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2-37 誇張にも、使いようはある

‥‥‥ミルガンド帝国にはかつて、青薔薇姫の異名を持った令嬢が存在していた。


 物語上の、架空の人物ではなく本当に存在していた女性。


 彼女の様々な騒動は、一見誇張されただけの眉唾物にも思えるだろう。


 だがしかし、「誇張」とはあくまでも言われているだけであり、実際はそれ以上のやらかしを彼女はしていたそうだ。


 一歩街中へ踏み出せば、密売の取引どころか国家間の紛争の火種になるような輩を見つけ出す。


 二歩町中へ踏み出せば、異界の者たちと遭遇し友情をはぐくむ。


 三歩国外へ踏み出せば、シャレにならない大災害すら片手で収める。



 そのような伝説すらも残されてはいるが、規模の大きさゆえに人の口では語り継ぎきれず、記録には描ききれず、結果として誇張表現のようにまで抑え込むことで、どうにかその特異性が伝わるようになったというのだ…‥‥「矮小化」という表現があるが、それではちょっと抑え込み切れなかったので、いっその事信じられないほどの話に抑えたほうが良いとも言われていたそうである。




 そんな彼女だが、ミルガンド帝国内ではとある名の知れた公爵家の令嬢だった。


 皇帝含む高家の血筋から分かれた、れっきとした国の礎から成り立つ家でもあったようだが、青薔薇姫はそんなことも気にすることなく、本人はいたって真面目に「普通の女の子」になろうと努力をしていたらしい。


 貴族令嬢としての所作を身に着けるためにマナー講師を何十人も雇い、全てをマスターして講師たちは教えることができずに磨くために修行の旅に出て行き、美しさや可愛らしさを理解するために花を育てペットを育て、巨大花や怪物を手なずけ、帝国になる学園内で友人を作ろうとしたらファンクラブが出来上がってしまう…‥‥やることなすことが空ぶりどころか高速回転しすぎて燃え尽きていたが、それでも青薔薇姫の名を持つほど、慕われていた。




 だがしかし、才能が溢れすぎるというか、そんな彼女を帝国が放置するわけがない。


 偶然というか、当時の皇帝の一族は少々問題があり、求心力が低下していた。


 そこで皇帝は自身の息子である皇子との婚約を結ばせ、息子を傀儡としても良いから皇家を守ろうとしたのである。


‥‥‥流石に自身の息子に対して酷い事を言っているように思える当時の皇帝ではあるが、一応ある程度青薔薇姫のことを信頼しており、帝国自体を乗っ取ることはないと思ったのだろう。


 当の青薔薇姫本人も当然乗っ取る気もなく、皇帝命令だからという事で大人しく従っていたらしい。正確に言えば、色々と密約を交わしており、いざとなれば帝国から飛び出して自由に色々とやっていいともされていたようで、下手に出国されてしまえばどれほどの損害を被るか分かっていたからこそ、皇帝の方も青薔薇姫の要求を呑んでいたようだ。


 上と下で交わされる、しっかりとした約束。


 そのまま無事に皇帝が退位して、皇子が即位すれば何も問題はなく、帝国は平和なままだとも言われていたが‥‥‥残念ながら、皇子は皆の期待を盛大に裏切った。


 いや、あまりにも予想を超える愚者だったせいで、行動を読み切れなかったのもあるのだろう。



 ある晩、まだ婚約関係にあるにもかかわらず、性欲を暴走させた愚者は襲い掛かった。


 普通であれば、まともにかなわぬ相手。このままでは愚者は1秒と持たずに消し炭になっていただろう。


 だがしかし、愚者はそのことならばなんとか計算できる頭を持っていたのか、対策を立てていた。


 それは、帝国のもつ宝の内、危険だからと封印されていた遺物。


 危険とは言え、帝国が万が一にでも強大な敵に襲われた時に使える秘宝中の秘宝だったのだが‥‥‥こういう時に限って、皇子という立場を利用し、そいつは手に入れていたのだ。





 力を封じる、特殊な呪具。それによって、青薔薇姫の力をすべて封印し、何もないただの少女に変える。


 そうすれば、確実に目的を果たすことはできる…‥‥はずだった。



‥‥‥けれども、それはうまくいかなかった。


 青薔薇姫は、いつの間にかもっと強力な呪具を所持して自分の力を封じており、それでもなお溢れるような力が漏れ出て、帝国の秘宝でさらに封じられたとしても‥‥‥残念ながら意味をまったくなさなかった。


 正当防衛ということで、青薔薇姫は愚者めがけて強烈な一撃を叩き込む。


 蹴り?殴打?そんなものではなく、ただ近くにあったものを投げつけただけ。


 そう、お手軽な護身具に早変わりしたのは、呪具だけでは足りない抑えをちょっとでも足すために身に付けていたただの重りをぶん投げ‥‥‥






「‥‥‥そして、彼女は国を出ていくことになった。帝国の皇帝の血筋を遠縁のものに継がせなければいけないことになった責任によって、自らの意思で去ったそうだ」

「その言葉だけで、何が起きたのか想像できるなぁ…‥‥」


 話を聞き、思わずつぶやいたが同性の面子はうんうんと深く頷いていた。


 出て言った理由が何というか、その愚者の自業自得としか思えない。


 なお、当時の皇子はその愚行のせいで、流石に生かしてはいけないという事と、帝国にとって重要なものを出ていかせてしまった責任を取らせることで、治療されずに市井へ追い出されたそうである。


 普通はそんなことをしたら、何処かで子供を作って、血を引いているからというようなことでやらかしかねない危険性もあったが、幸運なことにその可能性は永遠に失われていたので問題なかったそうである。


「何にしても結果として、青薔薇姫は意気揚々と出て野に解き放たれてしまったので、各国から帝国は非難を受け、しばらくの間財政難に見舞われたそうだけど、現在の皇帝に代替わりしたからは掃除がしっかりとされて、二度と同じような真似をすることが無いように教育が施されているらしい」


 聞きたくなった、他国のそんな事情。


 でも、その話までが伝わっている事のようで、以降の青薔薇姫の足取りは辿れなくなったそうだ。


 どこかの国に出たり、土地に定住したりするだけで、大騒動が起きるのが目に見えている青薔薇姫。


 可能性を考え、各国が総力を挙げて捜索を行って自身に火の粉が降りかからないように警戒したが、どういう訳か青薔薇姫は完全に存在を消したそうである。



「父上‥‥‥このドルマリア王国の国王陛下も知っている話で、当時はまだ王子の立場だったそうだが、そんな特大の爆弾娘がいる場所になったら危いという事で、捜索を受け持ったらしい。けれども、その時は全く分からなかったようだ」


 酷い言われような気がしなくもないが、それでもいなくなったっぽいのは事実だろう。


 その為、捜索は打ち切られたそうだが‥‥‥最近になって、再開したという。



 なぜ、当時各国が捜査したにも関わらず、再び捜査を始めたのか。


 それは、俺が原因らしい。


 王都内に入る間に合った騒動や、ソードウイングモードの飛行テスト中にあった盗賊の件もあり、青い髪の特徴からなんとなく怪しみ、調べられていたそうだ。


「青薔薇姫の特徴は、その青の名が付くように、美しい青い髪を持っていたという。フィー、君の髪色も青いし、気になる人が増えたようだ」

「青い髪色の生徒とかは、他にいると思うんですが」

「その魔剣なんかも、原因だろうね。普通ではない魔剣を所持した時点で他者より画一した何か違うものを持つと、判断したのだろう」


 とにもかくにも、何かしらある生徒かもしれないという事で、調査の手が密かに入っていたようだ。


 俺が育てられたドップルン教会や、赤子だったころに救出に携わったオッサンズなども事情聴取を受けたようで、その青薔薇姫の打ち切られていた調査でも残っていた資料などをもとにして再調査としてより念入りに行われたようである。


「そして極めつけの、確実にそうだと言い切れるのは‥」

「黙っていたけれども、あれは何なのか分かっていた。だからこそ、あの反応を見てそうだと確信できたんだ」

「あれって?」

「あの浜辺で拾っていた、透明な石だ」


 会長の言葉を引き継ぐように、ラドールが口を開く。


 何を言っているのかと疑問に思ったが、どうやらあの踏んづけて滅茶苦茶痛い思いをした箱の中に入っていた宝石のような透明な石のことを指しているようだ。



「あれはね、帝国の中でも皇帝を含む家の中で万が一にでも隠し子をもっていたり、他人の子なのに無理やりその家の血筋の子だと言ってくるような輩などを判別するために作られた、血脈石という道具なんだよ」


 あの透明な石の正式名称は血脈石という、ミルガンド帝国内で使用されている特殊な道具のようだ。


 何でもかんでも、貴族家の中で血のごまかしなどが無いようにしっかりと確認する方法として確立されたもののようで、貴族家を起こした際に皇帝が直々に監視し、作成される道具なのだとか。



「特定の血族にしか反応せず、色でどこの貴族家なのか確認できる特別な石。血を引いてないのであれば反応はせず、引いているのならば登録された血族の色で輝くようになっているんだ」


 一応、皇帝の血筋限定という事で、公爵家や現在の皇帝一家にしか反応しないように作られているようだが、近年は改良を進め、他の貴族家でも判別がしやすい量産型も計画されているらしい。


 そんな事よりも、その石がなぜ浜辺に埋まっていたのかは、実はこの学園のとある留学した生徒が仕掛けていたもののようで、できるかぎり反応するかどうか確認しやすいように見ていたらしい。


 そして結果として、その道具に俺が触れ…‥‥青い光が出たことで、ほぼ確実に青薔薇姫の血筋であることが判明したようだ。



「‥‥‥とは言え、そうなると母親が青薔薇姫だが、あのドラゴンの姿を考えると父親がドラゴンな可能性も出てきたんだ」

「でも、当時を知る人たちに聞いてみたら…‥‥」


 青薔薇姫とドラゴンが番になって子を成す可能性を考えてもらうと、ほぼ確実にあり得ると全員口をそろえたらしい。


 むしろ、伝説だとか物語に出る様な存在でなければ、まず確実に子供を成すようなこともできないだろうし、成したらそれはそれで夫の座に就いた者がすごすぎるそうだ。


‥‥‥ただ、同時に確実に尻に敷かれているか、青薔薇姫に襲われて既成事実が作られた可能性も否定できないそうである。何をやらかせば、そんな確実にやりかねないというような考えを抱かせるのだろうか。






 とにもかくにも、そのこともあってドラゴン云々は一旦置いておくとしても、俺の母親が青薔薇姫なのが確実になった様だ。


「でも、それだと大きな謎も同時に出て来たんだよ」

「というと?」

「…‥‥実はですね、ご主人様の母親だと思われる、青薔薇姫の死体がでなかったのデス」

「え?」



 魔獣によって、滅ぼされた村。


 そこで魔獣によって命を奪われていたはずで、オッサンズもしっかりと全員共同墓地に埋めたのは目撃していたらしい。


 だが、その調査の一環で先日掘り起こしたところ…‥‥確かに埋葬したはずの遺体が消えていたのだという。


「土地に埋められたことで、普通に大地に還ったんじゃ?」

「ご主人様、実は私もちょっと確認していたのデス。メイド魔剣たるもの、主の両親のデータも少々取っておくべきだと思ったのですが…‥‥魔獣に襲われて滅びた村なので、記録があまりのこっていなかったのですが、それでもその中に、ご主人様の母親らしい記録が無かったのデス」


 そもそもの話、そんな滅茶苦茶な伝説を作るような青薔薇姫が、あっさり魔獣に命を奪われるのだろうかという事にもなるそうだ。


「それに、オッサンズの話によれば、髪色に関して…‥‥母親と思われる死体の髪色は青くなく(・・・・)、青薔薇姫だとは思えなかったそうなのデス」


 つまり、村が滅びた当時の状況を調べると、青薔薇姫の記録はなく、死体もそれだと確定したわけではない。


 それなのに、なぜその血筋を引く俺がそこにいたのか…‥‥謎が出てきたようだ。


「おそらくですが、何者かの人為的な工作が行われていたと推測できマス。青薔薇姫の存在を表に出したくなかったのか、あるいは…‥‥当時の記録を見ると、不可解な点も多く、秘密裏に消し去ろうとする動きがあった可能性もあるのデス」

「そもそも、魔獣で滅びないように魔剣士が各地へ派遣されていて、できる限り騎士たちが足止めしつつすぐに駆け付けられるようになっているはずなんだ」

「それなのに、駆け付けるまでにかかった時間は平均的で…‥‥いや、むしろわざと平均的になるようにすらされたようで、それまでの間に確実に村が滅びるようにされた可能性も出て来たんだ」



 色々出て来た、何やらもの凄くキナ臭い話。


 というか、例え血を引いていたとしても、こんな話を一介の平民である俺が聞いて良いものだろうか。


「話してもらっている途中ですが、それって俺が聞いても良い話なのでしょうか?村にいた当事者のような立場とは言え、その時はまだ赤子でしたし…‥‥」

「「‥‥‥」」

「何でそろって、目をそらすのだろうか」



‥‥‥とにもかくにも、色々と怪しい箇所が出てきてしまったようで、これ以上の深入りは今のところはっきりしない部分もあるので、一旦切り上げることにした。


 しかしながら、青薔薇姫の血筋であるという事だけはほぼ確実なので、この件に関しては後日やる作業が増えるらしい。


「一応、青薔薇姫の両親は‥‥‥フィー、君にとっての祖父母は帝国の方で健在だ」

「でも、その後継者などで今ちょっと問題になっていて‥‥‥確実に巻き込まれる可能性があるから、覚悟したほうが良いよ」

「聞きたくなかった、その面倒そうな話」


 何にしても今日のところは話も長くなったので、整理の時間を作らせてもらうのであった…‥‥


「ああ、それとフィー。君の持っていた形見のネックレスだが、ゼナが何とか原型を修復してくれたぞ」

「でも、その原型を改めてよく調べて分かったんだけど…‥‥それ、呪具だったよ」

「え?」

「丁寧にかつ巧妙に隠されてましたが、力を徹底的に封じるものだったようデス」


‥‥‥形見の品に物騒な情報を付け足されたんだけど。




色々と情報が出て来たが、面倒事の予感しかしない。

というか、封じる呪具だった形見という話も、物騒過ぎる。

‥‥‥もしやそれが壊れたせいで、様々な面倒事が引き寄せられ始めたのではなかろうか?

次回に続く!!



‥‥‥いや、壊れていようがそうでなかろうが、どっちにしろ逃れられない運命だった気がする。

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