性能向上には欠かせなくて / 原因があるからこそ起きることもあって
‥‥‥メイドたるもの、ご主人様の命令は絶対。
けれども時として、間違っていると判断した時は己の力で主であろうとも止めなければいけないことがあるらしい。
ゆえに、メイドたるものご主人様を止められるだけの力が必要というのだが…‥‥
「‥‥‥正直に言って、今の私では無理だと思い、お願いをしに来まシタ」
『-----』
悲しい事に、今の自分ではその力がないと、ゼナは理解している。
メイド魔剣たるもの、その身に持つ力は大きいのだが、相手は強大な力を持つドラゴンの血を引いており、自分の力では完全に上回ることができないと分かっているのだ。
というかそもそも、メイド魔剣に過ぎない身で、ドラゴンレベルの強大な力に匹敵する力を得るのは無理があり過ぎるのもある。
強すぎる力というのは、それに見合った身体があってこそ成り立つものであり、合わないものであれば自己崩壊をしかねないのだ。
そのため今回、主であるフィーが眠っている間に、彼女は今後さらに開くであろう力の差を埋めるために、ここへ来たのだ。
魔剣しか知らぬ、魔剣しか来ることができないとある場所に。
…‥‥いや、そもそも魔剣しか知らないならば魔剣以外が来ることは普通ないのだが、そこにツッコミをいれるものはいなかった。
『-----』
「現状、10倍ですか…‥‥もう一桁、どうにかなりませんカ?」
そしてこの地にいるものに問いかけたのだが、残念ながら大幅なパワーアップは無理という回答を貰った。
魔剣鍛冶師がいるところにも出向いたが、そちらでも同じような回答しかもらえていない。
『-----』
「‥‥‥そうですか、今の私だとまだ無理なのですネ」
いくら力を求めたとしても、限りなく上の要求が出る可能性もあるだろう。
今満足したとしても、今後また更に求めなければいけない時が出てしまい、結局鼬ごっこになりうるのだ。
「となると、やはり力だけではダメですか‥‥‥むぅ、難しい問題デス」
力には力で押し切りたいが、うまくいかないのであれば別の手段を用いるしかないだろう。
でも、自分にその別の手段が使えるのかはわからない。
「まぁ、考えていても仕方がないデス。今は限界の10倍まで、お願いいたしマス」
ひとまず、その手段を思いつくまでの間に合わせとして、一時的な強化を選択するのであった…‥‥
―――――
‥‥‥そしてゼナが10倍の強化を施されていたその頃。
帝国の王城内では、皇帝はとある報告書を読み終えていた。
「なるほど…‥‥今回の件、やはり人為的なものだったか」
先日、帝国のダーインスレイヴ学園を襲った怪植物たち。
フィーの手によって収められた事件だったが、そもそも事件が起こるためには何か原因があり、その原因を探って結果が出たのだ。
「人為的に生み出された、人の手による魔獣と植物の混合物のようなものか。しかも、帝都の中にどうやって侵入したかと思えば、反面教師用の学生がやらかしたそうだな」
帝都内には皇帝の手によって、直ぐに情報が集められるように様々な影の者たちが密かに動いている。
まぁ、一部の例外として動きが突き止めにくいものもいるのだが、本気で調べるとなるとかなり詳細まで把握することが可能であり、こうやって書類にまとめられるのである。
「帝都外でその仲間と接触し、半ば断りつつも持ち帰ってしまい、それがいつしか勝手に蠢いて来たとなると、どうしたものだろうか」
帝国の帝都そのものを危機に陥らせかけたので、その原因となった者には最悪の場合極刑が該当したかもしれない。
けれども今回はあくまでもその誘惑には乗り切らず、勝手に相手が動いたと思える部分があるからこそ、ある程度の情状酌量の余地があるのだ。
それに一応魔剣士なので、魔獣が発生した時には出てもらう必要があり、いまいち戦闘力がないとしても、それでも魔獣を確殺できるものとして利用価値ぐらいはある。
「何にしても、おとがめなしという訳にはいかないな。謹慎させつつ、ある程度の処分は必要…‥‥はぁぁ、頭が痛くなることがこうもあるとはなぁ」
こめかみに手を当てつつ、溜息を吐く皇帝。
皇帝という権力のある立場にあるからこそ、帝国に何かがあった際に動かないといけないことが非常に多く、かなりストレスがたまりやすいのだ。
その地位を狙う者たちもそれなりにいるが、彼らは理解しているのだろうか?好き勝手して良い地位でもなく、下手すると歴代過労死皇帝に加わりかねないこの大変さを。
「あとは、事態を無事に収めたうえに、帝都内に新たな温泉施設を作った功績も兼ねての褒美などか‥‥‥前者はまだ良いが、後者は何をどうしてそうなった?」
そこにツッコミをいれたとしても返答はない。
報告書の方にも、「なんやかんやあって温泉が出来ました」としか記されておらず、影の者たちにとってもこの事態はどうなっているのかわからないところがあるようだ。
「ルルシアの婚約者候補だったが…‥‥ここまでくると、候補を消して正式にしたほうがいいか。他の婚約者候補に関しては今日まで動きを見ていたが、どれもこれも無いからな」
自分の娘の夫になるような男は、きちんと見定めておきたい。
ゆえにかなり長い間調べてきたが、短い間につみ重ねた彼の功績に匹敵するようなことを成し遂げたものは他におらず、それどころか候補の地位を時間が経過すれば正式になれると思い込み、緩んだ輩もいるという報告もある。
「しかし、ただ正式にするのも色々とあるだろう。ドルマリア王国の者であるし、王国にとって胃痛の種とは言え最大戦力を国外へ逃すのは痛い所もあるだろうし、話し合いも…‥‥うう、胃が痛い」
面倒だとしても、必要なのだからしょうがない。
内容がとりあえず色々とツッコミどころが多すぎて、精神的な面で胃に来てしまう部分があれどもどうにもならない。
一つの騒動が無事に終わりを迎えたとはいえ、皇帝の胃の平和はまだまだ訪れることがないのであった…‥‥
「それにしても、もう一件気になるのもあるな‥神聖国だとか公国の動きはまだ良いが、怪しい動きを見せるか、シルドラゾ軍事国…‥‥」
蠢く者たちは、案外どこにでもいる。
でもまぁ、全部が全部把握し切れるわけじゃないので、ある程度の妥協は必要だろう。
あと何人かは、特別任務(よく効く薬探しなど)があったりする
次回に続く!!
‥‥‥ドルマリア、レードン、ミルガンド、ファルンときて、今度はシルドラゾ。
抜けているものがあるけど、多分何を元にしているのかわかる人は結構いる。




