2-23 鋼の精神力という言葉は、ある意味合っている
留学生が来たところで、一学年に一人づつならば、そう大きな話になることも無い。
最初こそ大きな噂になっても、時間が立てば沈静化していくのだ。
「だからこそ、収まるまでゆっくりと出来るところを捜していたのか‥‥‥でも、モテていること自体は悪い気はしないんじゃ?」
「いや、そうでもないんだよ。ヘタにモテると本国にいる婚約者が怖いんだ…‥‥ううっ」
まぁ、沈静化するまで落ち着けるところを探す人もいるようで、昼食後に適当に次の授業までうろついていたところ、ふと同学年に入ってきた留学生のラドールを見つけ、俺たちは人気の少ない屋上で語り合っていた。
なんというか、居場所を探しているような雰囲気だったので、親切心で案内したとはいえちょっとした闇を抱えているらしい。
「こちらの身分はそう明かす意味もないけれども、婚約者がいてもおかしくは無いとは思うか?」
「まぁ、フルネームを聞いている時点で貴族の中でも上かなぁとは思っているし、それなら婚約者が決められていてもおかしくはないけれど…‥」
「とは言え、その婚約者自体が問題だったんだよな」
「どういう方だったのか‥‥‥いえ、魔剣の方に語ってもらって良いでしょうカ?」
「おや?この魔剣に何か聞けるのか?」
「ハイ。私も魔剣ですからネ」
ちなみに、ラドールの魔剣は『キュラバース』という名の魔剣で、その力は『異性の魅了』というもののようだ。
ただし魅了と言ってもむやみやたらに振りまくような類ではなく、ほんのりと彼に好意を抱きやすくするのだとか。
‥‥‥効果を聞くだけだと、魔獣相手にはあまり意味がなさそうな魔剣だが、その魅了効果は『異性』という概念さえあればいいのか、人間相手にも効くようで、魔獣でも多少異性という部分さえあれば対象となり、攻撃が緩んだり自ら首を差し出すそうだ。
「それだけ聞くと、ゼナにも効果がありそうだけど‥‥‥魔剣は対象外なのか?」
「いえ、私にも多少は効果が発揮されるはずですが、この手の類は精神力が強いと無効化できるようですネ。この魔剣キュラバースも自己申告していますが‥‥‥ああ、でもその効果が不幸も生み出したのですカ」
「というと?」
「…‥‥何と言うか、ラドールさん。あなたもまた厄介なものに憑りつかれたようですネ」
「本当に今のやり取りだけで、わかったのか?」
魔剣に触れ少し光る間に情報のやり取りが出来たようだが、彼に向けるゼナの目は心底同情したものだった。
「ええ、短いように見えてかなりの量をやり取りしたのですが‥‥‥お気の毒ですが、どうしようもない事デス。その婚約者の方を言うのであれば、おそらくヤンデレ‥‥‥いえ、もっと酷いものというか、デレ要素がまずないというか、病み過ぎじゃないですカネ?」
「うっ‥‥‥」
‥‥‥話によると、ラドールの婚約者は彼の国ではソコソコ上の位の貴族家のようで、政略的な意味合いの婚約ではあるが、それでもお互いに理解しつつ愛を育めていたらしい。
だがしかし、魔剣選定の儀式を経て魔剣を入手し、その魅了の効果が出た時から‥‥‥婚約者は変わってしまったそうだ。
「愛するがゆえに、近づく人をなぎ倒し、どこにいても瞬時に駆け付け、30メートルぐらいの高さから降りても平然とし、場合によっては岩壁すら木っ端微塵‥‥‥‥魔剣から聞けた話ですが、ぶっ飛び過ぎてますネ」
「そうなんだよ、そうなんだよ…‥‥魅了の効果はうわべだけでなら意味がないと割り切れるし、モテたいとも思う気持ちはない。けれども、婚約者が魅了の効果が発動するたびに大暴走してやってくるのは‥‥‥ああああ、思い出すだけでも恐怖心が」
がくがくぶるぶると震え、恐怖で怯えるラドール。
よっぽどのトラウマのようで冷や汗などもすごく出ており、非常に哀れというかその婚約者に畏れというか恐れを抱いているような‥‥‥何とも言えないような同情心が出てくる。
「でも婚約者ってことは、婚約関係での繋がりだろ?婚約破棄とかはできないのか?」
「難しいデスネ。貴族間の婚約関係というのは政略的な意味合いもあって強く、どちらかに非が無いと成立しにくいのデス。よく小説などでは婚約破棄を叫ぶだけで婚約が破棄されるようですが、本当はかなりの手続きが必要なんですヨ」
「しかも、彼女の場合親も乗り気というか押し付けてくる気満々なんだよね…‥‥こっちの親も、見放しているから、どうしようもないというか」
婚約破棄だ!!と叫びたくとも、叫んだあとが容易に想像できるらしい。
一方的な破棄で、場合によっては家を勘当されることもあるらしいが、出来ればそうしたい。
だがしかし、そうなった時こそが本当に逃げられない地獄となりそうで、踏み出せないようである。
‥‥‥いや、本当に俺平民でよかったな。そんな恐怖の婚約なんてしなくていいし、貴族界隈の面倒事に関わることも無い。
しいていうならば魔剣士として仕事している中には、貴族と関わる機会もあるようだがそうそう取り立てられるようなことも無いだろうし、あったとしてもそんな恐ろしい事は無いだろう。
でもそう考えると、その中でも相当なヤヴァイことになっているラドールが本当に哀れに思えてしまうのであった。
「‥‥‥苦労しているようなら、相談に乗れるときに乗るよ。身分がどうこうというのはこの学園では基本的に関係ないし、友人として応援というか、どうにかならないか励ますことにしたからな」
「非常にありがたい…‥‥このことに理解を示してくれる友人が出来るだけでも、本当に心強いよ」
男同士の友情というか、見て見ぬふりの出来ない事でありつつ俺にもどうにもすることができないが、それでも多少は友人としての形で支えられるのであればそうしてあげようと思うのであった…‥‥
「そう言えば、えっと名前はフィーだったっけ?」
「そうだけど、それがどうしたのか?」
「いや、君の方も平民だとか孤児だったとか言うけど、貴族家の子でもないんだよね?」
「そうだぞ。俺は普通に、何処かの家の子で、親を魔獣で亡くしたらしいからな…‥‥赤子の頃の話で全然分からなくて、形見があるぐらいしかないな」
「ふーん‥‥‥その形見って、どういうのだ?」
「これだ」
っと、辛気臭くなりそうな話はさておき、話題を変えるようにそう語りかけられたので、俺はいつも肌身離さず持っているネックレスを取り出す。
「へぇ、それが親の…‥‥にしても、フィーの今はいない親の持ち物としては、結構高価そうだよね」
「そうなんだよなぁ。母親が持っていたと聞くけど、この感じだと多分父親の方の持ち物か、あるいは無理をして買ったプレゼントじゃないかなと思う部分もあるな」
「無理をして、かぁ…‥‥でもこれ、使われている宝石は‥‥‥いや、確かに高価そうだけど、盗まれないように注意したほうが良いよ」
「盗まれること自体は、無いデスネ。そう言う輩がいた場合は、犯罪を犯す前に消し飛ばしマス」
「‥‥‥物騒過ぎるメイドだよなぁ。いや、魔剣だっけ?」
これも友情。
とは言え、どうしようもないので本当に相談に乗ることしかできない。
まぁ、どこかで無難な解決方法が出る事を祈るか…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥なんかこう、新作意欲が出るけど、この作品の人気の無さを見るとちょっとやめてそっちを作るべきか悩み始めた。




