4-14 何故、呼び起こしてしまうのか
―――シュルシュルと、触手たちが群がり巻き付いていく。
何で身を固めようが、どの様にして防ごうが、このまま締め上げて終わるはずだった。
ズバァァン!!
【!?】
そう、追い詰めさえしなければソレは出ることはなかったが、その時期をスージェは早めてしまったのだ。
「‥‥‥だ、誰だあれはぁ!?」
遠方の地で、既に戦場から逃げて悠々と観察していたメデゥイアルは、スージェから密かに送られ続けている現地の様子を見て、思わず叫んだ。
映し出されている青髪の人物はフィーか?いや、違う。
髪の長さが腰のあたりまで一気に伸びており、角や翼は消え失せていた。
その代わりに煌めく羽衣のような者を身に纏い、腕から生えていた刃は失われ、その代わりに神々しい剣を握っている。
目の色は青く、顔の造形も少年からむしろ少女の類へ…‥‥
「待てよ?この姿はどこかで…‥‥いや、まさかそんな、嘘だろ!?」
いつものちょっと伸ばすような口調が失せ、自身の予想が当たっている可能性に声を荒げるメデゥイアル。
なぜならば今、移っている姿だけであれば見たことがあるのだ。
昔失われた、あの存在に。
帝国から失せた、青き存在…‥‥‥
「青薔薇姫だと!?」
そう、今目の前の映像に移っているのは青薔薇姫の姿そのもの。
羽衣やあの神々しい剣を持っている姿はなかったが、それでも悪党の類に入るようなメデゥイアルは、その姿絵を各所で見たことがあるのだ。
そのような人物がなぜ、フィーのいた場所に突然現れたのか。
違う、現れたというよりも彼がそのまま青薔薇姫に変わったような‥‥‥‥
「…‥‥くっくっくっくっく、はーはっはは!!面白い、面白いねぇフィー!!君から何が飛び出るのかわからないけど、その結果がこうも興味を惹かれるようなことを生み出すとは!!スージェ、戦闘の手を緩めるな!!暴れるまま暴れ尽くせ!!滅びても構わない、この面白いデータを取るために!!」
映し出されている青薔薇姫の姿を見て、メデゥイアルはそう叫ぶ。
どんな状況になっていようが、どの様な結果が生まれようが、自分にとって面白いのであればそれはそれで良いのだ。
できればドラゴンになった姿とやらも見たかったのだが、この結果もこれはこれで非常に貴重なデータになるだろう。
そして断言できる。スージェを生み出した身だからこそ、どれほどの力の差があるのかを。
映像が映し出されるのもそう長くはないだろうが、それでもこれはこれで良い情報になる。
そう思い、メデゥイアルは高笑いを続けつつ戦いを見るのであった…‥‥
「…‥‥魔剣ゼナ、モードチェンジ。神力充填、『神剣ゼナ』へ切り替わりまシタ」
「‥‥‥」
神々しく輝く剣から声が流れつつ、それを手に持った彼女は剣を見つめ、目の前の敵の方へ目を向ける。
姿は見えずとも、それでも確実に敵意のある気配があふれ出しており、非常に目立つ。
‥‥‥でも、大きさはあちらの方が圧倒的に上だが、問題はないだろう。
「‥‥‥ふふふ、これはこれで面白いわね。折角だし、楽しみましょう」
くすりと微笑みながら、青い目を輝かせて彼女はそうつぶやく。
一瞬、その乗せられた気配にスージェは怯むようなそぶりを見せたが、直ぐに攻撃を再開するために触手を伸ばし始める。
このまま直撃すればあっという間に黙らせることが出来た‥‥‥はずだった。
ズバァァン!!
【!?】
圧倒的な力の差を理解していれば、敵に回すという馬鹿なことをしなかったはずなのに。
その判断に気が付くも、もう遅い。既に賽は投げられたのだ。
「大体、こんな感じで扱うのかしらね…‥‥ええ、慣れたわ。久しぶりに力を使ったけれども、ちょうどいい試し打ちになるわね」
にやりと口角を上げた彼女に対して、スージェは全身が凍り付くような恐怖を理解させられた。
そのクラゲの身体はすぐさまここから逃げる事を要求するのだが、クラゲなのに腰が抜けたかのように動くことができない。
ならば、体が動かぬのならば毒を吹き出せばいい。生きているモノならば、毒で消し飛ばすまでだ。
そう思い全部の力を結集して、スージェは全身の毒液を集中させ、彼女めがけて一気に噴射させる。
この一撃ですべてを尽くし、もう毒液が作れなくても良いから目の前のものを消さねば、二度はないと理解したうえで。
バシィィィ!!
でも、その一撃は届かない。毒は来る前に、浄化されて水となり、そのまま蒸発したのだから。
浄化したのは、青い少女の身体から放たれる光であり、それは暖かい光だった。
浮いていた体をそっと大地に足を付けさせ、毒によってボロボロになっていた大地は光が触れた次の瞬間、侵された土地は一気に肥沃になり、ふわさっと風によってなびく草原となり、木々が生えていき森となる。
「‥‥‥ふぅ、ちょっと久しぶりに開放したけれども、大体加減は分かったわ。それじゃ、貴方に対してはこの加減を教えてくれた礼として楽にしてあげるわ」
手に構えた、神々しい剣。
魔剣としてあった存在が、神の力を注がれて一時的に昇華され、神の振るう神剣としてなる。
その刃が煌めき始め、大きな光の柱を作り上げ、天を貫くようにあふれさせる。
【------!!】
あの一撃は不味い。
魔獣としての本能が解き放たれているのに、生きとし生けるものには抱かないはずの感情を持ち、スージェは逃げようと再度試みたが腰が無いのに腰が抜け、、それはもう叶うことはない。
いつしか空には星々が輝いており、月の光が照らす中、その膨大な光の柱は闇夜を切り裂いていく。
そして光は呑み込んだ。消えていた姿を一瞬影として光の中に浮かび上がらせつつ、存在そのものを世界から消し飛ばす。
あとに残ったのは、輝く星々と月の明かり、その下に広がっている還ってきた森林。
「‥‥‥ふぅ、疲れたわね。久しぶりに出て来てみればこんなことになっているなんて…‥‥とりあえず、教えてくれないかしら、息子の剣のゼナちゃん」
「‥‥‥やはり、そうですカ。ご主人様の父がドラゴンならば、その母がまともな人間じゃない可能性は非常に大きいと思っていたのですが…‥‥」
問いかけに対して剣は手から離れて宙を舞い、降りたって彼女はいつものメイドの姿に切り替わる。
ちょっと違うとすれば、先ほどの形態の影響が抜けきっていないせいかメイド服が少々豪華になっているぐらいだろうか。
「…‥‥何故、人の身に、ご主人様の中にいたのですカ?ミルガンド帝国の青薔薇姫…‥‥いえ、それはこの世界での人の身としての姿での名前ですネ?真名不明ですが、私が魔剣となる前にデータは事前に聞いていマス。本来の管理神様」
「あらあら、そこまで分かっているなんて流石ね。私が生きている時に出会った機械神の使徒さん」
互いに目を合わせ、冷たい風が二人の間を吹き抜ける。
争いが一つ去った後に、また一つ別の衝突が起ころうとしているのであった…‥‥
修羅場?
と言って良いのかちょっとわからないが、仲よくなる雰囲気ではなさそう。
そもそもフィー自身の意識は今、どうなっているのやら‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥真の争いとは、同レベルかあるいはそれ以上の者同士で起こるのかもしれない。




