表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/221

134 女子高生も大会の審査員になる

 転移っていうのはいつも予期しない時にやってくる。今回もそう。

 気づいたら魔術学園の学長室のソファに座ってた。


「またあんたか。ここに来るのは久しぶりじゃないのかい?」


 ノイエンさんが最早私の転移に全く動じてないみたいで声をかけてくれる。今日も書類整理で忙しそう。


「こんにちは。いつも思ってもない所でこっちに来るので迷惑かけてすみません」


「慣れたからいいさ。それよりも丁度いい所に来てくれた。あんた、この日予定が空いてないかい?」


 ノイエンさんに紙を飛ばされて受け取る。何かの催しっぽい見出しだと思う。読んだ感じは魔法……大会?


「この日は休みだから大丈夫です。えっと学園で何かするんですか?」


「ああ。その日、年齢不問の誰でも参加できる魔術大会をするんでね。あんたにその審査員を頼みたい」


「魔術大会ですか?」


「簡単に言えば自分の得意魔法を披露してその出来を競う大会さ。審査員の点数が高い奴が優勝できる」


「そんな大事な審査を私なんかに任せていいんですか?」


「寧ろあんたみたいな人が居てくれた方があたしとしても助かる。それに事前に審査員候補に何人か声をかけるんだが大会に出たいって言って断ってくる奴も多くてね」


 そうなんだ。となると結構規模が大きいのかな。


「でも本当に私なんかが審査しても大丈夫です? 点数のつけかたなんて分かりませんし」


「その辺は自分の感性任せで問題ない。優れた魔法でも審査員を感動させられなければ意味がないし、逆に基礎魔法だけでもそこに少しの工夫を加えて感動させられるなら優勝候補にもなれる。その辺を考えるのもこの大会の醍醐味さ」


 なるほど。単に魔法の腕だけじゃなくて審査員をどう攻略していくかも大会で上に行くかの戦いでもあるんだね。私が審査したら甘々な評価ばかりになりそうだけど。


「どうだい? 受けてくれる気はないかい?」


「私でよかったら受けますよ」


「そう言ってくれると助かる。大会は昼からだからそれまでにまたここに来ておくれ」


「分かりました」


 なんか大役を任されたからこれは張り切っていかないとダメだね。今から自分の中で点数の基準の予習をしておこう。



 ~大会当日~



 大会は魔術学園にある広場で行われるみたいでそこに大勢の人が沢山集まってる。参加しない人は学園の中から観戦することもできるみたいで、事前に座るところをいくつも用意してあるそう。安請け合いしたけど段々と緊張してきた。


「さぁ今日も派手にやっていこうじゃないか。あんた達がどれだけ魔法について探求してきたか、今明かされるだろうよ。さて、今回の審査員を発表する。1人目は毎年恒例、魔術学園学園長ノイエン・フェルラ。2人目は魔術学園を首席で卒業したフルウ」


 ノイエンさんの説明で私の隣に座ってる酒屋の狼の大将さんが立ち上がって軽く礼をしてる。今の説明が色々私にとって衝撃なんだけど。狼の大将さんが魔術学園を首席で卒業?見た目が明らかに武闘派なのに?

 でもよくよく考えたらあの酒場に調理の為の魔道具が一切置いてなかった気がするんだよね。それは狼の大将さんが凄い人だったなら納得かもしれない。


「最後に3人目。未知の文明を知る異国人ノラだ」


 聞き入ってたら私の番が来ちゃった。とりあえず立って一礼しておこう。

 ノイエンさんもさすがに私が異世界人というのは伏せてくれたみたい。


「えっ!? ノノが審査員!?」


 どこからか聞き覚えのあるお嬢様の声がした気がするけど多分気のせい。


「さぁ、長い前置きはこれくらいにしようじゃないか。1番手を飾りたい奴はどいつだい?」


 この手の一番っていうのは不利っていうのを聞いたことがある。最初に審査員の基準にされやすいから後の人に有利に働きやすいとかなんとか。

 そしたら広場の真ん中に1人……じゃなくて1羽の鳥さんが出てきた。

 あれはリガーを売ってる鳥の店長さん? 魔法を使えるとは初耳だ。


「俺から行かせてもらうぜ」


 鳥の店長さんは両手にリガーを持っててそれを空高くに放り投げた。それで翼を軽く振ったらリガーの周りに突風が巻き起こってまるで見えない包丁に切り刻まれるみたいにして地面に落ちてくる。それを両手で持ったお皿に受けてた。


 鳥の店長さんがお皿を持って来てくれた。遠目で分からなかったけど、それが形を成してる。1つは大きな翼を持ったトカゲみたいなってる。サラマンダーの造形?

 もう1つは丸くてウサギみたいな可愛いの。多分ラビラビだ。しかもリガーの皮とへたを使ってラビラビが尻尾でリガーの傘を差してるようにしてる。芸術点が高い!


「ほう。リガーを使ったフルーツアートとはね。いきなりすごいのが来たねぇ」


 早速審査が始まった。手元に1~10の書かれた数字の札があるからこれを出したらいいんだね。ノイエンさんの言う通りこれはすごくレベルが高いと思う。ここまで器用に形を作るのは相当な魔法に対する理解がないと難しいと思う。後ラビラビが可愛い。

 審査の基準は自分の主観でいいって言ってくれたし、ここは10点を出そう。


「得点は6点! 9点! 10点! 合計25点だ!」


「よっしゃ!」


 ノイエンさん6点って結構厳し目だなぁ。狼の大将さんは料理をするからそこを評価したのかな?


「どんどん行くよ! 次は誰だい!」


 いきなりの高得点で次の人が少し委縮したのか、ちょっと場がざわついてる。そんな中で白い髪のケモミミの子が手をピンを挙げた。猫の尻尾がある街角の道具屋さん。レティちゃんだ!


「はいはーい! 私が行きます!」


 まさかレティちゃんも参加してるとはね。魔法がある程度使えるのは知ってるけどどんなのを披露するんだろう?


 レティちゃんは持ってたバケットの中に手を入れてそれを散らすように投げた。いつも来客の時にしてる紙吹雪だ。それで風を送って紙吹雪を空の方に送ると指を天に掲げた。

 そしたらなんてことでしょう。紙吹雪が凍り付いてまるで雪のようにひらひらと降って来るではありませんか。


「これがレウィシア・ウォムシェ流天候魔法です!」


 身近の物で雪を表現するっていうのはすごい。それに見た感じ高度な魔法は使ってなさそうなのに趣のある状況を作り出してる。これは文句なしの10点だね。


「得点は5点! 7点! 10点! 合計22点だ!」


 やっぱりノイエンさんは辛口みたい。さっきの鳥さんより点が低いから優勝はなくなったのかな。


「うわーん。負けちゃいましたぁ」


「レティちゃん! すごくよかったよ! だから元気出して!」


「ノラ様……! はい、ありがとうございます!」


 嬉しそうに耳と尻尾をぴょんぴょんさせてるのが可愛い。私の中でもうプラス10点加算してあげよう


「ふぉっふぉっふぉ。ではワシが行こうかのう」


 現れたのは魔術学園の教師のサンタさんだ。これはレベルが高いのが来そう。


 サンタさんは木の棒みたいのを持ってそれを地面に向けて何か光を棒先から発してる。それで歩きながら色んな所でそれを続けてた。何をしてるんだろう?


 その作業が終わったみたいで最後に両手を広げたら、地面の色が全部変わってまるで空模様になっちゃった! おまけに各地に星のような光が発してて、さっきしてたのはそれだったんだね。おかげで学園が空の上に浮いてるみたいになって凄い状況。これは文句なしの10点!


「得点は8点! 10点! 10点! 合計28点だ!」


 最高得点を叩き出してるし、やっぱり魔術学園の教師の実力は伊達じゃないね。

 この点数に広場はさらに緊張が走ってる。これより上に行くのはかなり難しいかもしれない。


「次私行く!」


 それで出てきたのは酒屋の看板娘ことセリーちゃんだ! セリーちゃんは両手を目一杯広げて走り出した。そうしたら宙にカラフルが色が付いて虹みたいになった。魔法線で絵を描くのが好きだったからそれを使ったんだね。シンプルだけど小さい子が必死に頑張ってる姿は癒される。これは10点。


「得点は8点! 10点! 10点! 合計28点だ!」


「わーい、やったー!」


 まさかの魔術学園の教師と全く同じ点数を叩き出すなんて末恐ろしい子!

 一気に優勝候補じゃない?


「身内贔屓だー!」


「学園長だろー!」


 どこからかヤジが飛んでる。確かにノイエンさんはセリーちゃんの親みたいなものだし、狼の大将さんも娘みたいに思ってるかもだし、これは贔屓点があってもおかしくないかも。


「うるせぇ! 厳正な審査に文句があるならてめぇの魔法で黙らせてみな!」


 ノイエンさんがヤジに対して言い返してる。この大会は審査員を攻略するのも1つの醍醐味って言ってたし、誰が審査員になるかは事前に分からないからこういうのもある種実力ではあるって言いたいのかもしれないね。


 それで広場が一瞬静まったけどそんな中を堂々と歩いてくる黒ワンピの子が来た。

 死神の肩書を持つキューちゃん!


「少し見ておったがやはり我からすればどれもレベルが低いのう。ならばお前さんの言う通り我が魔法で全てを黙らせてやろうではないか。人間共よ、刮目するがよい。我が死神の力を間近で見れるのを感謝するのじゃな!」


 キューちゃんが片手をあげたら頭上に大きな暗黒とも言える扉が出てきて禍々しい雰囲気が出てる。見るからに嫌な雰囲気が漂ってるし、絶対に危険な魔法。


「ノイエンさん」


「ああ」


 ノイエンさんが指を鳴らしたら光の槍が暗黒の扉を貫いて一瞬で破壊しちゃった。それを見たキューちゃんが啞然としてたけど一気に顔を真っ赤にしてる。


「妨害じゃ! 審査員の妨害など規約違反じゃ!」


「ここは芸術を競う場だ。力の強さを自慢する所じゃない」


「何を言うか! 魔法など強くてこそじゃ!」


 文句を言ってるけどもう審査が終わってるんだよね。


「得点は1点! 1点! 1点! 合計3点だ!」


 絶対今回の大会でワースト1位になれる点数。


「なんでじゃ! こんなの納得できぬ! 再審査が必要なのじゃ!」


 駄々をこねてるけどノイエンさんの魔法で遠くに飛ばされて強制退場させられてる。


「さぁ次は誰が出るんだい?」


 そうしたら人集りの中で手をあげてる人がいた。金髪の学生の子が前に歩いて来た。

 リリだ! やっぱり参加してたんだね。


「リリー、頑張ってー」


 応援の意味を込めて手を振ってあげよう。そしたらリリが親指を上げてた。自信ありげ?


 リリが両手を突き出して片手には蒼い炎、もう片手は氷のような氷柱を出してた。氷の魔法は苦手って言ってたような気がするけど克服したのかな?


 それで氷柱を天に向かって発射してる。それと同時に蒼い炎も空に向かって発射してる。

 それを何度も繰り返してた。不思議なことに放たれた炎も氷柱も落ちてこなくて宙に留まってる。炎が氷柱に乗って燃え上がってる状態?


 それで最後に赤い炎を氷柱に乗せて発射したら空には炎でできたアートが完成した。これは見覚えのある顔だ。多分瑠璃の顔。それで氷柱が溶けて落ちてくる雫がまるで涙みたいで芸術点が高い。これは10点!


「得点は9点! 8点! 10点! 合計27点だ!」


「うわぁん! 負けたぁ! 自信作だったのにー!」


 リリが悔しそうにその場に崩れてる。きっと相当練習して自信もあったんだと思う。

 確かに点数はサンタさんやセリーちゃんに負けてるけど、ノイエンさんが9点を出したっていうのはきっとかなり期待してくれた証拠だと思う。


「リリ! グッドマジック! 今日審査しに来た甲斐があったよ!」


「うぅ、ノノが審査員ならもっと練習しておけばよかった。また後でね」


 そんな感じで大会はどんどん進んで行って終わるのも早かった。結局大会を優勝したのは名前も知らない人だったけど、皆がした魔法はどれも綺麗でやっぱり魔法っていいなって思ったよ。


 大会が終わると広場に集まってた人も少なくなって残ってるのは教師の人達に顔馴染みばかりになった。


「みんなお疲れ~」


「ノノもね。まさかノノが審査員って本当驚いたわ」


 ほとんど10点しか出してなくて最早存在してる意味すらなかった気もするけどね。


「ノラ様が見てくれたからいつも以上の力が発揮できた気がします!」


「それ分かるかも。何か絶対失敗したくないって気持ちがあったのよね」


 レティちゃんとリリがうんうん言ってる。確かにどっちの魔法もよかった。


「我も最後まで見せられたならば今頃祝杯をしてたのじゃ。全く鬼ババァは余計なことをしてくれる」


「だったら次はもっと大会の趣旨に沿った魔法を選ぶことだね」


「言われずとも分かっておるわ! ノノムラ・ノラよ、来年の我に期待しておくがよい」


 キューちゃんは最下位だったっていうのに全く気にしてなさそう。こういう器の大きい所は嫌いじゃないよ。


「来年かぁ。次は私も参加したいなぁ」


 魔法なんてこれっぽっちも使えないけど、みんな楽しそうにしてるが見て感じたからその輪に入ってみたいって思ったよ。


「だったら参加してみるといいよ。魔力の有無なんて大した問題じゃない。大事なのはその人が何を表現してどんな心があるのかさ」


 ノイエンさんが優しく言ってくれる。でもどうせなら魔法を使いたいんだよね。これはあの封印されし魔術棒を呼び戻すしかないかな?


「だったら私が補佐するわ! ノノと共演する!」


「ありがとう、リリ。でも私は1人の魔法使いとして参加したいから頑張るよ」


「そっか……。じゃあ魔法の勉強したくなったらいつでも教えるわ!」


 やっぱりリリは優しいね。今度は文字の勉強ついでに魔法の勉強もしないとね。その前に魔力の有無問題もあるけど。来年は参加できたらいいなぁ。

どうでもいい小ネタを書きます。


 今回、審査員を務めた酒屋の狼の大将ですが彼は魔術学園に通う前は騎士学校の隊長を務めてもいました。そんな人が何故酒屋を経営しているのかというと、騎士時代の遠征中、野営の料理当番になり部下から料理を絶賛されたのがきっかけです。


「フルウ隊長、料理人の方が向いてるんじゃないですか?」


 そんな一言が彼の人生を大きく変えました。しかし当時は魔道具の流通も少なくまともな料理を作ろうと思えば魔法の習得は必須でした。それで魔術学園に編入し好成績を修めて晴れて酒屋を開いたというわけです。


 ちなみにリガーを売ってる鳥の店長は彼の魔術学園時代の同期でもあります。彼もかなりの腕利きで当時の2人はライバル関係でもありました。しかし結局鳥店長が狼大将に勝てることなく卒業になったとか。


 本当は街に魔物が襲ってきてこの2人の実力を見せようと思ったのですが、平和な世界な上、騎士が魔物を掃討までしてるのに襲ってくるってなんだとなって没になり設定だけが残ったという。


以上どうでもいい小ネタでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ