1.ここどこ?
一度は書いてみたかったネタ。色々と足りない部分はありますが、緩い感じで書いてます。
楽しんでいただけたら幸いです。
自分は死んだはず。というのがまず最初に頭に浮かんだ。
死因は分からないけれど、自分という存在はもうどこにもいない人としての生を終えたというのは紛れもない事実として自分の中に記憶されている。
死んだのは仕方ない。どんな理由でも一生をちゃんと終えたのだろうという気はしている。まあ、心残りが絶対ないというわけではないだろうけど、それなりに納得のいく人生だったのでそれは良しとしよう。
問題は···。
「なんで生きているの?」
それも明らかに肉体は若く身軽で、さらっさらの黒髪。それはもう見事なくらい艶々していて、お日様の光に輝いている。
これは転生とかいうやつだろうかと考えるけれど、何故このタイミングでなのだろう。今現在何処かの町中の通りを歩いている。
そうちょっと買い出しに、かは分からないけれどそんなノリで外を歩いていたら唐突に自分という存在が目覚めたというか舞い降りたという感じだ。
人の多い通りを抜けて、広場に出ると中央にある小さな噴水に腰かけた。
「頭痛い···そして記憶が断片的って、なにこれぇ」
今までの記憶がない。前世?か分からないけれどその記憶はあるのに、今存在しているこの子の記憶が断片的であやふや、切り取った写真のような場面しかなかった。
そしてないのは記憶だけじゃなく。
「私はだれ?」
名前も失っていた。
今のこの子の名前も、前世の自分の名前も分からない。
こちらの世界の記憶は断片的で今いる場所も分からない。
ー怖い。
「泣きそう···。親からはぐれた迷子の子供ってこんな感じかなぁ」
物凄く心細いけれど精神はしっかりした大人のはずなので、現状できる限りの情報を集めることにした。
地名や国の名称、この辺りの事を出店の人に聞いたり。持ち物から自分が誰か分かるような物がないか探したりした結果···。
「アードベルズ?」
その言葉が自然とこぼれるように声に出た。
アードベルズ。MMORPGゲーム。ファンタジーな世界観で人はもちろん天使から悪魔まで他のゲームなら課金しないと手に入らないようなアバターが最初から自由に作り込めて人気だった。
まず最初のアバターを作るのに何時間かかった?とか言う話はプレイヤー同士の定番になっていた。
その納得いくまで作り込んだアバター作成が終わるとチュートリアルが始まるのだが、それがイノンドの町。
今現在いるこの町の名前だったりする。
「まって、ゲームの中なの?え、だって私は死んだのよ?死んだんだって、なんで?どういうこと?」
死んだ時の記憶はない。
―――――ログインしたまま死んでゲームの世界に魂がデータ化されて書き込まれた?そんな馬鹿な話ある?
もし仮定として魂がデータ化してゲーム内に書き込まれたとしたら···サービス終了したらどうなってしまうのだろう。今いる自分という存在も消えてなくなるのだろうか。
ー怖い。
「まだそうと決まったわけじゃない。たまたま似たような世界に転生したとかかもしれないし」
自分で言ってて色々とあり得ないなぁそんな馬鹿なぁという思いが繰り返し巡ったけれど、確かに今存在してこの地を生きているのだろうから絶対にないと否定することもできないし、否定したらしたで今いる自分という存在そのものも否定しているような気がしてそれ以上考えるのをやめた。
「ここがアードベルズのイノンドなら···。《個人情報》」
言葉にした日本語は複雑な音となって紡がれた。
目の前にはザラザラと点滅し消えそうになりながら表示されるステータス画面。
名前が表示されているはずの場所はモザイクがかかったような表示のうえに文字化けして読めなくなっている。
「名前は分からないけどそれ以外は私が育てたアバターだと思う」
種族はハイエルフ?という表記になっており寿命は∞表記で永遠に死なないことを表している。
種族の?には覚えがないけれど、寿命には覚えがある。
このアードベルズというゲームには寿命と引き継ぎ機能が存在していて、アバターが寿命を迎えるその時に自分の子供にゲーム内で獲得した今までの能力やら権限が引き継ぎできた。
子供を得る方法は二つ。一つはプレイヤー同士の合意のもと教会にて神に祈りを捧げることで得る方法。この方法はウエディングベビーとプレイヤーの間では言われていて、仲の良いプレイヤー同士で行われていた。
もう一つは種子提供ギルド。プレイヤーは登録、種子提供するこで簡単に子供を得て引き継ぎができた。
やり方は登録されている親となる相手を情報欄から選び、表示されている金額を払うだけ。もちろん能力が高い相手ならそれ相応の金額になるわけだが。
相手のプレイヤーにはギルドから情報が通知され、提供するかしないかを選択することができる。提供して欲しいと望んでも相手に断られることもあるが、殆どのプレイヤーはこの方法で引き継ぎを行っていた。
この引き継ぎシステムは面白くて、自分と相手の容姿なども引き継がれる。所謂ハーフやクオーターなのだがそれが代を重ね色んな種族と掛け合わせる事で自分オリジナルの存在を作り出すことができた。
引き継ぎするにあたり能力より容姿を選ぶプレイヤーも多く存在したくらいだ。
そしてもう一つ。寿命。
掛け合わせ続けて長命にも短命にもすることができた。
つまりかつての自分は一つのアバターでずっと遊びたいが為に寿命をひたすら長命になるような引き継ぎを行い続けて、ついに無限、不死まで行き着いたのである。
最後の方はもう何がなんでもやってやるという謎の意地を張っていたけれど。
その事からハイエルフ?となっているのは不思議ではないのかもしれないがゲーム内では?などと表示されたりはしなかった。
引き継がれている種族の名前がご先祖様の十代前まで表記されていただけである。
「これって確実にバグってるよね···」
そもそもステータス画面が切れかけの電球のような点滅をし、辛うじて情報が見れる状態なのだ。
一つため息を落とすと表示されていた画面は掻き消えた。
「私の存在そのものがバグなんじゃ···」
身震いした。怖いなんてものじゃない。
存在自体がこの世界にとって異物でしかないのかもしれない。