133 女子高生も幼馴染と過ごす
「暑いー。溶けちゃうー」
まだ5月の初めっていうのに既に30度超えの日が続いてる。色々予定を考えてたのにこの暑さのせいで動く気力がどんどんなくなっていく。というか縁側の廊下の床が気持ちよくてここで寝転がったまま動けない。猫丸の気持ちが分かって来たよ。
「ノラノラー。おーい」
外から我が友人の声が聞こえる。でも動きたくなーい。
「リンリンー。入っていいよー」
「じゃあ入るぞー。って珍しくすげーぐーたらじゃん。せっかくのゴールデンウィークだぞ」
リンリンだからこの無様な姿を見せられる感じ。こんな所は家族にも見せられないよ。
「暑くて死んでたー」
「今も死んでるだろ。まぁ確かに最近暑くてやばいわな」
急に暑くなったせいで余計身体が慣れてないっていうのもあると思う。
「そんなんで今年の夏乗り越えられるのかよ」
「無理かもー」
「だろうな。ていうか暑いなら異世界に行ったらいいじゃん?」
「逃げたら怒られるんだよね」
「誰に?」
「神様とか仏様とかそういう類?」
「でもそれなら丁度いいわ。これからアイス食べに行こうと思うんだけどノラノラも一緒にどうよ?」
「いいね~。行く~」
「だったら行く態度を見せて欲しいんだが」
妖怪床引っ付きに掴まったから起き上がれないんだよね。もたもたしてたらリンリンが手を貸してくれて何とか起きれた。
「じゃあ準備してくるから待ってて~」
「柴助らと遊んでるからゆっくりでいいぞー」
それでパパッと準備を済ませて庭に出たらリンリンがフリスビーを投げて柴助と遊んでる。でも柴助も暑くて動きたくないのかリンリンが投げたのを眺めてるだけ。それでリンリンが自分で取りに行ってる。それを他のもふ達が見てて何とも哀愁の漂う状況になってる。
「おまたせー。行こー」
「行くかー」
家を出たらやっぱり外は暑い。帽子を持って来たからそれを被ろう。リンリンも用意してたみたいで被ってる。
「アイスってどこで食べるの? 駄菓子屋の所?」
「今日たまたま移動販売しに来てるのを見かけたんだよ。これは行かねば損と思ってノラノラの家に行ったわけよ」
「移動販売とは珍しいね~」
ゴールデンウィークだから業者さんも色々頑張ってるんだね。こんな田舎町までご苦労様だよ。
それで30分も歩かない内にピンク色の車を発見。結構賑わってるみたいで人が集まってるのが遠くから見ても分かる。
「ここのアイスのか~。ここっておいしいよね」
「分かるわ。私が奢るからノラノラ好きなの頼みなよ」
「えー悪いよー」
「この前スライムアイスくれただろ? そのお礼だよ。先輩として偶には後輩を労ってやらんとね」
「そう? じゃあお言葉に甘えるよ?」
「ああ」
リンリンの気前がいいから好意に甘えさせてもらおう。メニューを見たら移動販売のわりにかなり種類がある。これはかなり迷う奴。
「ここのアイスだとこいつは外せないよな」
リンリンが指さしてる。あー粒粒が入っててぱちぱちする奴だ。私も好き。
「待って。今期間限定でさくらんぼ味があるみたいだよ」
「さくらんぼ味のアイスって珍しいな」
「だよね。私これにしよう。後さっきので」
「おっけー。カップとコーンどっちにするん?」
「カップかな」
暑いしコーンだと急いで食べないと溶けて大変だからね。
「すみませーん。これとこれをカップのダブルで。それとこれとこれとこれでカップのトリプルでお願いしまーす」
「はーい。お会計は898円になります」
リンリンにお金を払ってもらってカップを貰った。甘くておいしそー。
「ありがとー」
ここのアイス久しぶりに食べるから楽しみー。早速1口食べてみよう。
「ん~、冷たくておいしい~」
「やっぱ暑い日はアイスに限るよな」
普段は冷房の効いた所で食べるからこういう外で食べるのも悪くないかも。寧ろありだね。
「ふー、うまかったー」
リンリンが過去形の言葉を使ってる。聞き間違いと思ってみたらもう食べ終わってるんだけど。私まだ3口目食べたばかりなんだけど。
「やっぱここの美味しいわ。もう1個買って来る」
私が食べ終わるころにはメニュー全部制覇してそう。
「ご馳走様~。おいしかった~」
「ノラノラあんだけでよく足りるな」
リンリンかなり追加注文してたもんね。私としてはその胃袋と太らない体質が羨ましいけど。
「これからどうする?」
「適当にぶらぶらするかー」
「そうだねー」
田舎だから遊べる所なんてほとんどないし、異世界に行った方が色々と遊べそう。
適当に歩いてたら地元の小学校が見えてきた。休み中みたいだけど運動場で遊んでる子供がちらほらいる。そんな子供をリンリンが遠目で見てた。
「リンリン?」
「あ。いや何でもない。やることもないしノラノラの家に帰るか」
「うん」
帰り道は小学校の近くから通れる堤防から戻って行ってる。普段なら散歩しに来てるお年寄りや釣りに来てる人が川に降りてたりするけど今日は暑いからか人気がない。
「小学生の頃はよくリンリンとここを通って帰ってたよね」
「そうだな」
普通に帰るより遠回りになるけど子供の時はそういう遠回りの道を好んで選んでた気がする。理由は今でもよく分かってない。
「今じゃもう高校生だもんな。私何か進路決めないといけないし」
「悩んでる?」
「少しだけな。悩むっていうか何をしたいかも分からないって感じだし」
「ちょっとあそこで座ろ」
川に降りる階段があるからそこにリンリンと仲良く腰を下ろした。リンリンが地面に落ちてた小石を拾って川に向かって投げたけどそこまで届かなくて地面を転がってた。
「私、来年どうなってんだろうな」
「何となくだけどリンリンはこの街から出て行ってると思う」
「おいおい。それはないと思うぞ。今一番可能性が高いのは実家の農業を継ぐっていうのだし」
「そうかな? この前コルちゃんの家に行った時、都会を見てすごく楽しそうにしてたでしょ? 多分リンリンはああいう所へ行きたいのが本音なんじゃないかな」
勝手な憶測だけどリンリンも思う所があるみたいで何も言わないで黙ってる。
「まー確かにコルコみたいに都会暮らしには憧れるけどさー、そこで何かしたいってわけでもないし」
「じゃあ都会の大学に進学してそこで1人暮らししてみたら? 何かやりたいことが見つかるかもしれないよ」
「……ノラノラはそれでいいの? 私が街を出て遠い所に行ってさ」
「寂しいけど、でもリンリンの暗い姿を見るのはもっと辛いよ。それに離れるって行っても今の時代いつでも連絡はできるでしょ? ヒカリさんも1人暮らししてるけどコルちゃんとは今も仲良くしてるし」
「なーんかノラノラって知らない間に大人になったよなー。これも異世界通いのおかげってやつなのかね?」
自分では何も意識してないから全然分からないんだけど。でも異世界で色んな人と関わったから見識が広がったっていうのはあるかもしれない。
「ノラノラも昔は私とよく遊んでたのに今じゃすっかり遠い人間になったんだなー。お姉さんちょっと寂しいわ」
「リンリン聞いて。確かに異世界に行って色んな人で出会って仲良くなったけど、今の私があるのはリンリンが私に声をかけてくれたからなんだよ。多分あの時リンリンがいなかったら異世界にも行ってなかったし、友達もいなかったと思う」
そもそも異世界に行きたくなったきっかけもリンリンが貸してくれた本が影響してるし。
「だからこの先何があっても私はリンリンを忘れないし、ずっと仲良くしたいって思ってる。どんなに遠く離れても私の気持ちは変わらないよ」
「それは私もそう。私、こんな田舎あんまり好きじゃなかったけどノラノラが居てくれたから退屈しなかったんだ。こんな色褪せた風景もノラノラがいなかったら今頃不良にでもなってたと思うわ」
そう言ったらリンリンが立ち上がって埃を払った。
「話聞いてくれてありがと。おかげでちょっとだけ吹っ切れた」
「いつでも相談に乗るよ。聞くだけになると思うけど」
「ありがと。聞いてくれるだけでも嬉しいよ。さーて、どうせ暇だし異世界にでも行くとしますか」
「いいね。アイス奢ってくれたから向こうで何か奢るよ」
リンリンが手を差し出してくれたから手を取って歩き出した。でも神様の悪戯なのか、結局その日は異世界に行けなくてずっとリンリンと手を握ったままなのは秘密。