8 過去3?
ベルリースと名付けた我が子は可愛すぎた。あの至高のアバターと掛け合わせただけの事はある。もう目に入れても痛くないというか目を離すなど持っての他、片時も離れたくない。親バカと言われようとも構わない。寧ろ親バカ?褒め言葉ではないかと喜ぶほどだ。今まで沢山のアバターを作り、引き継いできたのに今さらまた1体のアバターに何をと心ない人に言われたこともあった。だけど違うのだ。ベルリースは今までのアバターと何処か違う。決められた動きをする只のデータとは思えないくらい表情が豊かで良く泣き、良く笑ってまるで本当の人間の子供のようだった。
そんなベルリースが一歳になった。ポヤンという効果音と共にベルリースの姿がハイハイとお座りが自分で出来る幼児になったのだ。
『か、可愛いーあーもうどうしよう。可愛すぎるー』
抱き上げて頬擦り、軽くキスする。
『まー』
『きゃー喋ったぁー!なんて可愛いくて賢いの!そうだ!この日の為にいーぱい可愛いお洋服買ってあるんだよー。お着替えして写真いっぱい撮ろうねぇ。それで今日は誕生日パーティーしよう!沢山ご馳走つくるからねぇ。むにむにー』
幼児のほっぺをツンツンとつつきながら満面の笑みを浮かべる母親の様子に、ベルリースも嬉しそうに笑った。
『きゃー!今の顔撮らなきゃ!っとそうだ!この喜びを共有せねばならん人がいるぞぉー。ついでに今までのスクショも···っと』
大量の画像をなれた様子で何処かへ送り、ピロンピロンと送信しましたというお知らせが繰り返され、それは相手からの緊急通話が来るまで鳴り響き終わることはなかった。
『お前なんだよこのスクショの山は!テロか!嫌がらせか!何のつもりだ!』
『あ、見てくれた?もうどれもすっごく可愛いでしょう』
悪びれもなくでれっデレな声で言う。
『····分かった。すっげー可愛い。充分伝わった。だからもうこれ以上は送ってくるなよ?』
声が怖かった。私はただもうベルリースが如何に可愛いかを見てもらいたかっただけなのに。
『もっとあるのに···』
『まだあるのかよ!』
『そりゃあもうこの可愛さを表すにはスクショの百や二百じゃ足りないし』
『いやもう充分だから。』
『えぇー。』
『お前があの時のアバターをすげー気に入ってて可愛がってるってことは伝わった。』
そう真面目に言われるとこれ以上画像を送ることも出来ず、諦めるしかない。
『はーい。もう送りません。その代わり今日こっちで会えない?やっぱり何百枚送ったところで分からないよね。うん。あの子の可愛いさは見なきゃ分からないと思うのよ?ねっ!会えないかな?一歳のお誕生日会もしようと思ってるの。一緒にお祝いして欲しいな』
『いや、なんでわざわざ俺なんだよ。別にパーティーするなら他の知り合い呼んでやればいいだろ?』
『···だって。ベルリースのお父さんだから』
『は?』
『だからベルリースのお父さんでしょ!娘に会いたくないの?』
『父親···って違う···いや、ゲーム内の続柄はそうだが···あれ?違わないのか?まぁ間違ってはいないが···。とにかく今日はなあ。』
『無理なの?』
『仕事が忙しい。』
『···そっか。じゃあ仕方ないね』
『だからってもう送るなよ?』
『分かってるよ!もし来れそうならベルリースに会いに来てね』
『約束はできないがまー考えとく』
そこで通話は終わった。正直物凄くがっかりしてる自分がいた。
『あーあ、来てくれると思ったのになぁ』
やっぱりスクショじゃいまいち可愛いさが伝わらないのかもしれない。次は動画に納めて送るべきなのではと検討違いな方向へと画策していくのだった。
◇◇◇
『ほーらベルちゃんご馳走だよー』
凡そ広いとは言えないキッチンに、ギリギリ四人くらいまでなら食事が出来そうなダイニングテーブルが置かれ、その上には物が置ける面積の許容をはみ出してまで料理が並べられていた。
幼児イスに座らされたベルリースは目の前のご馳走に目をキラキラと輝かせ、ついでに口からも光るものを垂らしていた。
『あらーベルちゃんすごいよだれ。もうちょっと待ってね後これだけ仕上げちゃうから』
ベルリースの口を優しく拭いてキッチンへと戻る。
これ以上テーブルに置けるスペースもないのに鼻歌まじりでフライパンを器用に振り、中の食材が極上の料理へと変わっていく。
もう一度大きくフライパンを振った時だった。客人の来訪を表すベルの音が部屋に鳴った。
――――誰も呼んでないんだけどなぁ?
持っていたフライパンの中身をお皿に移してキッチンに置き、はいはーいと軽く返事をしながら扉を開いた。
『どーも。お招きありがとう』
顔を見て一瞬固まった。そこには来れないと言っていたベルリースの父親である彼がいた。
『へ、あ。いらっしゃい!良くここが分かったね!』
『え、あー。人づてに聞いた』
―――え?
『あ、そうなんだ。どうぞ中に入って』
ここの拠点は誰にも教えてない。もちろんこの人にも。なのに知っていた。何故なのか気になる所だけど、この時はそんな事より来てくれた事が嬉しくてすぐにどうでも良くなってしまった。
『うわ、なにこの量。そんなに人呼んだの?』
『ううん。私達だけ』
『は?俺達二人だけ?』
『ベルリース入れて三人』
『いやいや待て、駄目だろ』
『なにが?』
『何って、俺一応男なんだけど。マズイだろ···』
『ゲームの中だしそんなの気にしなーい』
『気にしろよ!』
『いいのいいの。もう子供作っちゃった仲なんだし』
『おい!言い方!』
『あはは。お願い。せっかく来たんだから帰らないでぇー』
『はぁ。一時間だけだからな』
『いやったー!充分だよありがとう』
この時の事を私は忘れた事がない。
ゲーム内で殆ど数えるほどしか会ったことなかったのに。一方的に画像を時々送ってベルリースの様子を逐一報告してくる。彼にとってははた迷惑なプレイヤーだったろうに。彼は絶対手を離すような事はしなかった。いつもちゃんと返事をくれた。どうやったのか拠点まで探し当てて、忙しい合間を縫って来てくれたんだ。