5-21 敵情視察は、ゆっくりと
‥‥‥ミルガンド帝国のダーインスレイヴ学園の寮にも、きちんとした風呂場は用意されている。
元々は軍事に力を入れていた国ゆえに、武器系統の方に力を入れて風呂の文化は薄そうな気もしたが、それは間違い。
戦場において兵式の士気や戦闘に関わる病気や怪我などは大敵であり、だからこそ戦場に出ない時があればきちんと清潔に過ごせるようにという事が理解されており、それを重視した何代も前の皇帝が下した命令によって、実はドルマリア王国やその他の国々以上に風呂場に関する文化は発展していたのである。
「‥‥‥まぁ、王国の寮の改装時に、確かいくつかここから輸入しましたネ。本場だとどうなるのか考えてましたが‥‥‥これはこれで良いのデス」
「魔剣がお風呂に浸かるってどうなのかしら‥‥‥でも、気持ちが良いのは確かなのよねぇ」
模擬戦場でダルブーネが氷像のまま放置され続けた後、本日の授業がすべて終了して生徒たちが寮に戻る中、ゼナとルルシアは二人して女子寮の方にある女湯の方に入浴していた。
他の女子生徒たちもゆっくりと入浴しており、ほうっと戦いで張り詰めた体の力をゆったりと抜き合う。
‥‥‥なお、二人の間に入るような生徒はおらず、やや遠巻きではあった。
別に友人がいないとかそういうことではないのだが、どことなく入りにくいというのがあるのだろう。
ちなみに、フィーは男子寮の男湯の方に入浴中であった。
「んー、それにしても全力でやってましたけれども、まだまだフィーとの戦闘で見直す点が多かったのは良い収穫でしたわ」
ぐぐっと腕を伸ばしつつ、昼間に行った模擬戦を思い返してそう口にするルルシア。
自己研鑽は欠かさないようにしているのだが、まだまだ向上するべき部分があるようで、足りない部分を見れた模擬戦は彼女にとって収穫はある。
帝国内では見ないような戦闘というか、臨機応変に変化する戦い方に関して対策するべきものが多く、それらをどうするべきか考えるのは楽しくもあった。
「そうですカ。ご主人様の方も、対戦して楽しめたと言っていましたからネ。王国内の学園でも模擬戦を行ってましたが、こういう戦いかたもいい刺激になるようデス。ですが、ご主人様がやる気になれば、あの氷像になった方と同じことになっていた可能性がありますネ」
「それもそうですわね。でも、そうはせずに真正面からぶつかり合ってくれた…‥‥その心には感謝しつつ、わたくしの隙なども鍛え直す必要がありますわ。もしもこれが模擬戦ではなく、本気の殺し合いでしたらあれだけで終わらされたはずですもの」
そんなあっさりと終わらせるようなつまらない戦いにしたくなかったという想いもあるのだろう。
だからこそあのダルブーネとは交えたくないという事で一撃で決したようだが、ルルシアとはそうしなかった。
お互いに魔剣士としての実力を確かめ合うために、正々堂々とやってくれたことに感謝をするルルシア。
フィーのドラゴンに変わる力が使われなかった点に関してはやってみて欲しかったような気持ちが無いわけでもないが、自分の実力を考えるとまだ早いかもしれない。
「…‥‥ふふふふ、今回は引き分けでしたけれども、次は勝たせてもらいますわよ」
「そううまいこといかないようにしますヨ。ご主人様が勝利できるように、しっかり尽くしますからネ。それに他の変形もまだ使ってなかったですし、次々変えて対応しづらくしてあげマス」
「まだあるのかしら?」
「ありますヨ。それに増える予定もしっかりありますしネ」
足や手が剣になったり、拳や翼にもなったりする姿は見たが、他にも種類はあるようだ。
それにそれぞれ攻撃手段が違うからこそ、素早く切り替えて何が出るのか予想しづらいのもあり、勝利を得るのは容易くないだろう。
「それでも、やってやりますわよ。貴女がメイドとしての嗜みを持つのなら、これは私の皇女としての嗜み。皇女たるもの、諦める選択肢はなくしてはいけないと、12代ほど前に女帝の座に就いた人が言っていたものがありますものね」
「ほぅ、そういう方がいたのですカ」
「そうなのよねぇ。その女帝がいた時期はそれはそれはドロドロした権力争いがあったそうですけれども、その戦いを拳ひとつで勝ち抜き、制したと言われる方ですもの。皇女として、憧れるのは当然のことですわ」
「‥‥‥拳ひとつ?」
「ええ、魔剣士ならまだ魔剣を使うので納得できそうですけれども、その方魔剣を使わずに物理的に制したと言われてますもの。青薔薇姫の話も相当ですけれども、そういう話は案外多いですわ」
これはある意味血筋だったのか、それとももともとそういう者が生まれやすいだけなのか。
今度はゼナが少し考えこみ、ツッコミを放棄するのであった。
「ふぅ、それにしても熱くなってきましたわね‥‥‥そろそろあがらないとのぼせますわね」
「そうですカ。私もそろそろ、あがるとしましょウ。ご主人様もそろそろあがられるでしょうし、色々と準備する時間が必要ですからネ」
「…‥‥そう言えば、一つ忘れてましたわね。ゼナ、貴女の部屋は女子寮の方にありますわよ」
「エ?ここに来た時は、ご主人様の部屋にいたのですガ?」
「就寝時はきちんと男女分ける規則になっていますわ。どうも数代ほど前にやらかした人がいたそうで、絶対に守る必要がありますもの。留学生はまだここを知らないので初日は何も言われないですけれども、次からは例え執事やメイドだとしても、男女違うなら分かれるようになっているのですわ」
その言葉を聞き、ゼナが固まった。
メイドたるもの事前情報はある程度集めていたのだが…‥‥少々抜けてしまっていたようである。
「…‥‥よし、今から学園長に直談判してきマス。私はメイド魔剣ですし、大丈夫だと伝えましょウ」
「先に言っておきますが、ここの学園長は少々ボケているようで、結構頑固ですわよ」
「では学園長の魔剣に少し聞いて、抜け道を‥‥‥」
「魔剣から話を聞けることは知ってますけれども、学園長の魔剣は入れ歯の方よ?剣の形をしていないタイプの魔剣で、いざとなれば魔獣に食らいつくような方ですもの。しかも全部歯が抜けているのをいいことに、歯磨きも一切していないと噂ですわよ」
「…‥‥諦めマス」
メイド魔剣たるもの、きちんと掃除などもして快適な状態にするのは当然のことではあったのだが、流石にそんな魔剣に触れたくはない。
一応触れずともある程度の距離があれば会話が可能だったりもするのだが…‥‥そんな扱いをされている魔剣の声を聞くのは、流石にゼナでも嫌だったようである。
すごすごとおとなしく、郷に入っては郷に従えということで、本日より就寝時には別室で過ごすことが決定したのであった‥‥‥‥
「…‥‥そもそも寝る必要も、自室もいらないのですけれどネ。でも、部屋が貰えるのであれば‥‥‥ちょっと改造して大丈夫でしょうカ?」
「そこは大丈夫なはずよ。元々貴族家で暮らしていた生徒もいるからこそ、自室の改造自体は認められてますわ。退寮時にはきちんと元通りにするのが条件ですけれども、手続きをすれば自由ですわね」
「なるほど‥‥‥となると、これはこれで悪くないのかもしれませんネ」
自由に使える場所が増えたのは、良い事だったかもしれない。
そう考えると、これはこれで悪くはない。
いや、むしろできなかったこともやりやすく…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥なお、改造は自己負担なので、しばらくお金稼ぎのためだけに、痛い目を見る人が増えるのであった。




