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5-34 防御力の、強化は必要だった

‥‥‥鎧を纏っての模擬戦は、帝国で実際に使用されている鎧が配布される。


 危険な攻撃から身を守るために使用するためとは言え、そこそこの重量があるので普段よりもう動きが悪くなるだろう。


 だからこそ、この重さに慣れるためにも普段とは違う状況に対応できるためにも、この鎧を着用する授業は欠かせない。


「実際に着てみるとなかなか重いですわね。守りを固めて攻めるしかないですわ」

「素早い動きが封じられるけど、その分重量を攻撃にも転嫁できるな」


 人の重さは恐ろしいほどの巨漢でもない限りそこまでもなく、体当たりを魔獣相手にかましたところでそんなに効果はない。


 けれども、鎧を着た状態であれば重量が増加し、ふっ飛ばして隙を作る手段を得られるのだ。


 また、防御を活かして肉を切らせて骨を切るような方法も可能だ。鎧があるだけでメリットとデメリットが生じるが、人によって扱いやすい方を選択すればいいだろう。


 その事もあってか、授業で配布された鎧を全員が着用して重さを確認した後、自ら用意した鎧を持ってくる生徒もそこそこいた。


 貴族である人でならばそれぞれの家の紋章を刻んでいたり、平民だったとしても古着扱いで回されていた鎧を安く購入し、改造して扱いやすくしていたりするなど、人によって鎧の扱い方はあるようだ。というか、古着扱いで販売される鎧って何だよと思ったが、どうも騎士の一部が魔獣との対峙で時間稼ぎをしたことで壊れたものを販売することがあるらしい。


 それは良いのかと思うのだが、使われないものならばまた使えるようにした方が良いと思う人もいるようだ。


 まぁ、俺自身としてはない方が素早く動けて楽なのだが…‥‥本日の授業内で、ゼナが自ら開発した鎧を着ることになった。


「というわけで、ご主人様用に開発した魔剣士用の鎧をお披露目いたしマス」

「一応聞くけど、人がまともに着て大丈夫なやつかな?着てすぐに爆発とかはないよね?」

「何故そのようなことを聞かれるのでしょうカ?そんなことはないのデス」


 いや、今までの事を考えると、ただの鎧でない可能性がかなり高い。


 留学してまだそこまで長く過ごしていないが、模擬戦などでゼナと手合わせをしちゃった人たちもなんとなくヤバそうな予感がしているようで、少しばかり離れて様子を見ているようだ。


「これが開発した鎧‥‥‥『深紅竜の鎧』デス」


 ばさっと覆い隠していた布を取り払い、出てきた鎧。


 その名前の通り、深紅のように真っ赤な全身に着こむタイプの鎧だが、所々に竜の鱗のような模様が彫られつつも、装飾としてしっかりと見栄えを良くしており、紅い竜といっても過言ではないだろう。


「…‥‥思ったよりも、まだまともな類が出てきた。でも、何で深紅にしているんだ?」

「ご主人様のイメージカラーというか、基本的に印象深いのは青色ですからネ。青い鎧もありと言えばありだったのですガ、残念ながら塗装用の青が無かったのデス‥‥‥その為、いっそ正反対なイメージカラーと、魔獣たちを葬る中で返り血を浴びても目立たないような色合いを選択させていただきまシタ」

「普通っぽいものと、物騒な理由が混ざった結果かよ」


 ツッコミどころはあるが、防御力は確かにありそうな鎧。


 ちょっと試着してみたが‥‥‥そこでふと、俺は気が付いた。


「あれ?さっきの鎧よりも軽いんだけど?これ、大丈夫な奴か?」

「ハイ。軽量化されていますが、防御力自体は従来の鎧よりもはるかに強めていマス。それと私の各種モードの補助にもなるように改造しているんですヨ」

「補助?」

「一部に(魔剣)と同等の金属を使用してますからネ。変形しやすいですし、それにご主人様が完全竜化した際に、解除後に消えますが残っていることもある鱗を少々拝借して、そちらも合わせたのデス」


 ああ、なるほど。どうりでなんかしっくりと…‥‥いや、ドラゴンの鱗をこれに使ったのかよ。あとゼナと同じ金属って聞いたら、この鎧にも何かぶっ飛んだものがあるのが確定したんだが。



「‥‥‥えっと、一回やってみるか。とりあえずノーマルソードモードで」

「了解デス」


 いつも通りの腕が剣になる状態になってもらうと、その瞬間に鎧の一部が変形した。


ガシャコォン!!

「…‥‥なんか刃が大きくなってないかな?帝国仕様で変わっていた部分もあるけど、今鎧自体が更に巻き付いてきたぞ」


 いつもの通り腕が剣になったが、その容姿は変化していた。


 帝国仕様で刃の側面に模様が彫られていたりしたのだが、より大型化しており、肘のあたりから金属がぎゅにゅぅっとねじれて巻き付いており、より頑丈に固定されている。


 また、よく見れば刃の方にもくっ付いており、大型化した要因にもなっているのだ。


「ノーマルソードモード強化版デス。私の各種モードに対して強化するように施しており、威力自体も大幅にアップしていマス」


 鎧自体が補助にもなっているようで、大型化した割にはその重量に対する感覚はいつもと同じ程度である。いや、それどころかより軽くなっており、素早く振り回せるようだ。


「他の各種モードが気になるが、これはやって見ないと分からないな。誰か、俺と一度模擬戦してくれる奴いるか?」

「言われなくてもやってやるぜぇぇぇ!!姫様の婚約者候補になったからといって、粋がるなぁぁぁ!!」


 都合の良い練習相手がいないか声をかけてみたところ、どうやらいたらしい。


 金属流体の魔剣を持っているやつがどうやるのか気になっていたが、鎧を着こみ、さらにその上から金属で覆うことで3~4メートルほどの金属の巨体になっていたダルブーネが名乗りを上げてくれたのであった。







「それでは、ダルブーネとフィーの模擬戦を始めます!!ルールとしてはいつも通り!!『お互いに全力を』『命を奪うことはなく寸止めギリギリ』『降参するならできるだけ早く』『正々堂々』!!この4つを守り、戦う事をここに誓うか!!」

「「誓う!!」」

「それでは、模擬戦開始ぃぃぃ!!」


 本日の鎧を着こなした模擬戦に関しての審判が号令をかけるとともにダルブーネがすぐに動いた。


「うぉぉぉ!!『スゥゥゥゥパァァァァァメタルアタァァックゥ』!!」


 どしどしとものすごい音をたてて体当たりを仕掛けてくるダルブーネ。


 技名とか見た目こそは安直すぎるが、その巨体の重量は馬鹿にならず、思いっきりぶつかって来る。



ドッガァァァン!!

「どうだぁ!!…って、あれぇ!?」

「ふっ飛ばされなかったんだけど?」


 あれだけの重量の塊がぶつかってくれば、そこそこふっ飛ばされるかと思ったが、真正面から来たというのに俺はふっ飛ばされず、むしろ何もなかったかのように立てていた。


 その事に気が付いてダルブーネが驚愕の声を上げるが、驚きたいのは俺も同じではある。


「ゼナ、どうなっているんだ?かなりの重量があったのに、ぶっ飛ばされなかったぞ?」

「鎧足裏に、滑り止めを付けてますからネ。体当たりで怯まされないようにしているのデス」

 

「おのれぇ!!体当たりが駄目ならここは全力で殴るのみ!!喰らえ、『ウルトラァソウルゥパァァァンチ』!!」


ガァァァン!!

バギィ!!

「ほっげぇぇぇぇぇぇ!?腕が腕がぁぁぁぁ!?」

「今度は相手の拳が砕けたんだが」

「体当たりでは表面積が広かったのですガ、殴ったら拳の部分で小さくなった分集中したのでしょウ。この私が開発した鎧がそう簡単に砕けるわけがありませセン」


 ただの巨体の重量を活かしたパンチだったが、こちらにダメージが通るどころか、ダルブーネの手の方の鎧が砕け散り、ついでに腕もやっちゃったらしい。


 素手で頑丈な扉を殴ったような感覚らしいが、衝撃が来ないのはおかしい気がする。


「んー、でも衝撃緩衝材がちょっと過剰でしたかネ?ご主人様にダメージが無いようにと思い、隙間部分にやわらげるものを入れていたのですガ、ショックがこなさすぎると反応しづらいデス」


 腕を抑えて悶え転がるダルブーネをよそに、そう口にするゼナ。


 防御力自体は合格点らしいが、実戦で扱うには少々安全性を高めすぎたせいで、支障が出る可能性を見つけたらしい。


 まぁ、確かに何も感覚がなく受け止めてしまうのも変な感じがするしな‥‥‥というかこれ、防御力が異常すぎるせいか周囲への感覚がかなり乏しいことになっている。


「あ、まさか‥‥‥」


 ふと、この異常な防御力で思いついたことがあったので、少しやってみることにした。


 腕を抑えていた悶え苦しむダルブーネを楽にするために、きちんと狙いを定めて‥‥‥魔剣とは逆の腕の、何もなってない方の鎧の拳を突き出す。


バッギィィィィ!!

「オグリホルバァン!?」


「‥‥‥うわぁ、拳の感覚もないじゃん。殴ったはずなのに間隔なさすぎて加減できなかったな」


 なんとなく感覚がある事で、殴る際に少々弱めたりなどの威力の調整がしやすい。


 けれどもこの鎧、徹底的に痛みに通じる様な感覚を無くすように細工されているせいで、加減が難しくなっており、弱めたつもりがかなり高威力になり、ダルブーネは星となった。


「ダルブーネ場外に吹っ飛び、敗北とみなす!!よって、勝者フィー!!」


 そしてそんな事は既に日常茶飯事だと言わんばかりに、審判によって模擬戦が終わるのであった‥‥‥




「うーん、要改良ですネ。過度に感覚が消失したことで、制御しづらくなるとは失敗でシタ」

「いや、そこは最初に気が付こうよ」

「というか、かなり吹っ飛びましたわね‥‥‥ダルブーネ、あんな人でも安らかに眠ってくださいませ」

「そもそも、生きているのかあれ?」

「いや、あいつのことだから生き延びているよなぁ…‥‥」
















「あああああああああああああああああああああああああ!!」

どっしぃぃぃぃぃぃん!!


 口々に好き勝手言われていたころ、ダルブーネはかなりふっ飛ばされ、帝都の壁すら超えてその先にあった平野に墜落していた。


 幸いというか、着ていた鎧や金属の魔剣、それと元々の生命力の高さゆえに無傷で済んでいた。


「ううっ、おのれフィーめぇ…‥‥あの鎧だけで、吹っ飛ばすなんぞ許せぇぇぇん!」


 敗北は認めるが、納得のいかない試合にもなっていたことに、ダルブーネは怒りの咆哮をあげる。


 だがしかし、そんな声を聴く人はこの場には…‥‥



「おやおやぁ、どうしたのかなぁそこの御仁。すっごい怒っているようだねぇ?」

「っ、誰だ!!」


 ふと、聞こえてきた声に対してダルブーネが振り向けば、そこには何者かが立っていた。


 ダルブーネにとってすれば見知らぬ人だが、さっきまで確かに人気が無かったはずなのに、いきなり人が現れたので驚いたのである。


「警戒しなくても良いですねぇ。自分、ただ単に空から落ちてきたかたまりに驚いて出てきたのですがぁ、どうやらお怒りのようですねぇ」

「見ればわかる事だろ!!だったらさっさと何処かへいけばいいのだぁ!!」

「そうですかぁ?でも、せっかくここで出会えたのも何かの縁ですしぃ、良ければその怒れる相手への復讐のお手伝いしてもよろしいですよぉ」

「はぁ?復讐の手伝いだと?そんなのはいらん!!やるのであれば一人だけで十分だ!!」


 反面教師、色々と腐った部分が多いダルブーネだが、そこは一応曲げなかった。


 自身のプライドを回復するためにもフィーへの復讐はいるかもしれないが、腐った部分にいた分だけあって、下手に誰かの手を借りれば悲惨な末路になる可能性程度、考える事は出来たのだ。


「そうですかそうですかぁ。では、いらないのなら別に良いですがぁ‥‥‥もしも、どうしても手が必要になれば、これを使ってくださいぃ」


 そう言って相手はダルブーネに何かを差し出してきた。


「何だこれは?小さな石か?」

「いえいえぇ、これはちょっとした薬でしてぇ、いざとなればそれをかみ砕いて飲んでくださぃ。そうすれば、ちょっとだけ手助けになるでしょぅ」

「いや、いらん。変なものはどう考えてもロクデモナイ‥‥‥ってもういねぇ!!」


 突き返そうとしたら、いつの間にか目の前にいたはずの相手が消えうせていた。


 あとに残るのはダルブーネと、自然と渡された一錠の薬のみである。


「誰かは知らんが、絶対に使わんからな!!姫様に必要なのは自分一人で十分だ!!」


 とは言え、貰ったものをそのまま捨てるわけにもいかないし、放置して置いたらそれはそれでなぜか後が怖いような気がしてきた。


 そのため仕方がなく、ダルブーネはその薬を懐にしまい、帝都へ向けて駆けだすのであった‥‥‥






 そしてそんな彼を、かなり離れた場所から手渡した人物は観察していた。


「‥‥‥あの腐った人よりも、まだまともかなぁ?でもあれ、薬というよりも種だし問題ないかなぁ?さぁって。邪神に喰われたわたしを引き継いで観察しましょうねぇ」


 にやりと笑みを浮かべ、その人物はより観察しやすいように場所を移し始めるのであった‥‥‥





 



作ったはいいけど、まだデータ不足だった。

そのためこの鎧は改造されていく。

その一方で、なにやら文字どおりの厄介事の種が入ったようで‥‥‥

次回に続く!!




‥‥‥何事にも、バックアップは必要である。

そう、うっかりデータを消したことがある人にとって、かなり必要である。

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