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6 過去?

『いっやっったぁー!ついに、ついに寿命が限界突破したー!』


往来の目も気にせず大声でガッツポーズをする。その片腕には誕生したばかりの赤ん坊が大切に抱かれていた。

赤ん坊を透して見るステータス画面には寿命がない∞のマークが表示されていた。


『長かった。長かったよぉー。寿命をずっと長命になるようにして育ててたのに、短命の中でも一番短い寿命を一度経験しないと限界突破できないとか後から知って長命にしてたのに急遽短命にしなきゃいけないわ。短命だから七日で寿命くるしひたすら子供育てなきゃ行けないわ。大変だった。諦めようかと何度思ったか』


感動に打ち震えながら愛おしそうに赤ん坊の頬を撫でた。


『君が私の最後のアバターだよ。これからずーとよろしくね?』


寿命のない不老不死の赤ん坊。私が作り上げた最高のアバター。私は引き継ぎしないでずっと同じキャラで遊びたかった。最初こそ寿命の前に子供を作って引き継いでというのは面白かった。でもいつしか引き継ぎをするため、前よりも良い能力を持つために子供の内から無茶苦茶ハードな育成をするのが苦痛になっていった。けれど無情にも寿命は来てしまうわけで、やっぱり新しいアバターなら前よりも違う要素を取り込みたくなるし前とは違う遊び方をしたくなる。悩みながらも出来るだけ長く一つのアバターで遊べるように寿命が長くなるような作り方に自然となっていった。そんな時に寿命を伸ばすとその内死ななくなるという情報を知った。色々と調べていくと一度は最短命種七日を経験しなきゃいけないとか初期ステータスが、最低全部100を超えてなきゃいけないとか引き継いたアバター十人以上とかかなりハードな条件だった。

それでも私はずっと同じアバターで遊びたいと強く願い、ハードな条件のそれらをクリアしていった。


『これで君が大きくなって私になったら。次に作る子供は溺愛するんだ。今まであっと言う間に引き継いでたけど、今度からは目一杯可愛がって甘やかして一緒に冒険するんだ。楽しみでしょ?』


ただのデータでしかない赤ん坊を愛おしく抱きしめると我が家へと足を早めた。




◇◇◇




子供の成長は6段階あり誕生したての赤ん坊、一歳。次に三歳くらいの姿になり、五歳くらいの姿。それを過ぎると十歳くらいと急に成長し、次に成人の十六歳となる。

成長の速度は寿命などと関係するのだが、長命なほどランダムな成長速度になり短命なほど決まった日数で成長する。

七日しか寿命がない子は毎日成長していたので小さい頃を楽しむ余裕などなかった。


『引き継ぐ時って毎回不思議な感じなんだよね。小さい頃の自分を母親目線で覚えてるんだもの』


教会には2人の女性が立っていた。1人は虚ろな目をし、もう1人はしっかりと目に光が宿っていた。天使の石像の前には引き継ぎますか?という文面。はいっと押すと光に包まれ祝福という演出が入る。元のアバターは光と共にキラキラと消えていく。

残された女性がゆっくりと目を開けるとその目には先ほどにはなかった意思が宿っていた。


『これからずーと一緒だよ』


まだ真っ白な何色にも染まっていないアバターと共に、レベル上げに簡単なダンジョンを攻略してみたり、たまにはフレンドとパーティーを組んでイベントに参加してみたり、沢山の場所を沢山の思い出と共に歩いてきた。

他のフレンド達が飽きたり他のゲームへと移って行く中、いつの間にか古参のメンバーの一人になっていたり。

アードベルズの世界は変わらないのに回りはどんどん変わっていく。置いていかれたような取り残されたような、それでも私は遊び続けた。


『久しぶりに子供でも作ってみようかな。』


新しいプレイヤーとの出会いはあるけれど、仲の良かった昔のメンバー達が居なくなり気持ち的にも寂しくなっていた頃だった。

楽しかったのは自分だけだったのだろうか。考えるのも不毛なんだろうけど。あの頃は皆とても楽しかっただろうし、今は違うゲームを楽しんでいるだけなのに、アードベルズという世界を愛し過ぎた私には他に移る事も出来ず。ただサービスが終了するその時までずっといるつもりだった···。


初期に比べてプレイヤーの人通りが少なくなった大通りに何度も足を運んだその場所は、ずっと変わらずそこにある。


『いらっしゃいませ。種子提供ギルドではお好みのアバターを作ることができますよ。今日はどのようなご用でしょう?』


毎回同じことを言う受付嬢。私は彼女から本を受け取り開く。登録されているプレイヤー達の一覧をペラリペラリと捲っていく。


――――少ないなぁ。仕方ない、か···


昔は見るのも厳選するのも大変だった。寂しいなぁと心が感じてしまう。

ふと、一人のアバターに目がいった。魔族ベースの男性。見た目もステータスも悪くないのにやたらと種子金額が安かった。


『あの、このアバターなんでこんなに安いんですか?』


『あー!レベルが低いんですよ。他に特質した特徴も珍しい能力も持ってないですし。』


―――確かに特質した能力はないみたいだけど。すごく作り込まれてる。最初からこのステータスって。この子大切にされてる。


『この方にします』


『はい。では種子提供依頼を相手の方に送っておきます。返信が相手の方からありますのでそれまでお待ち下さい。24時間以内に相手の方から返信がないようでしたらもう一度お越しください。再申請、またはキャンセルさせていただきます。』


何度も聞いたその言葉に相づちをうち、ギルドを出た時だった。ピロンっとお知らせを告げる音が鳴った。


『種子提供についてチャットにて面接したい』


お知らせメールと一緒にチャットルームへの招待が同封されていた。私は迷わず招待の参加を決めた。昔は面接したいと言う話は良くあったから何も珍しい事でもなかった。大切に育てたアバターを変な人にあげたくないというのは良くわかる。寿命のないこの子の種子を欲しがる人はいるだろうけど、私は絶対誰にもあげたくかったから。


チャットルールへ参加しました。


『初めまして、よろしくお願いします。』


『初めまして。早速だけど、なんでこのアバターの種子が欲しいの?』


『この子がすごく愛されてるから!』


『は?』


『だから!このアバターにすごい愛を感じた!他の人には分かりづらいかもしれないけどずっと何代も大切に育てて来たんだなぁって、愛されてるって思ったの!』


『え、あ、そう。ふ····ちょ、ちょっとまって』


『あー!絶対笑ってるでしょう!』


『正解!ちょ、マジで腹いてー』


『ぶーぶー早く落ち着いてよー』


『ツボった無理』


『笑ってないでさっさと種子よこせー!』


『分かった。分かったって。そんなに俺のが気にいったんなら今のアバターで種子やるよ』


『くれるならなんでもいい!』


『じゃあ、大聖堂のある方の教会でこの後すぐ待ち合わせな』


『了解!』


チャットルールを退出しました。


―――――それが彼との出会いだった。





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