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9 女子高生も友人とお昼を過ごす

 水曜日、雨。


 4限目の授業が終わってお昼休憩。今日はリンリンも一緒。

 弁当箱を開けると彩り豊かなおかずが沢山。うん、今日もお母さんの弁当は素敵だね。

 手を合わせて食事になったけど、リンリンが一点を見つめてる。


「なぁ、ちょっと気になるんだけど、ノラノラとコルコの机にあるその瓶何?」


 リンリンが目に入って指を差してる。コルちゃんと同時にそれを手に取った。


「卵焼きにかけてよし、サラダにかけてよし、万能調味料」


「話題沸騰中、リピーター増加。数量限定の特製ソース」


「「それがスラース!」」


 決まったね、コルちゃんとの息ピッタリの演出だよ。


「何かCM始まった。で結局なんなん?」


「うん。この前工場見学行った時にスライム牧場に飛ばされて、その時にもらったの」


「スライムの粘液から作ったソースだそうです」


 瓶の蓋を開けて卵焼きの上にちょっとだけ付ける。それを口に運べば、卵のふんわり感とスラースの甘さが融合してトロトロで美味しい。


「リンリンも使う? すごく美味しいよ」


「いいの? じゃあ少しだけ」


 リンリンがレタスとトマトに付けて纏めて口に運んだ。すると箸の動きが止まる。

 ゴクリ。お味は?


「めっちゃ美味い」


 良かった。味は製造者のトカゲ頭のおじさんも絶賛してたからね。


「スライムソースといい、ゴブリン肉といい、向こうではそういうのが普通なのか?」


「そうなのかなぁ。でも、柴助連れた時は周りが驚いてたし、普通の動物はいないのかも」


「本当知らない間に異世界行ってんな」


 言われてみればそうかも。ここ最近はほぼ毎日行ってる気がする。


「不思議な所ですよね。動物の人が人と一緒に住んでると話してもきっと誰も信じてくれないでしょうね」


「だねー。親に話したけど全然信じてくれなかったもん。また夢の話してるって笑うんだよ。酷くない?」


「百聞は一見にしかず、実際に体験しないと分からないと思います」


 でもこの話を国に提出したり、研究したりする気はないかな。こうして信じてくれる友人もいるし、一緒に出かけられるだけで十分。


「でもノラノラも欲がないよな。こっちと世界が違うなら、こっちの文明器具や食べ物持っていったら大儲けできるだろうに」


 それは考えたこともなかったなぁ。ご飯と味噌汁の定食屋さんを開いたら一攫千金?


「そう簡単でもないと思いますよ。例えば電気のない所にスマホを持ち込んでも売れませんし、食べ物に関しても味覚の違いがあります。工夫が必要ですよ」


「日本にあるインドカレー屋さんとかも本場より大分甘くしてるんだよね?」


 もしも向こうで稼ごうと思ったら現地の人をもっと知らないと駄目だね。

 女子高生でかつ日帰りしか出来ない私には少しハードルが高い気がする。


「金稼ぐって大変なんだなー。はぁ」


 およ、リンリンが珍しく元気ない。


「どうしたの? 悩みなら聞くよ?」


「悩みって程じゃないけど、私2年だからさ。将来の志望とか言われるの」


 そっかー。高校生だからそういうのも考えていかないと駄目なんだね。


「普通に考えたら進学じゃないのですか?」


「そうなんだけどさー。でも大学行っても結局就職だろ? 私、別にやりたいこととか全然ないしさ。だから進路志望とか話されても困るっていうかさ」


 何となくその気持ち分かるかも。私も将来のビジョン全然見えないし、なんなら考えてない。


「高校生でそこまでしっかり考えてる人の方が少ないと思います。とりあえず勉強頑張って、そこそこの大学に通って、そこそこの企業に就職する。それが多数だと思います。わたしもそうですし」


 好きなこと、やりたいことって難しいよね。

 趣味、趣味かぁ。あ、いいこと思いついた。


「じゃあ私が異世界で新事業展開するからそれで2人を雇ってあげるね」


「ノラさんが社長の企業ですか」


「めっちゃゆるそう。つか事業って何するん?」


「んー。今さっき思いついたのは定食屋さん」


「和食かぁ。流行るかねぇ?」


 うーん。確かに向こうの酒屋に来てた人は豪快に食べてたからお箸でチマチマ食べるのは性に合わないのかなぁ。


「揚げ物豊富な定食屋さんにすればよいのでは? トンカツ定食、から揚げ定食などなど」


「コルちゃん採用」


「面接に受かりました」


「面接だったんか!? ぐはっ」


 リンリンが椅子にもたれかかって生気なくしてる。冗談が過ぎたみたい。


「そういえばリンリンの実家って農家さんだよね。向こうで農業するのも面白いかも?」


 野菜を栽培して狼頭の大将さんのお店と年間契約をすれば完璧! 店で新作を出してもらえばリピーター増加間違いなしだね。


「あー、多分無理だと思う」


「いつになく説得力あるね」


「そりゃ手伝いでよく行くからね。異世界の害虫って何いるか分からないから消毒も全部一から作らないとだろ? トラクターなかったら耕す面積もしれてるし、そもそも野菜が売れるかも分からない」


 さすがは実体験は重みが違うなぁ。


「そこまで詳しいのなら農業をしないのですか?」


「絶対、嫌! 夏場は暑いし紫外線あるし、冬は土が凍って地獄だし! そりゃマイペースで仕事してる農家さんも多いけどさー。でもまぁ、果樹にはちょっと興味あるけど」


 林檎とか桃とか梨かな。


「異世界で果樹園開く?」


「悪くないけど異世界の治安ってどれくらいなんだろうね。あんまり悪いとせっかく育てた果物全部盗まれる危険もあるじゃん?」


 あー。偶にTVとかでブランド果実が大量に盗まれるっていうの見たなぁ。

 でも、鳥頭の店長さんの店はリガー沢山売ってるし、専業の場所がありそうだけど。


「こうなっては宝くじでも当てて逆転するしかありませんね」


「コルコにしてはめっちゃ非現実的な意見が出た」


「うん。コルちゃんだったら地道に稼ごうって言いそう」


「そ、そうです? では異世界で宝くじの元締めをするというのはどうでしょう」


 まさかの逆転の発想。でも面白いかも。


「1口100円くらいにして、1万口売れれば100万です。1等を50万、2等10万、3等5万くらいにしても30万近くの利益を出せますね」


「なんつーか、コルコが社長やった方が成功しそうな気がしてきた」


「うん。私もそう思う」


 やはり凡人は秀才に勝てない。私の事業の夢はここで潰えたよ。

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