第5話 それにしてもやはりいっぱい出てきますねえ
万象が無事に復活したのを見届けると、空高い所にいたドローンは、旧陽ノ下邸へと帰って行く。
と同時に、あの嫌な奴が息を吹き返した。
ヴォーーー
生き物とも思えないような音を出すと、奴は悔し紛れにバン! と地面を叩く。
すると、周りを覆っていた趣味の悪いテーマパークが崩れ去るように姿を消し、あとにはただ荒野があるだけ。
「なるほどね、あの趣味の悪い城はただのハリボテだったって訳か」
ミスターが言うと、白虎も頷いている。
だがあきれていられたのもつかの間、おなじみの、ボコンボコンと言う音がして、地面が盛り上がり出す。
キューキュー
これまたおなじみの声を上げながら、雑魚がわんさと飛び出してきた。
もうそれはウジャウジャと。そのあとから手練れもやってくる。
あっという間に彼らの周りは、雑魚と手練れでギュウギュウと言わんばかりだ。
あの嫌な奴は、これだけ出てくれば自分は安泰とばかり、腕組みをして、ここからかなり外れたあたりに座ってふんぞり返っている。
「わーやっぱりいっぱい出てくるんだあ」
白虎が本当に嫌そうに言うが、やられっぱなしだった万象はやる気満々だ。
「ふん! 数が多い方が倒しがいがあるってもんだ!」
息巻いて言う万象に、森羅が声をかける。
「万象」
「おう、わかってるよ」
2人は瞬間移動で一乗寺の隣に立つ。
「もう鞍馬と入れ替わったのか?」
聞いてくる万象に、一乗寺が答える。
「いいえ、今、変わります」
万象に答えたあと、一乗寺はすっと目を閉じる。
すると目の前に、決意を込めた瞳でこちらを見る鞍馬が立っていた。
一乗寺は、それに答えるように強い瞳で鞍馬を見て、うん、とひとつ頷く。
「〔それでは、お身体、お借りします〕」
鞍馬が宣言するように言ったのと同時に、一乗寺は意識を失った。
「お待たせしました」
急に雰囲気が変わった一乗寺に、驚いたのは万象だった。
「おわっ」
そして、一乗寺の顔をしげしげと眺める。
「くらま?」
「はい、しばらくはお世話をかけます、万象くん」
その済ました言い方は、やはり鞍馬だ。
「はは、なんか一乗寺の姿で言うとおっかしい。まあ、任せとけ。飛火野とお前の行く道を切り開いてやるから」
「ありがとうございます。私も及ばずながらお手伝いします」
言うが早いが銃を取り出すと、こちらが攻撃してこないので調子に乗って押しかけてきていた雑魚を倒しにかかる。
ドンドンドンドン! ドンドンドンドン!
「へ?」
正確に、そしてかなりの早さで、一乗寺が銃を撃つ。
それは見事なほどに、百発百中だ。
いかに動きの遅い雑魚とは言え、だ。
「え? え? ええーーーー!」
万象の雄叫びが、あたりに響き渡った。
「「バンちゃん、うるさーい」」
聴力を上げつつあった玄武兄弟が顔をしかめている。
だが、しかめっ面は万象の声に対してだけではなかった。
出てきた雑魚たちは、なんとヘッドホンをつけているのだ。おまけにご丁寧にサングラスまで。
「あれって」
「もしかして、僕たちの嫌な音が届かないように? それと青龍たちの目くらましが効かないように?」
そう、玄武・兄が言ったように、雑魚は玄武兄弟と青龍・龍古ペアの攻撃に備えて、でかいヘッドホンとサングラスなんぞを装着することにしたらしい。敵も少しは対抗手段を考えてはいるらしい。
「うわ、卑怯者だ」
唇をとがらせる玄武・弟に近くを飛んでいるドローンから声がかかる。
「新兵器か、あいつらにしては考えたの」
2000年前にいるトラばあさんだ。
「新兵器って、ただのヘッドホンだよ」
と、玄武・兄が試しに嫌がる声を出してみたが、雑魚たちは平気である。
「わあ、効かないや」
「どうしよう」
悔しがる玄武兄弟の横を、トラばあさんのドローンと、もう一つドローンが飛んできてすり抜けていった。その2つは雑魚のヘッドホンのあたりをくるくる回りながら飛んでいる。
ただし雑魚も黙ってはいない。
キュウ!
雑魚とは言え、小さなドローンなら当たり所が良ければたたき落とせる。
「おいコラ、何をする!」
キュウ、キュウ
トラばあさんが操縦していた方が、哀れにもたたき落とされて、ばあさんの怒る声がした。だが、そこは一筋縄ではいかないばあさんのこと。すぐさまあとでやってきたドローンに回路を繋ぎ、そのついでにミスターに声をかける。
「おい、大河。雑魚のつけているヘッドホンを1つ奪って、あの平らな石の上に置いてくれんか、あ、ついでにサングラスもな」
「へいへーい」
ミスターはなんで?、とは一言も聞かずにひょいと動き回る雑魚からヘッドホンとサングラスを奪っていた。
「これでいいの?」
「おお、よくやったぞ大河。よし、こいつらを調べて弱点を暴き出す」
「早くしてね~」
大河は、雑魚どもを蹴散らしながらいつものようにゆるく言う。
気がついてやってきた手練れは、白虎が抑えている。
トラ婆さんのドローンは、平らな石の上に置かれたヘッドホンとサングラスに光線を当てて細部まで調べ尽くしている。
「協力するぞ」
そこへもう一つ、今度のは小トラの声が聞こえてきた。
2つのドローンは、縦横無尽に光線を当てまくる。
しばらくくるくると回っていた2つのドローンから、ほぼ同時に声がした。
「わかったぞ」
「うぬ」
「何がわかったんですかあ」
すると、ドローンを手練れから守るようにしていた白虎とミスターが、いつものようにゆるく聞いている。
「ヘッドホンとサングラスの」
「弱点じゃ」
ほぼ同時に答えた2つのドローンは、玄武兄弟を呼ぶ。
それを見送り、白虎とミスターのゆるいコンビが顔を見合わせつつ言った。
「へえ、さすがだねえ。あっちとこっちの天才ばあさんは」
「ほーんと、じゃあヘッドホンの処理は任せて、俺たちはこいつらを何とかしようかね」
「OK」
雑魚や手練れがぎゅう詰めに出てきたあと、飛火野は主に手練れを相手にしていた。
後方にいたので全体が見渡せる代わり、あの嫌な奴からは一番離れたところにいる。
「本当に、いつもいつも数打ちゃ当たる戦法ですね」
と、ため息をついたところで。
ドンドンドンドン!
と言う銃声を聞いた。
はっとしてそちらを見やると、一乗寺がミスターにカスタマイズしてもらったという銃を撃って雑魚を攻撃している。あれだけ連打しているのに、ひとつも外さない。
「?」
しかもよく目をこらしてみると、何発かは耳のあたりに狙いをつけているらしく、かけたサングラスとヘッドホンを同時に吹き飛ばしているのだ。
確信した、あれは鞍馬だ。
「これはこれは。私もこれからはもっと銃に力を入れねばなりませんね」
ニッと笑った飛火野は、勢いよく手練れに躍りかかっていった。
「玄武兄弟!」
ドローンに呼ばれた玄武兄弟は、ちょうどやってきて手招きする朱雀の後ろ側へ回り込む。
「朱雀、しばらく頼んだぞ」
「まかせてえ~」
手練れはミスターたちが相手しているので、朱雀は主に雑魚をやっつける。そこへ超小型ドローンが大集団でやってきた。
「私にも、まかせてえ~」
その声は、雀のものだ。なんとばあさんたちの技術で、攻撃型ドローンもこちらで扱えるようになっているらしい。
「ありがと、雀」
「どういたしまして、朱雀」
こちらも良いコンビの2人は、雑魚どもをバンバンやっつけていく。
すると、朱雀も巧みに銃を撃つ一乗寺に気がついた。
「へえ、あの耳の付け根あたりを狙えば、サングラスとヘッドホン、同時に弾き飛ばせるのかあ。やってみようっと」
ニッコリ美しく微笑むと、朱雀は雑魚の耳のあたりにペンを飛ばす。
ギイン!
キュー
「やったあ」
勢いのついたペンは、見事にサングラスとヘッドホンを弾き飛ばしていた。
「すごいじゃない、朱雀」
絶賛する雀のあとに、
「朱雀さん」
「私たちも、手伝います」
ブーメラン型武器を構えた青龍と龍古がやって来た。
キン!
青龍のはサングラスを。
キン!
龍古のはヘッドホンを。
ブーメラン型のそれは、あまり力が強くないので1度に2つは少し無理がある。なので彼女たちは協力し合って、武器を使う。
「やるじゃない、2人とも。ねえ、雑魚のサングラス、結構な数が外れてるわよお」
朱雀の声に、うなずき合った青龍と龍古は、「1度お休み下さい」と、目を見開く。
まばゆい光にサングラスが外れた雑魚が、キューとうずくまる。
それだけでも、四神たちにはほどよい休憩だ。
その間に、トラと小トラが玄武兄弟に技を伝授している。
「こっちがサングラスで、こっちがヘッドホン。これらにも嫌いな音があってな。それを浴びせると、壊れるはずじゃ。覚えたか?」
「うん、じゃあ僕はサングラス」
「だったら僕がヘッドホンだね」
うなずき合う玄武兄弟が立ち上がる。
そして、雑魚に向けて大きく口を開き。
「~~~」
音を出すと。
パリン、パリン
見事にサングラスが割れ、ヘッドホンが落ちていく。
「やったあ!」
手を上げて喜ぶ玄武兄弟に「やるじゃないか」と、親指を立てる白虎。
これで雑魚への攻撃も通常通りにできそうだ。
見回すと、雑魚はかなり片付いたが、やはり手練れには皆手こずっているようだ。
今、鞍馬が持っているのは、対雑魚用の小型の銃。
手練れを相手取るとなると、大きい方の、ミスターや万象が常に使っている銃にせねばならない。
「ただ、こっちは結構な重量と衝撃だぜ」
カスタマイズはしとくけどな、と渡されたそれは、一乗寺の身体のままで持つと、腕にずしりと来るものだった。
これは、……少し、本気を出させて頂きましょうか。
鞍馬は身体を借りるときに聞いた一乗寺の言葉を反芻する。
〔一乗寺さん、もしもの時は、本気を込めさせて頂いても、よろしいですか? ですが身体の力も上げるので、体力の消耗がかなり激しいかと〕
「(はい! そんなこと承知の上です。心ゆくまで私の身体を使ってください。お任せしますよ)」
そこまで言ってくれる一乗寺に感謝と謝罪を入れてから、鞍馬は本気を出そうとしたのだが……。
〔?〕
どういうわけか、身体が思うように動かないことに気がついた。
同じ千年人とは言え、やはり持っているものはひとそれぞれ。
一乗寺が彼の本気を受け止められずにいるのだ。
そこで鞍馬は、少しずつ本気モードを引き下げていく。
90……80……70……
まだ……
60……50…
50%でようやく先ほどまでと同じように身体が使えるようになった。
〔これではあまりお役に立てませんが、一乗寺さんのお体には変えられませんね〕
鞍馬は本気50%を保ちながら銃を持ち構える。
ドオン!
先ほどとは桁違いの重い音がして、腕に衝撃が走る。
だが、さすがにこの銃なら、一発で手練れを崩すことが出来るのだ。
〔50%でどこまで行けるか。最後の体力も残しておかねばなりませんので〕
そんなことを思いながらも、鞍馬は四神たちの援護をする。
それに気づいたのはまず森羅。
(なんだろう、一乗寺……、ああ、鞍馬が本気モード出そうとしたのか)
一乗寺が銃を取り替えたところでいったん動きが止まり、しばらくするとまた銃を撃ち始めた。
続いて、
「あれ? なんか一乗寺動きがおかしくないか? 」
珍しく、万象が少し遅れてはしたが、その変化に気がついた。
「へえ、成長したねえ、万象」
「だってさ、なんかカチーンて固まって、……あ、銃を持ち替えたんだ!」
「おお、それも気づいたか」
嬉しそうに頷いた森羅が、ふと今思いついたと言うように万象に声をかける。
「万象、なんか鞍馬が大変そうだよ」
「え? 一乗寺じゃなくて? あ、そうか、今の一乗寺は鞍馬なんだ」
「そうそう。あの重い銃だと、一乗寺の身体じゃあさすがにきつそう。振り返るのも大変なんじゃない? だからさ、俺たちで鞍馬の背中を護ってあげなくては」
その言葉の意味に気づいた万象は、やけに張り切り出す。
「うおっ鞍馬の背中を護るって? いいじゃねえか。鞍馬に恩を売れるって事だよな、まっかせなさい!」
嬉しそうに言うと、瞬間移動で一乗寺と背中合わせになり、背後に回り込んだ手練れや雑魚をどんどん倒し始める。
「あれあれ、すごい張り切りよう。でもね」
と、自分も瞬間移動でその隣に行った森羅が、万象の肩に手をやってグイと押す。
「だめだよ、万象。背中を護るんだから、きちんと背中をくっつけようね」
トン
軽い音とともに万象の背が吸い寄せられるように一乗寺の背中にくっついた途端。
「え? え、え、え………」
目を見開いた万象の雄叫びが、あたりに響き渡るのだった。
「うおわああーー! なんじゃこれはあーーー!!」