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2-38 案外、染まっている者ほどよく理解していたりするのだ

「‥‥‥青薔薇姫に、名も知れないドラゴン…‥‥組み合わせとしては、ありえなくもないな」

「むしろ、そうでないと説明が付かないような、相手になったドラゴンにどことなく同情すべきかどうかと悩んでしまうのは気のせいだろうか」


‥‥‥深夜、誰もが寝静まっているはずのころに、集う者たちがいた。


 社会の裏側に潜み、様々な仕事を請け負う者たち。


 情報収集の密偵や、暗殺を請け負う暗殺者、その他薬の売人なども混ざっている、裏社会に潜む者たち。


 そんな彼らは今、最近入ってきた情報を口々につぶやき合うが、その内容が色々ぶっ飛んでいたとしても、そうなるのかと思えば納得していた。


 なぜならば、彼らは知っているからだ。

 

 まだいなくなる前の青薔薇姫とは色々な事情で否応なく認識させられる羽目になったり、何かと関わってしまう目にあってしまった体験談を持つ者たちばかりなのだから。


「それにしても、何やらキナ臭い話もあったな‥‥‥おい、お前一応帝国の方の間者だろ?何か知ってないのか?」

「いや、こっちが知っていても普通は話すわけないだろ。でもまぁ、そもそも知らないから何も言えないのだが、そっちこそ情報はないのか?」

「無いなぁ。青薔薇姫がいなくなった時に、確実な安眠を手に入れるために居場所などを探って来いと言われたことはあったが、手掛かりなしだったからな」

「こっちもだ。こちらの場合は、帝国から追い出されたのだし、拾い上げればいい具合にできるとか企んだやつだったが、それでもなにも手に入らないことにがっくりしていたしなぁ」


 各々が仕える主は異なるが、捜査の手を担当したことがある者たちもいる。


 だが、彼等とてその手のことに慣れているはずなのに、長い間情報をまったく手に入れられなかったからこそ、今になって出てきたことに関しても思うところはある。


「それにしても、ずっと見つからなかったはずの青薔薇姫に関する情報が、急に出てくるのも何かありそうなんだよな‥‥‥死体の消失や魔獣襲撃に関する不審さからも言って、絶対に何かやらかす奴がいるだろ」

「何だろう、死体が無い時点でまだ確定して亡くなったと言いきれなくなってしまったのが怖ろしいんだが」

「そうだよなぁ‥‥‥こう、いきなり背後から飛び出してきても、不思議ではない」

「実際、過去にそう言う事をしたという話もあるぞ?暗殺を目論んだ奴らがいたようで、死体を確認しようとしたら背後からバックドロップを受けたとか」

「ああ、似たような感じだと盛大に突き落としたはずが、いつの間にか足に縄がつけられて道連れにされたばかりか、本人はけろっとして無傷だったというのもあるな」


 死体の消失や怪しい襲撃などよりも、正直言って亡くなったと断定できなくなってしまったことが、今の彼等にとっては恐ろしい事だ。


 いや、仮に命が無くなったと確実に言えても、幽霊になって出て来るとか何か別のものに何事もなく化けて出てくるなどがあっても不思議ではないと思えるほど、青薔薇姫を良く知る者たちは恐怖に震えてしまう。


 実際に、その死亡を断定することが不可能になってしまった情報を聞いた主たちの中には、その突然出てくる可能性を考えて不眠症になったり、恐怖の日々を過ごすことが決定したものもいたりするのだ。



「何にしても、恐怖の話題が追加されたのがひでぇ話だ。これからの暑くなる時期、涼むために恐怖の話を楽しむ奴らもいるのに、恐怖の存在以上のより混沌とした冷媒をどうして追加されてしまったのやら」

「あぁ、おかげで下手にやらかす輩が減ってくれたのは嬉しいけれどな…‥‥ちょっとでも誤ったらどこからともなくぼわっと出てくる可能性を想像してしまって、前よりも冷静にかつ丁寧な仕事ができるようになったことは喜ばしい事か」


 裏社会にも色々とあるとは言え、きちんと仕事ができるようになったのは喜ばしい事だ。


 その原因が恐怖による支配とは、何か微妙に意味が違うような恐怖が占めている気がしなくもないが、それでも普段以上にやりやすくなったのは複雑な気持ちである。



‥‥‥だがしかし、そんな状況になったとしても、心が休まることはない。


 そもそもそんな社会に身を堕としている時点で休むこともそうそうないのだが、よりひどい方向に向かう可能性も想定できるからだ。


「最悪なのは、青薔薇姫を知らない、見聞きした程度だけで片付けているやつが多くなっていることか‥‥‥何かをやらかせば、ぼんっと飛び出して出てきそうなのに、なぜそれを考えられないのか」

「無理もないだろう。彼女がいなくなってそれなりに時間も経ったし、恐怖を忘れた新世代が出てきたり、あるいは愚者だからこそ学んだものを失うやつもいるのだ」

「それでも、やらかされたらこっち側に何らかの形で被害が出ることが想定できるのも嫌だな‥‥‥」


 裏切り裏切られ、手を切り切られ、トカゲのしっぽとして扱い扱われる。


 そんなことが常日頃起きる日常の中に身を潜めているが、全てが最悪の状況に向かうことになるのはどうしても避けたいだろう。


「しかし、馬鹿を止めるすべはないが‥‥‥幸いなことに、馬鹿ではない馬鹿が抑え役となって出てくれているから、しばらくは大丈夫かもしれないな」


 悪人の身に堕ちているとはいえ、多少はしっかりと考える者もいるので、彼らが抑止力となるだろう。

 

 また、善人の立場に立つ者たちほどその可能性を考え、よりしっかりと守りを固め、悲劇を起きないように動いてくれるのも非常にありがたい。



「けれども、やはりドラゴンの力と言うのは、強さの象徴でもあり甘美な蜜のようなものでもあり‥‥‥狙うやつは出るという事か」


 裏社会だからこそ、こういう秘匿したい話が流れ、伝わりやすい。


 そしてよく考えないものほど思い切りのよい行動をとりやすく、読みやすいものもいるが徹底的な愚者であればその思考すら予想できないようなやらかしをするだろう。


「ほぼ眉唾物、夢物語、迷信のようなものも混ざっているのに、全てを受け入れ、都合のいいように解釈し、動かす…‥‥ある意味純真かもしれないが、邪悪すぎる純真な心は厄介なものだろうなぁ」


 とにもかくにも、裏社会からすれば美味しい話でもあり、恐怖の話でもあるが、知っている者からすればどう考えてもロクデモナイ結末を招くことが目に見えている。


 ゆえに、裏社会に潜み、犯罪に手を染める様な者たちであっても、青薔薇姫を知っている者たちは悲劇を生む前に食い止めようと動いていく。


 ある意味、青薔薇姫という存在そのものが知っている者たちをまとめ上げ、動かしているとも言えなくはない光景になるのであった‥‥‥‥



「しかし、そもそもの話なんだが、どうして手に入れられないようなものを、自分なら確実にできると信じ込めるような奴が出るのかねぇ?」

「無理だからこそ、自分こそが先駆者になろうとする気持ちや、あるいは誰もが引き留めるからやりたくなるようなものじゃないかな?ほら、押すなと言ったものを押したり、入るなと言ったのに入る奴が出るとの同じことだよ」

「そう言えば、この間アジトの自爆スイッチを押した奴がいたが、そうかあいつのような奴か…‥‥」



悪人の住みかに自爆スイッチは、ちょっとしたロマン。

でも、そのお約束を実行する奴は、できるだけどうにかしたい。

とにもかくにも、青薔薇姫に関して面倒な目に遭いたくはないという気落ちは、悪人でも同じようだ…‥

次回に続く!!



‥‥‥ロマンと言ってしまったけど、秘密を守ったり証拠隠滅のための目的があるとは言え、自爆スイッチを馬鹿正直に設置する人って結構多くないかな?

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