11 女子高生も山で幼竜を助ける
日曜日、晴れ。
今日はリンリンとコルちゃんと一緒に地元の神社へ行くことになった。
昨日、私の願いを叶えてくれた神社の話になって、その神社の裏に大きな花畑があるって教えたのが発端。
「神社に来るのも久し振りだな」
「今日の為に5円玉を10枚用意しました。願いは勿論異世界旅行です」
「コルコ。一度に何回も願えばいいってもんじゃないと思うぞ」
「仕方ないじゃないですか。わたしの地元には神社なんてありませんし、それこそ初詣に家族と行くくらいですよ」
リンリンとコルちゃんと並んで歩く。リンリンは黒のTシャツにホットパンツっていうボーイッシュな格好。
一方コルちゃんは麦わら帽子に青のワンピースという可愛らしい格好。
私はグレーの襟シャツに黒のミニスカ。ハンドバッグには医療セットを入れてある。山の近くを歩くから変な虫とか出るかもしれない。
道路沿いを歩いてたら木々に挟まれて鳥居が立ってるのが見える。それを抜けたら石段があって結構上らないといけない。これがちょっと疲れる。
でも神社に来るのは久し振り。高校生になってから一度も来てないから神主のおじいちゃんの挨拶を考えないとなぁ。
ぼんやりそんな事を考えて一段ずつ上がる。んー? なんかやけに段数が多い気がする。こんなにも階段あったっけ?
意識を目の前に向けてみた。するとそこは階段じゃなくて岩が積み重なった所だった。
うーん、異世界だねー。
「おー、また来れたぞ」
「さすがはノラさんです。願いいらずでした」
いつの間にか2人が私の手を握ってる。そんなに強く握られると恥ずかしいんだけど。
「ごめんね。せっかくのお花畑が台無しになっちゃった」
「いや寧ろこっちが本命っていうかさ」
「少し期待してました」
だから手を握ってたのかー。今度握り返してあげよう。
とりあえず状況を確認してみる。辺りを見回しても私達の住んでる山とそんなに違いは……あった。まず葉っぱの色が青や紫、白とかもある。
木も何か変。根の周りに葉が生え揃って肝心の枝の方が枯れたみたいになってるのもある。他にも逆V字型になってる木とか、幹に大きな口が開いてる木がある。やっぱり異世界だ。
「見てください。茸です」
コルちゃんが何か見つけて屈んでる。岩場の隙間に紫と白のまだら模様の茸が生えてる。あと形がダンベルみたいで平に伸びてる。
「こっちにもあるぞ」
リンリンが指差すと木の根元に頭がブロッコリーみたいになってる茸がある。色は普通に茶色っぽいけど何か頭が揺れてる。
「山菜採りする?」
なんとなく提案してみる。
「専門の研究者に売ったら高値で売れそう」
「リンさん、物欲がだだ漏れですよ」
「いやだってお金で還元するのは普通だろ? ノラノラもそう思うだろ?」
「んー?」
ブロッコリー茸の方に歩いてみる。やっぱり揺ら揺ら動いてる。根元から掴んで引っ張ってみた。
「うきゃあぁぁぁぁぁ」
甲高い女性の悲鳴みたいなのが聞こえてブロッコリー茸の動きも止まった。もしかして生物だった?
振り返ったらリンリンとコルちゃんが後ずさってる。
「やっぱ山菜採りはなしで」
「異世界の自然を勝手に乱してはいけないと思います」
んー、残念。とりあえずこれは持ち帰って狼頭の大将さんにでも聞いて調理方法を教えてもらおう。
それから岩場の階段を上がったら林道みたいに道がまっすぐ続いてた。やっぱり森の中みたい。茂みの方は雑草も伸びてるから入れない。
そのまま歩いてたけど道の真ん中に何かが倒れてる。青色の肌をしてお腹が白い小さなトカゲみたいな生物。でもトカゲと違って頭には角があって、背中には蝙蝠みたいな羽もある。
けど一番の問題はその生物のお腹に3本線の引っかき傷があって血を流しているということ。トカゲさんもぐったりしてて目を瞑ってる。大変!
急いで駆けつけてしゃがむと水色のトカゲさんが薄く目をあけて「ぴー」って弱弱しく鳴いた。
「めっちゃ怪我してるな。このままだと死ぬぞ」
「大丈夫。念のために医療道具持って来てるから」
擦り傷を手当てする為の道具を持ってきて正解だったよ。
ハンドバッグから包帯と消毒液を取り出すと、コルちゃんが青色のトカゲさんを抱き起こしてお腹を見せてくれる。
「ちょっと染みるけど我慢してね」
消毒液をかけるとトカゲさんがまた鳴いてちょっと暴れた。見たら手には爪も伸びてて危なかったけど、弱ってるからか抵抗はそんなにしなかった。すぐに包帯をお腹に巻いて上げた。出血が酷いのかじんわり滲んでる。それに元気もない。
そうだ。さっき採ったブロッコリー茸を食べたら元気にならないかな? 取り出して口元に寄せてみる。するとトカゲさんがもしゃもしゃと食べてあっさりと平らげた。食べて少しすると落ち着いたのかすやすやと眠ってる。
「うーん、どうしよ」
「放っておくとまた襲われるかもしれませんね」
「だよね。やっぱり連れていこっか」
医療道具をなおしてトカゲさんを両手で抱えた。思ったより軽い。
「で、私の勘だけどそいつはドラゴンだ」
「リンリンもそう思う?」
昔リンリンに借りた小説に出てくる竜の子供に似てる。
「竜が山の中にいるものなのですか?」
「どうなんだろう。偶然に迷い込んだだけなのか。どちらにせよ、他の動物からは餌と思われてるのは間違いない」
「この世界では竜の地位が低いのでしょうか」
確かに竜って凄く強い生物ってイメージがあるし、幼態でも一般動物を撃退するだけの力がありそうだけど。
「とりあえず帰って育ててみる」
「ノラノラ正気か? もしそれが本物の竜だったら育つと私らの街が破壊されるかもしれないぞ」
「んー、でもこのまま放っておくのも後味悪くない?」
「気持ちは分かるけど、スライムとは訳が違うぞ」
いつになくリンリンが説得してくる。でも言いたいことは分かる。竜って凶暴なイメージあるし。
すると横からコルちゃんが言った。
「では様子見するのはどうでしょう? ノラさんはこっちにいつでも来れるのですから危なそうなら異世界の役場の人に引き渡せばいいのではないでしょうか」
「そっか。でも、私の身勝手で手放せないから最後まで育てる。街の人から話しを聞いて色々調べてみる」
「そこまで真剣な目をされてはこれ以上何も言えませんね。出来る限りサポートしますよ」
「だな。ノラノラって動物に甘いし」
お母さん、ごめんね。また家族が増えそう。




