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第二話 ブルーデージーは何処?

 暖かい日差しの午後、庭のチェリープラムの木の下に居たのは、お人形の様に綺麗な金髪に青いドレスの少女だった。

 私が思わず「何か御用?」と声を掛けると、慌てた様にその女の子はチェリープラムの木に隠れてしまう。

 不思議な感じのする少女だったけど、悪い子ではないと私はすぐに思った。

 昼の白い光の中、私は彼女に微笑みかけた。

「貴方はだあれ?こんな所でどうしたの」

「……あの」

 陶磁器の様な白い肌に、深い青のドレス。綺麗な金髪に、青い目。まるで妖精の様な彼女に私はもう一度笑顔を浮かべて見せる。

「大丈夫よ、こんな御婆ちゃんがあなたに何を出来る訳でもないわ。道にでも迷ったの?」

 おろおろと木から姿を現したその子は、私にこう言ったのだ。

「ブルーデージーの花束を探しているんです」

「ブルーデージー?」

 私は目を丸くした。

「ブルーデージーなら、今時分でなくもっと寒くなったら咲くんじゃないかしらねぇ、それまで他のお花じゃ駄目なの?」

 困った様に「あの、あの」と繰り返しているその子を怯えさせない様に、穏やかにそう話し掛けて気が付く。

 そう、最初に見た時どことなく見掛けた事のある気がしていたのだ。この子は息子がやっている店に飾られていたあの人形に……

 その子が必死に訴える。

「それじゃ駄目で、私が探しているのは小さな作り物の……」

 彼女が身振りでぶりで示すのは、生花でなく小さな作り物のブルーデージーの花だった。

 そういえば、失くしてしまったと聞いていたがあの人形もそんな花束を最初持っていただろうか。

「アルを、アルを助けたいの!」

 必死な少女に気圧されていると、その時急に私に眩暈が襲う。

「あら?……」

 此処最近体調が良くないと思っていたが、また出てきてしまったのだろうか。

「お婆さん?」

「ええごめんなさい、大丈夫よ」

 そう言っていつも通り立ち上がろうとした私の足腰は、ふらふらと立たなくなった。

 床に座り込んでしまう私に驚いた少女がおろおろと付添おうとする。

 いけないいけない、こんな時に、こんなお嬢さんの前で……

 そう思いながらも私の身体は言う事をきかなくなっていった。

 怯えた顔をするその子にごめんなさいねえ、と言ったつもりだったが、その時の私はもう声も出ていなかっただろう。

 遠のく意識の中、人形の様な少女は泣きそうな顔で何処かに電話を掛けているのが見えた―――

 そして気が付いたら私は病院のベッドの上で目を覚ましていた。

 女の子がアルの店に連絡をしてくれて見つかったらしいが、発見が遅かったら危なかったらしい。

 その子は、アルが私の家に駆け付けた時はいなくなっていたそうだ。

 アルは首を傾げてこう言っていた。

「声は知らない子だったけど、どうして僕の家に電話したんだろう。普通救急車とかそっちの方が先だと思うんだけど」

 それに、私はこう言った。

「貴方のお店の電話番号しか知らなかったんじゃないかしら」

 疑問符を浮かべる息子に私は冗談めかしてこう言った。

「私の家に来た女の子、貴方のお店のメイそっくりだったのよ」

 息子は不思議な顔をしてその話を聞いていた。



「―――と、いうことがあって」

 困った様な顔をしながら俺にそう言ってきたのは、昔なじみのアルだ。

「なんだろ母さん、倒れる時に幻覚でもみたのかな」

「……ふーん」

 何となく頭を抑える様に頬杖を付きながら、俺は明後日の方へ視線を逸らせる。

 今日はアルの店の品物を俺が買取に来ていたのだ。母親の治療費に充てたいらしく、俺なら適正価格できちんと見積もり買い取ってくれるだろうとアルも喜んでいた。

「いや、その子……」

「カティア?」

「まあ、金髪の青い服なんて、偶然なのかもしれないが……」

「いやちょっと待ってよ、カティアまでそんな事言うの?」

「………………」


 数日前の話しだ。


 バラの花がある庭に、少女が一人立っていた。

 誰だと声を掛け振り返られて驚いた。

 金髪に青い目、青いドレスの、その姿はまるで……

「ブルーデージーの花束を探しているの」

 人形の様な少女が俺にそう話し掛ける。

「本物のお花じゃなくて、小さな作り物の花で……この時期に何処かに失くしてて見つからないの」

 そう言われて頭が痛くなった。

 確かあの人形も元々はブルーの花束を持たされていた筈だ。失くしてしまったと聞いていたが。

「悪いがこの辺じゃみないな」

「そう……」

 残念そうに俯く少女が、やがてあの、と声を上げた。

「なら、アルが、今お母さんが倒れてしまってとても困っているの」

「……は?」

 意表を突かれて間抜けな声が出る。

「お金も借りているけど、でもこれ以上は……あの、アルのお店にはカティアさんにも扱えるものが沢山あると思うの。年代物のランプとか、アクセサリーとか……あとあと」

「ちょっと待て、何で俺の名前知ってるんだ」

 あ、と声を上げ少女は黙ってしまった。そして店の中に置かれていたローズの人形を窓越しに見つけると、急に嬉しそうに微笑んだ後一瞬暗い顔をしたかと思えば、再度笑顔を浮かべ俺の顔を見てこう言った。

「それから、ローズは壊れるまで、そして壊れてもカティアさんの事大好きよ」

 俺が呆気に取られ何も言えずにいると、その少女はそれじゃあ、と少女は制止する自分に構わず踵を返すと立ち去ってしまう。

 その二、三日後に自分の店に金持ちそうな客がやって来た。

 その客がローズに目を付け、ぜひ買い取りたいと言ってきたのだった。

 一目見て思った。

 金にもの言わせて珍品を集めたいだけの、手に入れてもすぐにローズなどボロボロにされてしまいそうな相手だと。

「それは非売品です」

 俺はそう言ったが、客が強引にローズを手に取り適当な金を置いて立ち去ろうとしたのだ。

 ローズを取り返そうと客と揉み合いになっているうち、ローズは客の腕をすり抜けて地面に叩き付けられてしまった。

 興味を失った客は金を回収すると鼻息荒く立ち去って行ったのだった。



「―――いや、俺の気のせいだ」

 俺は何とも言えずアルから適当に視線をそらしてはぐらかす。

 だが、どうにも誤魔化しきれなかったようで、アルはあんぐりと口を開けて固まっていた。


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