待ちどう様―。星降る肉ですー。2つで640オンスになります」


 サッと会計を済ませて容器を受け取った。中には橙っぽくて小さくて丸いのが一杯入ってる。白と緑の粉がまぶしてあって、たこ焼き……ではないよね。

 串が刺してあったから早速口に運んでみる。甘……んん? 熱っ! 肉の爆弾だ! 中に熱々のお肉が閉じ込められてるみたい。それにお肉が口でとろけて美味しい!

 熱々だけどたこ焼きよりはふはふしないし案外簡単に飲み込めるような?


 ここは名探偵ノラが謎を暴いてあげよう。きっとこの橙が星をイメージしてて、口に入れると肉が降ってくる。星降る肉。そして事件の真相はこの生地の中にある!

 串で半分に割ってみると容器にお肉が露わになった。湯気が出るくらいの熱そうだけど口の中に入れてもわりと平気だった。生地の裏側に青い葉っぱみたいのが練ってある。生地が甘かったし何かの果実? 西都は果物や野菜が豊富って聞いたしそれかな。


「んー、これ美味しいなぁ。いくらでも食べれそう」


 ゆっくり食べてたら他のお客さんも私と同じのを頼んでる。人気メニューなのかな?

 よく見たらケモミミの人だ。茶色い髪に茶色のもふもふの尻尾をしてる。耳は帽子を被ってるせいでちょっとよく見えない。制服みたいな恰好でマントもしてるし魔術学園の生徒に見えなくもないけどどうなんだろう?


 その子もこれを食べては幸せそうな顔をしてる。んー、ご馳走様って感じ。


「これ美味しいよね」


 何となく話しかけてみる。


「分かる。わざわざ西都にまで来たかいあった」


「そうなんだ。その恰好魔術学園の生徒?」


「違うよ。動きやすいからこういう恰好をしてるだけ」


 よくみたらスカートじゃなくてショートパンツだし、旅でもしてるのかな。

 それにこの雰囲気どこかで覚えのあるような。


「んー? どこかで会ったことあります?」


「口説いてるつもり? 生憎誰かから好かれた覚えはないんだけど」


 まー普通そうだよね。私も会った覚えはないし。


「私の気のせいかも。ごめんね。そうだ、実は人を探してるんだけどこの辺りで白い髪で大きな尻尾の子を見かけなかった?」


「白い髪で尻尾……。あーそういえば何か見た気がする。確かあっち」


 指で方角を示してくれた。よかった、これでシロちゃんを見つけられずに泣く泣く帰るはめにならずに済みそう。


「ありがとう。またどこかで会えるといいね」


「多分無理だと思うよ。私、もう出て行くから」


 そう言ってその子は手を軽く上げて早々に大樹のトンネルの方に歩いて行っちゃった。名もなきケモミミの旅人さん。なんかいいね。年も私と同じくらいに見えたし。

 って見惚れてる場合じゃない。早くシロちゃんと合流しないと!


 それでさっきのケモミミの子に言われた方に歩いてたら早速大きな白い尻尾が視界に入った。


「シロちゃん!」


「わ! ノララです!?」


「ノララだよ~。お店に行ったけど会えなくて心配だから来たんだ~」


「そうだったのですね。心配をかけてごめんなさいです」


 シロちゃんが手を膝に置いてペコリって頭をさげてくれる。この様子だと本当に今日に帰るみたいだったね。


「料理の修行って聞いたけど本当?」


「はい。私に足りないものを探してここに来たんです」


「見つかりそう?」


「はい! 私は神の料理人になるのです!」


 手に拳を握って燃え上がってるんだけど何事?


「シロちゃん大丈夫? 変な壺買わされてない?」


「か、買わされてないのです。大丈夫です」


 急に神とか言い出したからてっきり変な宗教に勧誘されたのかと思ったよ。

 シロちゃん押しに弱そうだし。


「西都では毎日神様に料理を作るそうです。それで神様に料理を作る人を神の料理人と呼ばれてるそうです」


 前にミツェさんが西都だと神様を信仰してるって言ってた気がする。西都が他の街と交友を持つようになったのも神様が大樹に穴を空けて道を作ったからって。


「神の料理人かぁ。神様の舌に合う料理って大変そう」


「はい。でも私は神の料理人になって真のパン職人になるのです! 今はまだ何をしていいか全然分かっていない状態なのですが……」


 思ったより結構思い詰めてるかもしれない。ここは1つ私も協力してあげないとね。


 それで手を引っ張ってある場所に向かった。そこはフブちゃんと初めて出会った大きな木。人が近くに行くと枝が階段になったり葉っぱがエレベーターになったり。それでどんどん上に上がっていける。


「わぁ。綺麗な場所なのです」


「ここ。フブちゃんがよく来てた場所なんだって」


「フブキが?」


「うん」


 それで上に上に行って。その出会いの場所の太い枝の所に到着。

 その枝に乗り移ってそこに腰を下ろした。一面が緑色の海になっててまるで山を登頂した気分。見上げたら空を緑色のモフモフした鳥の親子が飛び去っていってた。オオクサドリだったかな?


「別に急がなくてもいいんじゃない?」


「え?」


「料理ってその人の味覚によって好みが違うでしょ? だからどんな凄い料理人でも食べた人全員に美味しいって言わせるのはすごく難しいと思うの」


 高級食材でもそれを美味しくないって思う人も多くいると思う。刺身が苦手って言う人もいれば、肉が食べれない人だっている。


「私はシロちゃんがどれだけパンが好きで、こだわりがあるか知ってるよ。だから心配しなくても少しずつ街の人にも分かってもらえるようになるよ」


「でも……」


「それでも不安だって言うなら私が1万回シロちゃんのパンが好きって言ってあげる」


 お世辞じゃなくて本当に好きだから。あのモイモイのパンはシロちゃんにしか作れないだろうし、現実だと一生食べれないというのは断言できる。


「……ノララ、ありがとなのです。正直自分でも思ってたのです。付け焼刃の知識で自分の料理が美味しくなるとは思ってなかったのです。だから神の料理人は諦めるのです」


「うん」


「代わりに神のパン職人を目指すのです」


「うん?」


 謎に神へのこだわりがあるのは何でか分からないけどまぁいっか。


「とりあえず今日の目標はフブキに美味しいと言わせるパンを作るのです」


「それならきっとできると思うよ。応援してるよ」


「はい! ヤルヤルキツネです!」


 神のパン職人が何かは知らないけど、でもシロちゃんなら最高のパンを作れるようになるって今からでも断言できる。でもそれは言わないでおこう。

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