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1-5 月夜の中に、輝く柱

‥‥‥王都へ旅立つ前夜。


 夜も深まり、月明かりに照らされて誰しもが眠る中、彼女は動いていた。


 元々眠る必要性もなく、この時間は朝まで自身の主のために朝食の用意などを時間をかけて下ごしらえをする予定ではあったのだが、その予定を彼女は変更したのである。


 何故か?それは、まだ魔剣である自身を獲得して間もない主のため。


 王都行きに備えて、選定の儀式ついでに魔剣士たちもこの田舎に滞在しているようではあるが、夜中であることから異常に気が付くまでには時間がかかることが予想できる。


 対応できるだろうが、それでも慌ただしくなれば、今熟睡している主の睡眠を妨害される可能性があるのだ。


「‥‥‥まぁ、あとは私自身の性能テストのために、出向くのも良いデスネ」


 そうつぶやき、ゼナは疾走しながら近くの森の中に入り込み、木々の上で止まり、捉えた気配の招待を目視した。



【グウルルルルルルルル!!】

【ヴボボボボボォ!!】


 森の中に紛れて、闇夜から出てきたのは魔獣の群れ。


 この世の生きとし生ける者たちを狙い、その命を奪いつくす存在であり、どうやら今宵はここに出現したようだ。


 


‥‥‥魔獣の姿は、多種多様。大空を駆け抜ける鳥の翼を持つモノもいれば、水中を泳ぐ魚のようなモノもいると聞く。


 そしてこの目の前にいる魔獣たちは、その中でも一般的と言うべきか、大地を駆け抜ける姿をしており、容姿的には野犬、いや、獰猛さからは狼に近いと言えるだろう。


「やれやれ、私はどちらかと言えば犬派なのでやりにくいのですが‥‥‥やりにくさがあっても、ご主人様のためならば排除するしか無いデスネ」


 そうつぶやき、ゼナは木々から飛び降り、魔獣の群れの前に降り立つ。


【グルルルル!!】

【ウボォォォォォォン!!】


 彼女の姿を見て、獲物だと思いそう叫ぶ魔獣たち。


 どうやら知能はそこまででもないようで、食欲が旺盛なだけの化け物のようだ。



 しかし、上には上がいるとはよく言ったもので、魔獣たちは気が付かないだろう。


 目の前にいるのは、魔獣へ死をもたらすことが出来る魔剣であるという事を。


 いや、もっと何か根本的なところで間違えている…‥‥化け物以上の力を持ったメイドだという事を。


「『メイドたるもの、ゴミ掃除は塵一つ残さず』‥‥‥ゴミではなく魔獣ですが、塵一つどころかこの世に存在していたということまで、掃除して消しましょうかネ」


 そうつぶやき、彼女は動き出す‥‥‥












「…‥‥本当か!!あっちの方で鳴き声が聞こえたって!!」

「ああ、間違いない!!おそらく犬か狼のような魔獣が向かってきているはずだ!!」

「くそう!!今のうちにさっさと抑え込んで、準備が出来るまで時間を稼ぐぞ!!」


 月明かりのもと、必死になって駆け抜けているのは魔剣を手にしている魔剣士たち。


 今日は明日の王都行きに備えて、魔剣を獲得した子供たちを安全に送り届けられるように自主練に励んでいたのだが、魔剣士の中で耳の良いものがふと捉えたのだ。


 長年の戦闘の経験と知識から導き出されたのは、魔獣の襲撃。


 どこでどう発生するのか把握し切れてはいないが、それでもこの田舎に魔獣たちが迫りくることに気が付き、直ぐに動ける者たちで被害を抑えるために魔剣を手にして魔獣たちがいるであろう場所へめがけて駆け抜ける。


「場所を考えると、ちょうどあの森のあたりで…‥‥いや、待て!!何か様子がおかしい!!」

「何だ!?」


 魔獣の咆哮が聞こえて来たので、そろそろ戦闘態勢に移ろうとしている中、その音が急に変わった。




【ウボロォォォォォォォォォォォン!?】

【グルべェェェェェ!?】


「な、なんだこの叫び声?魔獣どもが何かに怯えているというか、断末魔を上げている声も聞こえてくるぞ?」

「誰かが先に、魔獣どもと戦闘しているのか?でも、一体誰が‥‥‥?」


 何かが起きていることがうかがえるが、それが何なのか彼らは予想できない。


 様子を見ていると、急に森の木々の一部がふっとんだ。




ドッゴォォォォォォン!!

【オッベェェェェェン!?】

【グゴォォォォォォウ!?】


 木々と共にふっ飛ばされるのは、狼のような獣の魔獣たち。


 けれども禍々しい容姿をしているはずの姿はすでにボロボロであり、地に落ちると同時に息絶えていく。



 何者かが戦闘を行い、彼らをふっ飛ばしたようだが誰がやったのか?


 凄まじい勢いでふっ飛ばされていく魔獣たちを見て驚愕する中…‥‥月明かりがその正体を現した。



「あれは‥‥‥女か?綺麗な美女が‥‥‥自分の目が変でなければ、素手で魔獣たちと戦っているように見えるのだが」

「いや、こちらの目も変かもしれない。何か、メイドのような格好をした人が、魔獣たちを蹴り上げ、千切り、放り投げ‥‥‥魔剣も持っていないのに、魔獣どもの命を奪っていくだと?」

「ん?あの姿‥‥‥確か、ここで魔剣を獲得した子供たちの中で、一人の少年が得た…‥魔剣じゃないか?」


 人のような姿でありながらも、その身は魔剣。


 そして魔剣は魔獣を唯一葬ることが出来る武器であり、その身が魔剣であるならば、魔獣たちが葬り去られるのは理にかなっている。


 だがしかし、誰が想像できただろうか?美しいメイドが、おぞましい魔獣の群れを相手にしながらも、身を汚すことなく全てを相手にしていることを。


 誰が予想できただろうか?魔獣たちの攻撃も華麗にさけ、一撃を振るうだけで魔獣たちが吹き飛ばされて息絶えていく様子を。




 その様子は美しい舞のようでもあり、魔獣たちには死の舞踏にしか見えないだろう。

 

 そして、その舞踏の終わりはあっけなく迎える。



「ふむ、個体ごとの相手はこのぐらいにして…‥‥ここで一気に、消し飛ばしましょウ」


 気にすることも無くそうつぶやく声が聞こえたかと思うと、彼女は足を止め、右手を空へ掲げる。


 すると手が輝き始め、天へ届くような光の柱が生れる。



「お、おい、何だあの光の柱は!?」

「魔剣の中には確か、自身のエネルギーを集中してふっ飛ばす類もあるのだが‥‥‥もしやあれ、当てはまるやつか?」

「それにしても、あの光の柱の輝きは美しい‥‥‥神々しいというか、魔剣の字が当てはまるのか…?」

「いや、ちょっと待て、このサイズで魔獣たちの範囲を考えると…‥‥巻き添えに合わないか?」

「「「あ」」」


 攻撃範囲を予想したところ、ほぼ確実に巻き込まれるのが目に見えている。


 しかも、あの魔剣のメイドは自分達に気が付いているのかは怪しく、慌てて出ても止めようがなさそうだ。


【ウボボボボボボボォォン!!】

【ヒッゲェェェン!!】


 予想される攻撃に対して、魔獣たちは本能ゆえか全力で逃げようとする。


 けれども、もう遅い。彼女の準備はすでに、整ってしまったのだから。



「『------』」


 何を言ったのか、それは聞き取れなかった。


 ただわかるのは、その光の柱が彼女を中心として円を描くような動きで振り下ろされたこと。


 そしてその光に、周囲が包み込まれ…‥‥魔獣たちの断末魔が鳴り響く。



【ウボボォォォォォォォォォォォォ!!】

【オラララガエェェェン!!】

【モンゲェオォォォォォォン!!】


「ギャアアアアアアアア!!やっぱり巻き添えになったぁぁぁぁぁぁ!!」

「あ、コレ逝った!!絶対に全員逝った!!」

「こんなところで、生涯を終えて‥‥‥‥あ、あれ?」


 断末魔の中、巻き添えに合って光に包まれた魔剣士たちは己の死も覚悟したのだが、ふと気が付いた。


 光に包まれているというのに、自分達にダメージも何もなく、ただ単純に光が通過しただけという事を。


 そしてまた、自分達の身体のあちこちで変化が起き、それが悪い事ではなく‥‥‥魔獣討伐の中で蓄積された痛みや古傷が消え失せたことを。





「‥‥‥なんだ、これ?万年腰痛がすっかりなくなった、だと?」

「慢性疲労が失せて、すごいスッキリしているというか‥‥‥」

「魔獣どもが消し飛んだのに、人には癒しを、与えるのか…‥?」


 自身のみに起きた変化に驚愕する中、光が消えうせ夜の闇が戻り始める。


 夜空に輝く星々が、闇に対して光を注ぎ、静かな夜が戻り‥‥‥そのもとに、メイドの姿を彼らは見た。




「…‥‥」


 彼らに気が付いたのだろうか。そのメイドの目は、こちらを見ていることを。


 そしてその目は、口にせずとも彼らの中へ直接言葉を語り、言い終えたところでメイドはすがたを消した。


 あとに残されたのは、自身の不調の種も消え失せた健康体の魔剣士たちだけ。


 けれども、何故だろうか。これまで以上に張り切っていけるはずの身体となったのに、震えが止まらないのは。



 恐怖か、畏れか、得体のしれないものを見たせいか、圧倒的な強者からの威圧のせいか。



「‥‥‥何だろう、今見たことは黙秘しろと、言う様な目だったぞ」

「今なら分かる。彼女、我々を消し飛ばさずに治していたのは‥‥‥いつでも、やろうと思えばできたことを実感させるためだったのか」

「あの少年、一体何を得てしまったんだ‥‥‥!?あれは魔剣なのかもしれないけど、魔剣でありながらも魔剣ではない、何かこう、もっと違う存在を呼んでしまったのではないのか…‥?」

「とりあえず、今やるべきなのは‥‥‥どう報告することかと考える事か?」


 現実から目をそらしたくて、その提案に他の魔剣士たちも食いついた。


 今晩あったのは、すべてうたかたの夢だったと思いたい。


 綺麗な月夜の幻であり、何も彼等は見ていなかったと言い張りたい。




‥‥‥それでも、どの様に考えようが、彼らの口から今晩あったことは出ることは無いだろう。


 言ったが最後、あの魔獣たちのようにこの世から去るのは間違いないのだから。


 墓場までこの秘密を持っていこうと、今宵彼らは心にそう刻むのであった‥‥‥



「『メイドたるもの、ご主人様に悟られないように、秘匿すべきことは完璧に済ませるもの』…‥‥まだまだ、隠蔽がしきれないとは、私も未熟ですネ」

 


 

その夜にあった出来事は、うたかたの夢。

そう、誰も目撃していないと言い張るから、無かったことに出来るのだ

けれども、確実にとは言えないので、多少は訴える必要もあるのデス…‥‥

次回に続く!!



‥‥‥まだまだ、未熟。これでまだ、成長途上。

彼女はまだ、産まれたばかりと言えるのだから‥‥‥まぁ、製造過程の中でどうしても実る一部のたわわさは何処かの誰かを圧倒的にうわまわ、

(‥‥‥ここで途切れている)

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