2-30 海だからこそ、できること
開放的な海辺と言うのは、屋外での鍛練には結構向いている。
砂浜は脚力が鍛えられ、水中戦は不測の事態に対しての対応力を強化し、沖合から釣られてくる魔獣は丁度良い実践相手になる。まぁ、流石に生徒たちに相手にさせられないようなのは、教員たちが沖合へ船出て、ある程度狩り取っているという話も聞く。
でも、その事を考えても鍛えるとしては良い環境であり、模擬戦などで更に実力を磨き上げることが出来るのだ。
「砂浜に叩きつけられると、結構痛いけれどね…‥というか、新しい投げ方も作るんかい」
「足場が不安定だからこそ、軸足でうまく回転して投げやすいデスネ」
周囲に投げ飛ばされ、死屍累々のごとく散らばる生徒たち。
その中心には、水着姿で大回転してたゼナの姿があり、本日も俺たちは敗北したのである。
‥‥‥回転耐性をつけるのデス、と言って振り回しまくっていたが、竜巻のような投げ飛ばしはかなり効く。
ぶぉんぶぉんっと凄まじい勢いで射出され、砂浜に突き刺さる者も多い。なお、きちんと海へ投げ飛ばしたら溺死の可能性もあるので砂浜の方に被害が集中していたりする。
何にしても、回転への耐性特訓としての意味合いも兼ねて動いていたのだろうが、そのせいで余計に強くなっていないかな、このメイド?
「ゼナ、それで肝心の耐性としては?」
「だいぶつきましたが、まだまだですネ。魔剣の中には超高速回転をする方もいるので慣れるコツをお聞きしたのですが、それでも完ぺきとは言い難いデス」
成果としては不満な点もあるらしく、満足はしていないそうだ。
こっちとしては瞬歩の砂浜での強化はできたので言うことも無いが、彼女としては良い感じに仕上げたいのだろう。
ついでに言うのであれば、海で泳げないという彼女の弱点の克服もできないかと試したが、こちらはすでに諦めた。
体の力を抜いても浮かなかったし、ブクブクと沈んでいくからな…‥‥魔剣なので呼吸の必要は特になく、あぶくを出しても溺れることはないと彼女は言い張っていたが、無事だとしても見ているこっちの心臓に悪い。
なお、ならば水中戦ならば彼女に勝利できるのではないかという事で、水中戦闘がむしろ得意になるような水の魔剣やウナギの魔剣をもった生徒たちが挑み、実際にやってもらったのだが…‥‥溺れないという事は息継ぎの必要が無いので、タイミングを見計らって引きずり込まれ、ギブアップしまくっていた光景もあったりする。水中の方が、余計に強くなってないかな?
何にしても模擬戦も終え、突き刺さっていた生徒たちは砂浜から抜かれ、一旦自由時間となった。
この時間が終われば宿泊している施設の方へ戻り、勉学の方に励んでテストとなるだろう。
だからこそ、この時間に思いっきり遊びたいところなのだが…‥‥俺としては、模擬戦で負けている分、しっかりと鍛える時間にしたい。
「でもなぁ、水中戦、陸上戦と負けたら次はどこで挑んだらいいんだという話になりそう」
「フィー、だったら次は空中戦ならどうだい?ああ、実際に飛ぶというよりも跳ぶ感じで跳躍しまくってかく乱する感じでね」
「それもありかもなぁ」
浜辺を駆け抜けて自主的に走り込みしながら、同じように走ってきたラドールと並んでそう語り合う。
なお、彼の場合鍛えるために走っているというよりも、一か所にいると魅了の魔剣の効果で他の女子生徒に群がられかねないので、移動しまくっているらしい。不憫というかなんというか、苦労しているようだ。
「後はいっそ、海の上を駆け抜ける事が出来れば、ギリギリ水上戦としてやり合えるか‥‥?」
「いや、それができたら人間離れをしているよね?」
「でもゼナは出来ていたんだよなぁ。泳げないならいっそ、沈む前に足を上げ、その繰り返しをするだけで上を走る事が出来るのデスといってさ」
「彼女の方が、よっぽど人間離れをしていたか…‥‥いや、魔剣だから今さらなのか?」
水上でのすさまじい水しぶきを上げながら駆け抜けるゼナの姿は忘れられない。
理屈としてはまだわかるが、それを実際にできるというのは無茶苦茶すぎるだろう。ちなみに今は、彼女はサビ止め入り日焼け止めクリームを塗り直すそうで、側に居なかったりする。動き回って落ちていたらしく、しっかり手入れを欠かさないらしい。
「あと今いない状況だから言えるけど…‥‥普段メイド服で隠れている分、思いっきり動かれるとどうしても気になってしまう。俺だって健全な男子なんだよ!!」
「気持ちはすごい分かる。こっちもあれは眼が惹きつけられるからね‥‥‥でもその話、こちらの婚約者にはしないでくれよ?確実に殺される」
「‥‥‥ああ、絶対にしないよ」
ついでに言うのであれば、この海での試験中は通常手紙などが届くことはないらしいが、何をどうしてかラドールの婚約者からの手紙が届くそうで、その場にいないはずなのに詳細な状況をつかんだ内容で送って来るらしい。
おそらくは諜報だとか密偵などの手を持っているのかもしれないが、ほぼタイムラグを起こさずにかかれるのは結構怖い。千里眼だとか、そういう目をお持ちなのだろうか。
とにもかくにも、その恐怖体験を忘れるように駆け込んでいたその時だった。
「しかし、こうやって海辺を走ると魔獣がまた来る様子を見れそうだな」
「多いからねぇ。ホイホイやって来るから、実践にはちょうどいいけれどね」
「ゼナでのガトリングモードで一斉掃射する方が楽な、」
ざくっ
「いだぁぁぁぁぁあ!?」
何か砂浜に埋まっていたのか、硬いものを土踏まず部分に踏んづけたようで、思わず叫んでしまう。
抑えつつ、何を踏みつけたのか見れば、それは小さな小箱のようなモノ。
しかしながら表面がややでこぼこしており、そのおうとつが痛い形で食い込んだのだろう。
「誰だよこんなもの砂の中に埋めたやつ!!」
「うわぁ、これは痛いというか…‥‥あれ?…‥‥フィー、開けられそうだよ」
見ると確かに施錠されているようではないで、普通にパカッと開けそうだ。
そう思い、箱の持ち主の特定も考えて中身を見ようと思い、開けてみると中には一つの宝石が入っていた。
「なんだこれ?透明な宝石だが、こんなもの‥あれ?」
中に入っていたのは、無色透明な小さな宝石。
だが、ちょっと手に触れた瞬間、それは一瞬で色を変えた。
「‥‥‥青色?」
「‥‥‥色の変わる、宝石‥‥‥」
箱の中に入っていた宝石は、俺が手に触れた瞬間青白く輝き、ぱっと手を離せばすぐに透明になった。
何かこう、体温か何かに反応する類なのかは不明だが、ちょっと特殊なものなのかもしれない。
「とりあえず、何かわからないけど落とし主がいるのは間違いないだろうし、宿場の方へ届けておくか。誰が落したのかは知らないけど、落とすなら宝石単体にして欲しかったよ」
ざっくぅっと土踏まず部分に食い込んだ傷みを恨めしく想いつつ、落とし主がいるのであれば文句を言ってやりたいと思う。
そう考えつつ、箱を閉じて俺たちは届け出に向かうのであった…‥‥
「あだだだ‥‥‥まだ痛いな、足」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないな‥‥‥ゼナがいれば、ここで持って行ってくれると助かるんだけどな」
「お呼びでしょうか、ご主人様」
「「‥‥‥」」
‥‥‥ほんの数秒前までいなかったのに、瞬時に来たんだけど。
土踏まず部分、何か踏むと結構痛い。
この手段を活かしての攻撃方法も考えたが、自滅しかねないのでやめていたりする。
しかし、落とし主は誰なのか‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥本当はもうちょっと柔らかくだったが、朝、作者がやらかしたのもあって踏ませていたりする。マジで痛い。




