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魂の記憶

作者: 河童の便ちゃん

声劇用台本。


盗作禁止以外の規約は特にありません。

峰岸:峰岸貴宏みねぎしたかひろ30代


篠宮:篠宮夏希しのみやなつき享年25歳


死神:魂の管理者


|以下本編|



篠宮:お願いします。


死神:後戻りは出来ないよ?本当にいいのかい?


篠宮:ええ…かまわないわ。


死神:僕としてはストックが減るから望ましくないんだけどね。


篠宮:…それでも私は、許せない。


死神:はぁ。わかったよ、それじゃあ見届けようか…結末を。


(間)


峰岸:嘘…だろ?なんだよ…これ?


峰岸(M):得意先の訪問を終え帰路に着いた矢先の出来事だった。見通しのいい通り…脇道も無く障害物も何も無い。見落とすことなんて有り得ない。なのに…


峰岸:何で人が倒れてんだよ?俺が…ねたのか?…そんな、馬鹿な…


峰岸(M):突然車に衝撃が走り、慌ててブレーキを踏んだ。そして視線を前に向けると、おびただしい量の血の海に女性が横たわっていた。俺は慌てて車を降り女性に駆け寄った。


峰岸:…ふざけんなよ…何だよ…何なんだよ?…意味わかんねえよ…死んでねえだろうな…


死神:いや…残念だけどその女性はもう死んでいるよ。峰岸貴宏君。


峰岸:っ!?……誰だ?


峰岸(M):背後から掛けられた声に振り向くと、そこには薄い笑みを浮かべた見知らぬ人物が立っていた。


死神:久しぶりだね。


峰岸:は?…誰だよお前?


死神:そうだね。僕も『峰岸貴宏』に会うのは初めてだ。


峰岸:何を訳のわからないことを…


死神:でも、魂が覚えている筈だよ…僕のことを。


峰岸:何が言いたいんだ!?見てわからないのか?今はふざけてる場合じゃないんだよ!


死神:ふざけてなんかいないよ。まあ、一応救急車は呼んだ方がいいかもね。緊急措置義務…だっけ?『私は助けようとしました』って姿勢見せておかないと印象悪いもんね。


峰岸:まだ死んだって決まってねえだろ!!


死神:死んでるんだよ…もう、10年も前にね。


峰岸:……は?


死神:篠宮夏希……知ってるだろ?君の会社の『元』同僚で、君が10年前に埋めた…


峰岸:っ!?…なん…で…?


死神:そこで倒れているのは、篠宮夏希だよ。死因は腹部を刃物で刺されたことによる失血死。…本来はね。


峰岸:…本来は?


死神:そう、今そこで倒れている篠宮夏希の死因は、内臓破裂による失血死だ。


峰岸:さっきから何を言ってるんだ!?訳のわからないことをつらつらと!道には誰もいなかった!突然現れたんだ…俺は何もしていない!


篠宮:俺は何もしていない?…よくそんなことが言えるわね。この人殺し。


峰岸:なんだと……っ!?……篠…宮…?……ははっ……なんなんだよ?もう訳わかんねえよ…何がどうなってんだよ?


篠宮:アンタに復讐する為に帰って来たの……人を殺しておきながら捕まりもせず、のうのうと生きてるアンタを、地獄に叩き落とす為にね!


峰岸:っ、それは!!……そんなこと出来る訳が…


死神:出来るんだよ。僕の力を使えばね…


峰岸:さっきから煩いんだよ!誰なんだ、お前は!?何を知っているっていうんだ!?


死神:僕は全てを知っている。そして、君も僕を知っている筈だ。言っただろう?魂が覚えている…と。


峰岸:何が魂だ…俺はお前なんか知らないし何もしちゃいない!


篠宮:はぁ…話にならないわね。いい加減認めたら?アンタは人殺しなの。10年前浴びせられた言葉を今アンタに返してあげようか?『地獄に落ちろ』って。


峰岸:…っ!…それは違うっ!!


篠宮:あー、言い訳とかいらないから。…ハッキリ覚えてんのよ、朦朧とする意識の中で、アンタの吐いた言葉を!アンタの声を!…だから私は、魂を引き換えにアンタに復讐しに来たのよ!


峰岸:魂を…引き換え…?…何を言ってるんだ?


死神:…少しは話を聞く気になったかい?


峰岸:……。


死神:それじゃあ、先ずは自己紹介しようか。僕は魂の管理者…まあ、イメージしやすい言い方をするなら死神かな。


峰岸:…死神…って…そんな話信じられるかよ…。大体死神だって言うなら、何でこんな手の込んだ真似するんだ?さっさと俺を殺せばいいだろ?


死神:誤解があるようだけど、僕は死ぬ人の出迎えなんて面倒な真似はしないよ。死んだ人の魂が僕の元に返って来るのさ。僕はその魂を新たな器に入れて転生させている…ただそれだけだよ。


峰岸:だったら何故俺の前に現れたんだ、俺はまだ死んじゃいないだろ。


死神:そう、本当はこんな面倒なことはしないんだけどね…。この、篠宮夏希の魂が悪霊化しそうでね。


篠宮:コイツを野放しにしたまま成仏して転生なんて…そんなこと認められるもんですか…。絶対に許さない…


死神:…はぁ、話を続けるよ。魂っていうのは、本来は失った器の記憶を取り除いて次の器へと入るんだ。でも、生前に強く刻まれた記憶というのは消しきれない物があってね。正に『魂に刻まれた記憶』っところかな。あるだろ?食べたことがない筈なのに懐かしい味とか、来たことない筈なのに懐かしい景色…とか。そしてそれは、強い怨みも同様なんだ。


篠宮:そうよ…忘れてたまるもんですか…。逆恨みで殺されて…殺した当の本人は何事も無かったかのように生き続けて…。…まだ25歳だったのよ?やりたいことだって、まだまだ沢山あったのに!何で私が死ななきゃいけなかったのよ!?何でアンタが生きてるのよ!!


死神:こういう魂はね、次の器に入れられないんだよ。時間をかけて怨みが晴れるのを待てればいいんだけど、中には悪霊になってしまう魂がいてね。


峰岸:悪…霊?


死神:そういう悪霊は他の魂を喰らってしまう。そして、悪霊に喰われた魂は消滅する。そうさせない為に手を打たなきゃいけないわけだ…


峰岸:それが、復讐ってことかよ…


死神:ご名答、悪霊化する前に怨みを晴らさせて魂を浄化する。悪霊化してしまった魂は強制消滅させるしかなくなってしまうからね。


峰岸:…おかしくないか?…篠宮は魂と引き換えに復讐に来た、と言ったよな?怨みを晴らして浄化するなら『引き換え』というのは違うんじゃないか?


死神:中々鋭いね。そう、怨みを晴らすには魂を削る必要があるんだ。生命の死には2段階あってね、1度目は器の死、そして2度目は魂の死。器を持たない彼女は魂を器へと変化させ、君の前に差し出すことで死を誘発させた。


篠宮:そうよ、アンタは私を()ねて殺したの!これで今度こそアンタの罪は白日の元に曝される!…ふふっ、あははははは!……あぁ、そうだ…消える前に、私から最後のプレゼントをあげるわ…(峰岸にキスをする)


峰岸:…っ、……やめろっ!……っ?…なんだ?…急に身体が…火照って…


篠宮:ふふっ…気持ちいいでしょう?祝杯よ。


峰岸:祝杯…だと?……ま、まさかっ!?


篠宮:あら、本当に鋭いのね。そう、立派な酒気帯び運転。そして死亡事故。よかったわねぇ…惚れた女の唇の味を噛み締めながら極上の刑務所生活を送るといいわ!


峰岸:そんな…バカな…


死神:さあ…これで篠宮夏希の復讐は完了だね。埋めた遺体も消したし、ドライブレコーダーにも篠宮夏希の姿を映りこませた。状況証拠は完全に揃っている。行方不明扱いの篠宮夏希は、今、ここで、君に殺されたんだ。


篠宮:悪く思うも何も無いわよね?私にフラれた腹いせにストーカー紛いのことした挙げ句、逆恨みして私を殺したんだもの。一生惨めに過ごすといいわ!


峰岸:……違う……違うんだ……


篠宮:何が違うのよ!!まだ自分の罪を認めないって言うの!?


峰岸:…確かに俺は10年前、人を殺めた……でも、君じゃない…


篠宮:…はぁ?何言ってるのよ?


峰岸:あの日…商談が長引いて、俺が事務所に戻った時には誰もいなかった。1人で書類を整理していたら外から女性の叫び声が聞こえて、何事かと見に行ったら…ボロボロにされ腹にナイフを刺された篠宮と見知らぬ男がいた…。


篠宮:…え?


峰岸:確かに俺は、篠宮が好きだった…告白してフラれもした…でも、俺はストーカーなんてしていない。篠宮がストーカー被害にあっているという話は耳に入っていたからすぐにピンときた…『こいつがストーカーだ』って。そしたらもう、頭に血が登って俺はそいつに殴りかかってたよ。


篠宮:…嘘……嘘よ!


峰岸:揉み合いになってる内に俺は篠宮に刺さっているナイフを抜き取り…そいつを刺していた。『地獄に落ちろ』と言いながらね…。


篠宮:じゃあ…私が聞いた声は……その時の…?


峰岸:篠宮にまだ息があるなんて思いもせずに…俺は…怒りに身を任せてしまった。もしあの時、君を助けることを優先していたら…君は死ななくて済んだのかもしれない。でも…我に返ると怖くなって…ストーカー野郎と一緒に…君を…


篠宮:そんな……それじゃあ…私は…一体何の為に…魂を懸けてまで…


死神:さあ、そろそろ時間だよ…篠宮夏希。転生の()から外れた君の魂は間もなく消滅する。


篠宮:待って!私はまだっ…


死神:これが君の望んだ結末だ。言った筈だよ…後戻りは出来ないと。


篠宮:っ!?…まさか…アナタ全部知って…


死神:時間だ…


篠宮:嫌っ!こんなの…こんなのって!!…峰岸さん…ごめんなさ……


死神:浄化…終了。さて、それじゃあ僕は帰るよ。峰岸貴宏…器が壊れたら、また会おう。


峰岸:…待てよ…死神よぉ……満足かよ…これで…


死神:ああ。悪霊化を防いだ、魂のストックの損失は最小限で済んだからね。


峰岸:そうかよ。俺が『器』とやらを失ったらよ……テメェへの怨みを魂に刻んで会いに行ってやる…覚えとけ…


死神:君も転生のから外れることを望むのかい?峰岸貴宏。


峰岸:それで篠宮に詫びに行けるなら…本望だ。


死神:愚かだね。転生のから外れた先は消滅…無の世界だ。肉体も、感情も、何も存在しないよ。


峰岸:そんなクソッタレたに流されるくらいなら…俺は、消滅してでも篠宮と同じ場所を選ぶ。


死神:なら、次に会うときが本当のお別れになりそうだね。


峰岸:絶対に…絶対にテメェのツラ、忘れねえからな。


死神:そう…それじゃあ、その時まで『さようなら』



おしまい




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