131 女子高生も廃都へ行く(1)
1万字を超えたので分割しました。きりがいい所まで読みたいという方は明日の更新をお待ちくださいませ
今日の私は絶好調。今日という今日こそは異世界に行くと決めてる。
「ミー美、瑠璃。準備はいい?」
「ミー!」
「ぴー!」
最高の返事が来たからバッグを片手に庭を飛び出した。その先に待ってるのはハロー異世界! 今日も賑やかな央都の街並み。ここで一日過ごすのもすごく楽しいけど今はゴールデンウィーク期間中だから遠出しないともったいない!
「というわけだからこの国にある5大都市を目指すんだよ」
「ミー?」
「ぴー?」
意味が分かってなさそうな顔をされてる。これは仕方ない。私もよくわかってないし。
「んー、どこに行こうかな。西都と東都は行ったことがあるから消去法的に北都か南都かな。よし決めた。北都に行こう!」
善は急げ。そうと決まったら早速ミー美に跨って街を出よう。北都って言うくらいだし北に行けば大丈夫だよね。後はひたすらミー美に頑張ってもらう!
「しゅっぱ~つ」
「ミー!」
「ぴー!」
~1時間後~
威勢よく家を飛び出したのは最早遠い昔の記憶。どんな旅も最初は期待や楽しみを背負って意気揚々とするもの。でも現実という残酷な世界はいつもそう期待通りに進むとは限らないと知った。いや知らされた。
目の前に広がるのは一面荒野の世界。草木の1つも道すらもどこにもない。荒れ果てた砂利だけの世界が全てを覆いつくしてる。
「やっぱり地図が必要だったのかなぁ」
未開の地で当てもなく勘だけで街に行きつくのは、きっと砂漠に落とした500円玉を見つけるくらい難しいのかもしれない。砂漠に行ったことないけど。
「瑠璃~、助けて~」
返事がない。つまりは諦めのスリープモード。翼があるんだから頑張って欲しかったけど無理だった。頑張ってくれてるのはミー美だけだよ。
「街でもあればなぁ」
「ミー!」
「どうしたの、ミー美?」
ミー美の足が速くなったからしっかり掴まって前を見たら何やら建物がいくつも並んでるように見える。まさかの街? 渡りに舟だー。寧ろ九死に一生。
特に柵も何もしてなかったから街の中にあっさり入れた。木造の建物がいくつも並んでて、何だか西部劇に出てきそうな街並みだ。
建物は沢山あるのに人の気配が全然ないのがちょっと怖い。皆家の中にいるのかな。そのせいで閑散とした雰囲気がある。
とりあえずここがどこか聞きたいし誰かと会わないといけない。こういう所だとやっぱりバー的な場所が正解?
一応それっぽい建物を見つけたからミー美から降りる。瑠璃はやっぱり寝てた。
「ちょっと待っててね」
「ミィ」
ぼろぼろの段差を上がったら今にも崩れそうなくらい床が軋んだ。もし壊したら怖いマスターが出てきて賠償請求されるかもしれないし慎重に行こう。古臭い扉のドアノブは今にも外れそうだけど掴んだら動いた。押したら鈍い音がして開いた。
「すみませーん」
中は真っ暗だ。人の気配はなさそう。でもテーブルとかは綺麗に並んで置いてあるしカウンターもある。今日は休業だった? そうだとしたら完全に終わりなんだけど。
長居すると怪しいし他の所を探そう。別の所だと人がいるかもしれないし。
「ミー美、悪いけど他の所に連れてくれる?」
「ミ!」
当たって砕けろの精神で行くしかないよね。そしたらお婆さんらしき人影を発見。これは救われたね。あれ、でもよく見たら何か見覚えのあるような。
「あん? なんであんたがいる?」
「あれ、ノイエンさん?」
三角帽子を被ったノイエンさんが近くにやってきた。驚いて目を丸くしてるけど多分私もそんな感じだと思う。
「どうしてノイエンさんがここに?」
「それはこっちのセリフだよ。なんでノラがこんな辺鄙な街にいるんだい」
「えーと。北都に行こうと思って央都を出たんですけど道が分からなくなってそれで偶然ここに来たわけです」
「おいおい。いくら何でもそれは無謀すぎるだろうよ」
「やっぱりここって北都から違うところですか?」
「道は合ってるよ。ただ北都はここからずっと先の場所にある。フィルミーの足でも数時間はかかるだろう」
ミー美でもそれって遠すぎない? でも道は間違ってなかったことに驚きだけど。
「それでノイエンさんはここに何の用事ですか? もしかしてここにも孤児院があったりします?」
「んなわけないだろう。とある依頼で廃都で起こる怪事件を何とかして欲しいと頼まれたのさ」
廃都……確か五大都市とは別にあるそれなりの規模の街だったかな。
「怪事件ですか?」
「ああ。なんでも最近廃都で幽霊騒ぎがあるらしくてね。あたしはそんなのありやしないと言ったんだが結構な数の証言があって、動かざるを得なくなってしまったんだよ。全く面倒な仕事だよ」
まさかの幽霊騒動とは。
「そうなんですね。じゃあ街に人がいないのもその騒ぎのせいですか?」
「いや。元々ここは廃墟街さ。住んでた人は皆北都に行っちまった。見ての通りここの周辺は荒野ばかりで物資も食料も足りてない。そんな中で生活するよりは安心して暮らせる所に移住するのが自然の摂理さ」
確かに街の規模もそんなに大きくないし水を用意するだけでもかなり大変そう。
「誰もいないから幽霊騒ぎかぁ。死んだ霊が今も街を徘徊してるって感じです?」
「あんたはその類を信じる口かい? 幽霊だの言ってるがどうせ風来坊が勝手に住み込んでそれを勘違いしてるだけだろうよ。人の噂の本質なんて大抵ちっぽけさ」
その言い方はノイエンさんは信じない感じかな。魔法のある世界だけどやっぱり目に見えない存在は理解し難いのかな。
「せっかくなので私も見学してもいいですか?」
「あんたも物好きだねぇ。余程暇なのかね」
それは否定できないけど、ノイエンさんの魔法を見れるのは貴重だし。
それでノイエンさんはさっき私が入ったバーに近づいて行った。風化してる段差に遠慮なく足を乗せたせいで片足が床を抜けて刺さってる。お構いなしに歩いてドアを蹴っ飛ばして開けてた。私の努力が空しい。
中はやっぱり暗くて見えづらい。そうしたらノイエンさんが人差し指を天井に向けたら白い光の球が浮いて電球みたいになった。魔法便利。
ノイエンさんは中を物色して机を触ったりしてる。私も真似してカウンターを指でなぞってみる。意外と綺麗。ほとんど埃がない。
「あれ? 人がいないのに綺麗って変なような」
「あんたもそう思うかい。やはりここには誰かが住んでる可能性が高いね」
それでノイエンさんが箒の棒になってる先で床をトントンしてる。床下は空洞になってるみたいで音が反響してる気がする。
そしたらノイエンさんが床に手を置いたら今度は手が青く光った。そしたら床の木片がパズルのピースが取れるみたいに宙を舞ってパラパラって落ちた。
「中にいるのは分かってる。出てきな! さもなくば撃つよ!」
完全に拒否権のない強気な発言。これは相手に同情する。するとその穴から白い布を被った丸い球体の何かが出てきた。黒い点の目が2つ。ケモミミみたいな三角の耳がピンと伸びてる。何か可愛い。それはふよふよ宙を浮いて出てきた。
「ばけばけ~」
口がないのに喋ったんだけど。見た感じ幽霊っぽい魔物なのかな。全然怖くないけど。
「バケバケか。幽霊騒ぎはこいつの仕業かい」
名前がそのまま過ぎるような気もしなくないけど黙っておこう。
「ばけ~。ばけばけ~」
バケバケが机に乗って何か言ってる。何かを訴えてるような気もするけど。
「何を言ってるか知らんが、退治されたくなかったらさっさと街から出て行くんだね。そうでなかったらあたしに退治されるだけだよ」
「ばっ、ばけ!? ばけばけ!」
必死に首を振ってそれでいてずっと喋ってる。これは何かあるかもしれない。
こんな時は。
「瑠璃―。通訳お願いー」
言ったのに返事がない。そうだ、ミー美の背中で寝てるのを忘れてたよ。
「ノイエンさん、ちょっと待ってください。バケバケの言葉を瑠璃に解読してもらいます」
「面倒はごめんなんだけどねぇ」
と言いながら待ってくれるみたいで腕を組んでた。それで瑠璃を連れてきて戻って来る。机の上に2匹がいつものよく分からないジェスチャーと鳴き声で何かを伝えあってた。
毎回思うけど種族が違うのによく言葉が通じると思う。
「ぴ! ぴぴ!」
通訳が終わったみたいで瑠璃が何か言ってる。これを解読するのも結構大変。瑠璃が暗い所に移動して手をだらんと前に垂らしてゆっくり歩いてくる。何やってるんだろう?
首を傾げてたらバケバケを指さして首を振ってる。それでさっきのジェスチャーを繰り返してる。うーん?
「幽霊騒ぎはバケバケじゃない?」
「ぴ!」
「ばけ!」
当たってたみたい。
「つまりバケバケ以外に幽霊がいるってこと?」
「ぴ!」
そうしたらバケバケが外に飛び出して行った。もしかしたらその原因を知ってるのかも。
「ノイエンさん。バケバケを追いかけましょう」
「やれやれ。あんたといると退屈しないよ」
外に出てミー美に乗って飛んでいくバケバケを追いかけた。ノイエンさんが箒に乗って追いかけてくれるから見失うことはなさそう。
案内された先は木造の一軒家だった。極普通の2階建ての民家。
「ばけ~」
バケバケが首を振ってこの先には行きたくないって顔をしてる。魔物が嫌がるって本物かもしれない。
「嫌な気だ。ノラ。あんたはここで待ってな」
いつになくノイエンさんが真剣な顔で言ってくる。実際瑠璃とミー美も少し怯えてる様子。
もしかして何もわかってないのは私だけ?
「一緒に行きます。ノイエンさんに何かあったら大変ですから。瑠璃とミー美はここで待ってて」
2匹とも頷いてくれた。好奇心の強い瑠璃が来たくないのは相当かもしれない。
「ノラ。もしもあんたに何かあってもあたしは責任を持てないぞ。あたしだったら別に……」
「それでも行きます。それに誰かが行かないと知らずにここに来た人が大変な目に遭うかもしれないですから」
「……分かった。いざという時はあたしを身代わりにしな」
それは流石にしないけど聞いてくれなさそう。それでノイエンさんが民家の扉に手を当てて開けた。特に音もなく開いた。
中は普通の家みたい。狭いホールがあって薄暗い廊下がまっすぐ伸びてる。ここで気づいたけど妙に背筋が寒い。
「ノラ。本当に大丈夫かい?」
「大丈夫です」
ノイエンさんは普通を装ってるけどいつもより緊張感が走ってる気がする。廊下を歩いた先にはリビングとキッチンになってた。机や椅子が並んでて綺麗に整理されてるし、埃もない。まるで誰かが掃除してるような。
そしたら急にキッチンの方で物音がした。皿を置くような音。ノイエンさんが前に立って身構えた。そうっと目を向けたら皿が宙を飛んで机に置かれてる。また別の皿が宙を飛んで机に置かれた。まるで夕食の配膳のように。
途中気づいたけど皿が浮いてる時にその下に人のような影が映ってるのが見えた。ノイエンさんに言おうと思ったけど既に気づいてるみたいで箒を構えてた。
これは本物かもしれない。
いくらノイエンさんが凄腕でも幽霊はどうにか出来るのかなぁ。というかこの幽霊は私達に気づいてないのかな。さっきからずっと皿を並べてる。中身は空っぽ。でもキッチンからは包丁の音もするし料理をしてるつもりなのかもしれない。
ノイエンさんがいよいよ影に標的を絞って指先を光らせてる。きっと魔法を放つ気なんだと思う。
「ノイエンさん。あの」
「喋るな。気づかれたらどうにかなるよ」
「違うんです。一度ここを出ませんか?」
顔色が悪い振りをしたらノイエンさんが黙って頷いてくれてその場を後にしてくれた。
家から出てようやく一呼吸。
「聞いて欲しいんですけど多分あの幽霊悪い幽霊じゃないと思います」
「その根拠は?」
「勘?」
正直自信がないからこういうしかない。
「けどねぇ。仮にあれが悪い幽霊じゃなかったとしても現に幽霊騒動として苦情が来てるんだ。どうにかする必要があるんだよ」
「はい。だから1つ提案があるんですけど聞いてくれますか?」
それを話したらノイエンさんが驚いてたけど、すぐに行動に移してくれた。