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3 1000年?解せぬ!

王都モナルダ。1681年建国。肥沃な大地で主に農作物がとても大きく美味!それらを使った絶品料理が食べられるお勧めの宿はこちら!観光するならここから行こう大規模麦畑!一面黄金で敷き詰められた風景と突如現れる巨大な風車は一度は見ておくべきでしょう!


「···なにこれ」


馬車で問題なく王都モナルダにたどり着き、検問で渡されたのはどう見ても観光マップ。観光からお土産にお勧めの宿、お城の紹介等々···


「世間知らずのおのぼりさんだってな!王都観光楽しめよ!」


門兵のおっちゃんはニカニカ笑いながら気前良く街へと送り出してくれた。


「おじさん···」


馬車のおじさんの口添えのお陰で、なんの問題もなく王都に入れたのだから感謝はしても怒るようなことは決してないのだけれど。


「解せぬ」


―――ちょっと言ってみたかった。


ふぅと一呼吸置いて見上げる王都の街並みはアードベルズでも見たことも行ったこともない風景なのに、何処か懐かしく古巣に帰ってきたような感覚を覚えた。



◇◇◇



まずは目に付いた宿を適当に三日ほど取り、部屋で折り畳まれた観光マップを広げた。


「建国1681年···」


――――アードベルズb版は902年から。正式リリースが938年。


現実時間で30日。一ヶ月で一年だった。

自分はb版はやったことがなく正式リリースの938年から遊びだした。

本当は915年という切りの良い数字の時にリリースされる予定だったのだが、直前で致命的なバグが発見されたとかで無期限延期。

それからテストプレイヤー達の協力のもと必死になって改善した結果リリースがゲーム内938年となったらしい。940年に合わせようかという話もあったらしいが開発側は早く公開したいという気持ちが強く切りの良い数字に合わせる話はなくなった。

待ち続けていたユーザー達にさらに2ヶ月もお預けするのは酷というものだ。

正式リリースが無事出来た時は物凄いお祭り騒ぎだったのを覚えている。


「最後のログインが···998年だった。1000年にはなってなかった。だって····」


――――約束守れなかった。1000年に一緒にお祝いしようって···


「ごめんね···」


アードベルズ1000年おめでとう記念日。通称千年イベ。

自分はそのイベントに参加することはなかった。


「見てみたかったなぁ」


ちょっぴり寂しく思いながらパン!っと両手で頬を叩いた。しんみりしている場合じゃないと己を叱咤する。


―――今って何年?


バン!と少し乱暴にドアを開けるとちょうどホウキで掃除をしていた宿の女性が驚いた様子で目を丸くしていた。


「い、今って何年ですか!」


「え、えぇと1999年ですよ?あー来年のお祭りの話ですか?楽しみですよね。今から何処の店も張り切って準備してますよ」


「ありがとうございます!」


バン!とまた乱暴に閉めると扉の向こうから変なお客さんねぇという声が聞こえた。

ズルズルと扉を背に座りこんで震える手を誤魔化すように指折り数えた。


「···約1000年?」


―――現実世界で30日。一ヶ月が一年。


「現実で私が死んでから80年以上たってるってこと?···なにそれ。」


―――怖い。怖いけど、泣かない。


「泣かないもん!」


目尻に溜まった涙を強く擦って拭い立ち上がった。

まだ泣かない。まだ何も分かっていないのだから、ただアードベルズの年数が分かっただけだ。


死して八十年。どう考えてもゲームは既にサービス終了している。そもそも1000年イベントがサービス終了前の最後のイベントでは?と言われていた。

ここに知っているプレイヤーはいない。いるはずもない。現実の何処にもいないのだから···



◇◇◇



翌日。オウムのように同じことを繰り返し言う声が部屋から聞こえていた。


「落ち込むなぁ。がんばれー大丈夫だ。ここは良く似た異世界でいい。もうそういうことにしとこう。ね?」


――――いったい誰に言っているのか···自分か。


しっかり立って前を歩いて行けるように自分に謎の暗示をかけるのであった。


謎の暗示のお陰か少し気持ちも落ち着いたので、今日は気分転換に観光することにした。

幸いお金に困ってはいない。この子で遊んでいた時間は長く、アイテム類もごっそり残っていたがそっと見なかったことにした。


「まずはお城かなぁ?」


宿から出ると観光マップを手に、街並みの隙間から見えるお城を目指す事にした。

せっかくなのだから楽しまなければ勿体ない!ゲームの中では街の建物を見るの好きだったなぁとゆっくりとした足取りで一軒一軒見て回った。

住宅街を抜け、商店が並ぶ通りを過ぎると視界がとたんに開けた。


目の前には荘厳なお城がそびえ立ち見る人を圧巻させた。


「うわー大きい。綺麗!いやぁ本物は違うなぁ!」


両手を広げてお城を抱え込むようなポーズで見上げる。


「ままーおのぼりさん!」


小さな子供が指差してこちらを見ていた。


「···。」


両手を広げたまま固まった。

ぷっと何処からか笑いを堪えるような声が聞こえ、クスクスと隠す気もなくこちらを見ている人までいる。行く人達が皆微笑ましく笑っていた。


――――うぅー。恥ずかしい。


「解せぬぅー」


―――おのぼりさんじゃないもん!



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